見出し画像

【超短編】第10話 ハサミの手

日曜日の午後、キッチンでレトルトカレーをご飯の上にかける。空になったパウチをゴミ箱に捨てようと思ったら、手を滑らせてパウチがシンクに落ちた。

なんとなく、シンクに落ちたパウチを素手で触りたくなかった僕は、何か代わりにつかめるものがないかと探した。右手にパウチを切るときのキッチンバサミを持っていたので、僕はそのハサミでパウチをつかもうとした。

ハサミの切れ味が良いのか、パウチの素材が弱いのか、つかもうとするとハサミによってパウチに切れ込みが入るだけで、つかめない。何度か繰り返すが、パウチがどんどん切り刻まれていくだけだ。

ふと、『シザーハンズ』という映画を思い出した。ハサミの手を持った人造人間が、人間の女性に恋をする。しかし、彼は彼女に触れることはできず、逆に傷つけてしまう。
 
僕は何度も何度も、優しい力を込めて、キッチンバサミでパウチをつかもうと試みたが、やはり無理だった。
僕はハサミを置き、そのボロボロになったパウチを指でつまんでゴミ箱にすてると、カレー皿をテーブルへ運び、カレーを食べた。

カレーはまだ十分に熱かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?