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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について【アジア】

 この記事は法務省HPに掲載されている「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」の【アジア】をnoteに転載したものです。

第1 インド¹²

1 離婚後の親権行使の態様

 離婚後は,原則は単独親権である(判例)。なお,共同監護を認めた判例もある(2013年カルナカタ高等裁判所判決)。

2 子がいる場合の協議離婚の可否

 子がいる場合にも協議離婚が認められている(判例)。

3 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 面会交流については,離婚時に取決めをすることが義務付けられている(判例)。

⑵ 面会交流の支援制度
 公的機関による面会交流実現のための支援制度はない。

4 居所指定

 監護親が転居する場合には,他の親に対して通告をし,子の監護や面会交流に影響が出ないようにする必要がある(判例)。

5 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 養育費支払については,離婚時に取決めをすることが義務付けられている(判例)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 公的機関による養育費支払実現のための支援はない。

6 嫡出でない子の親権

 父が婚外子について認知した場合は,母と共同で親権を行使する。

¹² インドの家族法は,宗教法(ヒンドゥー教徒家族法,ムスリム家族法,キリスト教徒家族法,パールシー教徒家族法,ユダヤ教徒法)及び慣習法から成り,多様なものであるようである(「インド家族法(2017-18年版)(1)」戸籍時報761号13頁以下)。

第2 インドネシア

1 離婚後の監護の態様

 両親は,離婚後も共に親権(インドネシアでは,「養育権」,「養護・教育を施す義務」等の用語で規定されているが,本報告書においては,以下においても「親権」と記載する。)を有し,親は子の法律行為を代理する。
 しかし,インドネシア児童保護委員会(KPAI)が扱っている多くのケースでは,養育している親が子に関する事項を決定し,共同で親権を行使することはまれである。共同で行使する場合も,片方の親がより支配的地位を占めており,父母の間で合意に至らない場合には,支配的地位にある親は, その地位を更に強化することを求めることができる。他方の親は,生活費の負担や限られた親権を行使するのみである。ここでいう「支配的地位を占める親」とは,多くの場合,「より経済力のある親」を意味する。
 また,離婚問題に関して父母のいずれかの過ちがより大きいということがない場合には,子の名字が判断材料の一つとして利用され,父方が親権を得 ることが多い。

2 離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

 基本的に片方の親がより支配的な権限を与えられるが,最終的には,全ての離婚に関する問題は裁判所によって決定される。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 インドネシアでは,双方の同意に基づく離婚は認められておらず,全ての離婚に関する問題は裁判所によって決定される。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に取決めをすることは義務付けられておらず,判決において言及された場合にのみ義務が生じる。

⑵ 面会交流の支援制度
 通常は国の介入なしに行われ,特定のケースについて裁判所書記官に支援を求める。妨害が存在する場合は,警察や他の法的機関の援助を求めることがある。

5 嫡出でない子の親権

 婚姻に関する1974年法律第1号第43条によれば,婚外子は,母親及び母系の家族とのみ民事上の関係を持つこととされている。しかし,同条項は,2012年2月17日に憲法裁判所により無効とされた。もっとも,代わりとなる条項は未だ制定されていない。憲法裁判所は,生物学的親子関係が立証されれば,父にもまた責任が生じるとしている。

第3 韓国

1 離婚後の親権行使の態様

  • 2012年4月13日の大審院判決により,共同親権が許容されて以降, 両親の同意により,共同親権・単独親権,さらには共同養育など多様な形態を定めることができることとされている。裁判離婚においては単独親 権の指定を原則としているが,協議離婚(韓国における協議離婚は,後記 3のとおり,裁判所が夫婦の離婚意思の確認をする点で日本のそれとは 異なるが,本報告書においては,以下においても,「協議離婚」と記載する。)においては共同親権とする事例が相当数ある。

  • 単独親権でも,共同親権でも,親権の効力には変更がない。

  • 両親は,離婚に際して,子の養育に関する事項(養育者,養育費,面会交流に関する事項)及び親権者に関する事項を決定しなければならない。

① 協議離婚の場合(後記3も参照)
 協議離婚において,子の養育事項についての両親の協議の内容が子の利益に反するとされる場合は,家庭裁判所は両親に協議事項についての補正を命じることができ,両親が補正命令を受け入れない場合には,裁判所は職権で子の養育に関する事項を定めることができる(民法第837条第3項)。また,養育に関する事項の協議が行われず,又は協議をすることができないときには,家庭裁判所は,職権又は当事者の請求により, これらの事項を決定する(同条第4項)。
② 裁判離婚の場合
 裁判離婚においては,家庭裁判所は職権又は当事者の請求により,養育に関する事項を定める。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  • 離婚時にあらかじめ紛争解決方法を決定している場合には当該決定に従って解決する。

  • 個別の紛争が生じるたびに裁判所が具体的な事案について判断することも可能である。具体的には,離婚時に定めた養育に関する事項について紛争が生じる場合は養育に関する処分の変更請求(民法第837条第5項),親権について紛争が生じる場合は親権者の変更申請(同法第909条第6項)に基づいて,家庭裁判所が変更又は適切な処分をすることができる。

  • 家庭裁判所の家事調査官が,裁判長等の命を受け,当事者又は事件関係人の家庭状況等の調査を行う(家事訴訟法第6条)。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 子がいる場合も,協議離婚は認められている(上記1参照)。ただし,協議離婚についても,裁判所が夫婦の離婚意思の確認をしている。
 すなわち,協議離婚においても,離婚意思確認申請と同時又は離婚意思確認期日¹³までに子の養育に関する事項(養育者,養育費,面会交流に関する事項。以上民法第837条第1項,第2項)及び親権者決定に関する協議事項を家庭裁判所に提出しなければならない(同法第836条の2第4項)。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に,面会交流を含む養育事項について取決めをすることが義務付けられている(詳細は上記1参照)。

⑵ 面会交流の支援制度
 ア 父母の教育
  協議離婚の場合には,協議離婚の申請が受け付けられ,協議離婚の案内と子女教育案内に参加した日から3か月の熟慮期間経過後に,協議離婚意思確認期日が開かれる。家庭裁判所は,子女教育案内(父母教育)を義務的に受けさせ,離婚後の子女教育と面会交流のために相談を受けるように勧告している。
 イ 面接交流センター
  ソウル・光州・仁川の各家庭裁判所に面接交渉センターが設置され,センターの外部専門家の相談等を通じて,葛藤を減らし,家族構成員の自立を手助けすることとし,子が両親と面会交流をすることを確保し,子の適応と発達を図り,福祉を向上させるようにしている。

5 居所指定

 特別な規定はなく,親権の一内容に居所指定権が含まれているということに基づき転居の通知等の必要が生じる。
 離婚後の養育者と親権者とが異なる場合において,養育者が転居をするときには,親権者の同意を得る又は通知を行う等の必要がある。
 また,離婚後,両親共に親権者である場合において,養育者が転居をするときには,共同親権者間で協議をする必要がある。

6 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に,養育費を含めて,子の養育に関する事項について取決めをすることが義務付けられている(上記1参照)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 以下のように,様々な法律,制度が用意されている。
 ア 養育費確保のため「養育費履行確保及び支援に関する法律」が定めら れている。
 イ 「養育費履行管理院」が,養育費関連の相談,養育費請求及び履行確 保等のための訴訟支援等の業務を担当している。
 ウ 一時的養育費緊急支援制度により,養育費未払のために子の福利が害されるおそれがある場合には,一時的に養育費の緊急支援がされる。

7 嫡出でない子の親権

 父が子を認知した場合には,父母の協議で親権者を定める。その場合,単独親権・共同親権のいずれも可能である。

¹³ 通常は,家庭裁判所に離婚意思の確認を申請して離婚に関する案内を受けた日から1か月経過後であるが,養育すべき子がいる場合には3か月になる。

第4 タイ¹⁴

1 離婚後の親権行使の態様

  • 共同親権・単独親権のいずれも許容されている。

  • 親権を有する者は,子の居住地の決定,しつけ及び労働の要求,子を不法に拘束する者からの返還要求に関する権利(民商法典第1567条)並びに子の財産管理権を有する(同法典第1571条)。共同で行使する親権の範囲は,当事者の合意又は裁判所の決定による。

  • 具体的な親権者・養育者の決定方法は,協議離婚と裁判離婚とで異なる。
    ①  協議離婚の場合
     親権行使に関して書面による合意を行い,合意がされない場合には, 裁判所が決定を行う(同法典第1520条第1項)。合意内容は,養育者及び養育費である(同法典第1522条第1項)。合意がされなかった場合は,裁判所が養育者及び養育費を決定する(同法典第1520条 第1項)。
     親権行使は,両親間の合意に従うことになる。当該合意は各地区役場において登記され,関係者が当該合意に従わない場合は,訴訟を通じて解決が図られる。
    ② 裁判離婚の場合
     裁判所が子の幸福及び利益を考慮して,親権に関する決定を行う(同条第2項)。少年・家庭裁判所が,調停によって,子の居住地を含めて両親の双方を合意に導き,当該合意を踏まえて,裁判所が決定を行う。子の養育者及び養育費の額については,裁判所が決定する(同法典第1522条第2項)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

 面会交流や養育費に争いがある場合には,次の二つの方法で対応を行う。

⑴ 訴訟による解決

  •  離婚時の合意又は裁判所の決定に従わない場合には,訴訟による解決を図る(上記1参照)。 親権の共同行使について,両親の意見が対立する場合には,裁判所が, 当事者からの申立てにより,どちらが子の利益になるのかという観点 から判断を行う。

  • 裁判官の判断を補助するような専門家・スタッフを関与させる制度はない。

⑵ 児童保護法第39条による解決
 両親の一方は,社会開発・人間の安全保障省(児童の保護に関して権限を有する機関)に通告をし,同省の職員は,(ⅰ)子に対する非合法な取扱いをしていると疑われる親に対して,助言や警告を出すこと,(ⅱ)親が助言や警告に従わない場合には,当該親を召喚して履行保証(a bond of performance)に服させ,一定の保証金を納付させること,(ⅲ)履行保証に反して履行しない場合には,保証金を没収して,子の養育のために他方の親に支給することができる。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 子がいる場合も,協議離婚は認められている(上記1①参照)。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 面会交流は,「状況が適当と認められる」場合に限り認められる。面会交流の内容について,離婚時に取決めをすることを義務付ける法律の規定は存在しないが,実務上,離婚時に当事者間の合意又は裁判所の決定が行われる(上記1も参照)。

⑵ 面会交流の実現のための支援制度
 公的機関による支援制度は存在しないが,合意又は裁判所の決定が守られない場合は,訴訟による問題解決を図ったり,児童保護法第39条に基づき社会開発・人間の安全保障省への通告が行われたりする(上記1及 び2参照)。

5 居所指定

 同居親が転居を非同居親に通知する義務等については,民商法典上の規定は存在しないが,離婚時の当事者の合意又は裁判所の決定があれば,その内容に従う(上記1参照)。

6 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に取決めをすることが義務付けられている(上記1参照)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 公的機関による支援制度は存在しないが,合意又は裁判所の決定が守られない場合は,訴訟によって問題解決が図られたり,児童保護法第39条に基づき社会開発・人間の安全保障省への通告が行われたりする(上記1及び2参照)。

7 嫡出でない子の親権

 婚外子については母が単独親権者となるが(民商法典第1546条),父が子として届け出たとき,又は裁判所が父の子と認める判決をしたときには,父母が共同で親権を行使する(同法典第1547条)。

¹⁴ ヴィチャ・マハクン(大川謙蔵訳)「タイ家族法(2017-18年版)⑶」戸籍時報 764号2頁以下に条文の邦訳が一部掲載されている。

第5 中国

1 離婚後の監護の態様

 子に対する権限及び義務は,離婚によって変更を生じない。理論的には, 父母の離婚後も,父母が監護教育権及び財産管理権の双方を共同行使する。 父母は子の「監護者」とされ,「監護者」の責務は,被監護者を管理,教育し,被監護者に代わり民事活動を行い,その人身権,財産権及びその他の合法的権益を保護することとされる。

2 離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

 個別の紛争が生じるごとに,裁判所が具体的事情を考慮して判断する。

3 共同親権行使における解決困難な事項

 子に疾病があるなど,父母双方が養育に消極的な態度である案件は,調整が非常に困難である。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 認められる。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 取決めをすることは義務付けられているが,離婚と取決めの先後関係について特段の規定はない。

⑵ 面会交流の支援制度
 父母は,社区居民委員会(地域に設置される住民による自治組織),警察署,全国婦女連合会等の組織や機構の支援を要請することができる。

6 居所指定

 転居制限はない。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 取決めをすることは義務付けられているが,離婚と取決めの先後関係について特段の規定はない。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 父母は,社区居民委員会,警察署,全国婦女連合会等の組織や機構の支援を要請することができる。

8 嫡出でない子の親権

 その父母が親権を行使する。婚外子と嫡出子とで法律上の取扱いに差異はない。

第6 フィリピン

1 離婚後の監護の態様

 親は,子に対する監護教育権,財産管理権及び法定代理権を有し,父母の 婚姻関係解消後も双方が親権を持ち続ける。子がどちらか一方の親と共に生活していても,生活していない親も親権を有する。

2 離婚後の監護についての両親の意見が対立する場合の対応

 基本的には父側の意見を尊重するが,裁判所が調整するケースも存在する。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 認められていない。キリスト教の影響から離婚制度が存在せず,婚姻関係を解消する制度(Annulment of marriage)しかないが,同制度には必ず裁判所が関与する。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に取決めをすることは義務付けられていないが,通常は裁判の際に面会の頻度について裁判官が判断する。

⑵ 面会交流の支援制度
 面会交流に関する公的機関の支援は特にない。ただし,虐待や育児放棄を受けた子に関しては,社会福祉開発省職員が面会交流に関する支援を行っている。

5 居所指定

 特に制限はない。

6 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 義務付けられてはいない。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 公的機関からの支援はない。


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