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異世界転生転生

 死後、一つの望みのチカラを得て好きな異世界へ転生出来るというサービス「リンネ.com」を巡る大規模な汚職及び契約違反発覚は全世界を揺るがす大事件へと発展した。
 リンネ.comは最初はネット上の噂として、やがては企業サービスとして、更には国の公共事業になり、ついには国連機関へと昇格を果たした。ローマ法王のお墨付きが出た効果で最盛期には一日約1000万人が転生の旅路へとついたそうだ。国ぐるみで〝転生剤〟を配り効率的に国民を異世界へと送り出したところすらあった。最初は任意だったはずの自然死時の転生もやがては義務となり、転生期限年齢はどんどん引き下げられていった。人類の1/2が異世界で勇者だか賢者だか魔物だかになった結果、あらゆる人口に起因する諸問題が解決し、現世は相当暮らしやすくなった。
 そんなタイミングで発覚したのが「実は選べる筈の異世界は1つしかなく全員がそこに送られていた」という事実である。
 あらゆる国の政府が総辞職し、人類は転生を二度と起こさないためにあらゆるトラックを廃車にし、リンネ.comは解体された。戦争寸前にまでなったが、戦争をやるだけの人類の頭数が足らなかった。
 俺は幸運にも転生せずに現世に留まれた、当時の所謂「ラッキーチルドレン」世代である。親は俺を産んだ後さっさと転生してしまったのだが。
 転生調査委員会の報告によると、人類が騙されて送られた異世界「ヘルガルド」は岩と砂しかないまさに地獄の様な世界であり、幾らチート持ちの勇者たちでも生き残るのは厳しいだろうということだった。俺は両親の顔すら知らないが、ざまあみろと思った事は覚えている。
 何故こんな事を思い返したかというと、産まれたばかりの俺の娘が突然喋りだしたからだ。
「ああ、私の可愛い坊や! 覚えてる? お母さんよ!」
 と。
 そう。彼らが、再び帰ってきたのだ。
 異世界でレベルを上げ、昏い復讐心を育てた勇者や賢者や魔物達が——。

【続く】

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