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4.育児への父親の関与/共同育児が両親に与える成果 共同育児、育児への父親の関与と家族のウェルビーイング

本書はイギリス政府平等局Government Equalities Officeの冊子「Shared care, father's involvement in care and family well-being outcomes」(2021.1)
文献レビュー
調査報告書作成者:社会政策学部、チョン・ヒジュン、
ケント大学社会政策・社会学・社会調査学部
の翻訳です。60ページほどの冊子なので、章ごとに記事にして公開していきます。この記事は、「第4章」です。

共同育児および母親のストレスとウェルビーイングの成果

まず、父親よりも寧ろ母親、特に働いている母親の方が、多くの女性が依然と従事している仕事と家事育児のダブルシフトにより、子育てに起因するストレスの増加を一般的に経験していることに注目する必要がある(Hochschild and Machung, 1989)。子どもを持つことは、社会的統合がより拡大するなど、多くの大きな利益をもたらすにもかかわらず(Nomaguchi and Milkie , 2003)、親になることで、自分のウェルビーイングに負の影響を与えることがある。親になることの最大の負のアウトカムの1つは、子どもを育てるには膨大な時間、注意、エネルギーを必要とするため、親が経験する時間的プレッシャーが増大することである(Pollmann-Schult, 2014)。加えて、子どもがいることで、やらなければならない家事の量が増え(Bianchi et al., 2000; Nomaguchi and Milkie, 2003)、既に存在している時間的プレッシャーを助長し、その結果、親のストレスをエスカレートさせる(Ruppanner et al.,2019)。既定の事実として、育児と家事労働の責任は一般的に母親にあるため(Taylor and Scott, 2018)、育児と仕事の義務によってウェルビーイングに負のアウトカムを経験しやすいのは母親、特に働いている母親である(Pollmann-Schult, 2014; Deater-Deckard and Scarr, 1996)。例えば、イギリスの縦断的家庭パネル調査「社会の理解」を用いた最近の研究では、一般的に母親は子どものいない女性よりもストレスを感じやすいことが示唆されている。彼らの研究では、個人のストレス認識ではなく、11種類のバイオマーカーに従ったより客観的なストレスの測定方法を利用している。この方法を用いて、2人の子どもがいるフルタイムで働く母親は、子どもがいないフルタイムで働く女性よりも約40%ストレスが高いことが見出されている(Chandola et al.)。オーストラリアのデータを用いて、Ruppanner et.al.(2019)は、子どもの誕生後に親がどのように時間的プレッシャーを経験するかを示し、母親が父親よりもプレッシャーを感じていることを実証している。子どもが1人いる両親に関するメンタルヘルスのアウトカムは、時間の経過とともに改善されるが、母親は2人目の子どもが誕生すると、その影響がより長く続き、メンタルヘルスの悪化につながっている。しかし、彼らは、家事と育児の責任の大きさによっては、負の影響の大きさが緩和されることに着目している。言い換えると、家事を多くこなし、主として子どもの世話をしている母親は、こなす家事の量が少なく、母親本人以外と同等以上の世話をする人がいる母親と比較して、出産(特に2人目の出産)後、さらに大きな時間的圧力を感じている。このことは、家事労働をより平等に分配することで、女性が子育て中に経験する負のウェルビーイングのアウトカムを減らすことができるという証拠を提供している。
国レベルでも同様の結果が見られ、子どもの世話をする親の負担を軽減することで親のウェルビーイングが向上することが研究により示唆されている。例えば、Glasset et.al.(2016)は、子育てと幸福度の関係を見出するためOECD22カ国にわたるデータを調査している。その結果、親になることは幸福度の低下につながるが、これは普遍的な経験ではないことがわかった。手厚い休暇や公的な保育など、働く親へのサポートが充実している国では、親の幸福度が下がることはなかった。同様に、Schober and Stahl(2016)は、ドイツでフルタイム保育が拡大した結果、母親が家庭生活、そして人生全体への満足度を高めたことを紹介している。この研究は、親の育児義務を軽減することが、親のウェルビーイングを向上させる可能性があることを示す、更なる証拠を提供している。このレポートに関してより具体的に言えば、父親が家事や育児の負担を軽減するために母親をより支援する共同育児は、母親のウェルビーイングの向上やストレスの軽減に役立つことも期待できる。
同様に、親は、育児と家事の分担という理想的なシナリオが満たされないとストレスが上昇し、その結果、親のウェルビーイングに負の影響を与えるという研究結果もあります(Milkie et al., 2002)。Milkie et.al. (2002)は、米国の異性婚カップル234組のデータを用いて、理想の育児シナリオと現実の育児分担を比較し、その不一致が親のストレスレベルにどのような影響を及ぼすかを検証している。研究者たちは、子どもの躾、経済的支援、遊び、日常的な世話、感情的な活動、子どもの活動の監視といった分野を網羅する一連の質問を通じて、認知された理想的な育児を測定した。加えて、このような仕事を実際に行っているのは誰なのかを記録した。驚くべきことに、殆どの親が平等主義的な育児分担を望んでいることを表明した。男性と女性の90%以上が、両親がしつけ、遊び、感情的なサポートの提供、子どもの監視を行うべきであることに同意しました。一方、男性と女性の4分の1以上は、母親が子どもの日常的な世話に責任を持つべきであると信じており、男性と女性の3分の1以上は、父親が子どもの経済的支援に責任があるべきであると信じていました。ただし、このデータは1999年に収集されたものであり、これらの理想型はこの間に変化していると考えられることを考慮に入れる必要がある(Brenan, 2020)。実際の育児の実践を見ると、理想型に比べて、その分担はあまり均等ではなかった。特に、記載されている育児の大部分を実行したと言う可能性が高い母親の場合がそうだった。更に、特に遊びや躾の面で、父親の関与が、母親が望むよりも少ない場合、母親はよりストレスを感じやすいことがわかった。逆に、父親が子どもと遊ぶという点で、父親が抱く理想以上に関与していると感じた場合、父親自身のストレスは有意に低下していた。この結果からも、特に育児のある分野での不平等な役割分担は、母親のストレスを高める可能性があり、特に親がより平等な役割分担を望んでいる(この論文によれば、殆どの親が望んでいる状況)場合、その傾向が顕著であることがわかる。この研究の限界は、実際の育児分担の認識が自己報告に基づいていること、つまり、父親と母親が違う仕事をどの程度分担しているか、していないかについて、殆ど意見が一致していないことである。更に重要なことは、本研究の目的上、このデータでは、父親が行う活動の頻度やタイプを区別することができないことである。
Nomaguchi et al. (2017) は、米国ベースのパネルデータを用いて、父親の関与のタイプを区別することで、この限界をいくらか克服している。このデータは、幾つかのタイプの家族に関する情報を提供し、父親の育児への関与が母親のストレス軽減にどの程度役立っているかを検証している。ここでいうストレスは、母親が以下の記述にどの程度同意しているかで測定される。(a) 「親になるのは思ったより大変だ」、(b) 「親としての責任に追い詰められていると感じる」、(c) 「子どもの世話は、楽しみよりもやらねばならない事の方が多い」、(d) 「子育てに疲れ、消耗し、疲弊していると感じることが多い」。父親の関与は、父親が子どもにした事、即ち、遊び、読み聞かせ、歌を歌うなどの情操を育む活動への関与の度合いによって測定され、関与の頻度を週0日から週7日までの回答で分けている。父親が子どもに関わる家事を分担しているか、例えば、子どもが何かする必要があるときに父親が世話をしたり、子どものために用事を済ませたり(例えば、店から物を取ってきたり)、子どもが行く必要のある場所(例えば、デイケアや医者)に連れて行ったりする頻度を、全くしない、ほとんどしない、時々する、しばしばする、の4段階で測定した。そして最後に、父親の協調的な共同子育てでは、パートナーが様々な問題で父親を頼りにしていると感じる程度を測定したが、その項目には、以下のようなものがある。(a) 「(父親)は(子ども)と一緒にいるとき、子どもにとって望ましい父親のように振る舞ってくれる」、(b) 「(父親を)信頼し、子どもの世話を十分に任せることができる」、(c) 「あなたが(子ども)のために作ったスケジュールやルールを尊重してくれる」、(d) 「あなたが望むやり方の子育てで支援してくれる」、(e) 「(父親とは)子育てで出てきた問題を話し合うことができる」、(f) 「数時間、誰かに(子どもの)世話をしてもらわねばならない場合に、(父親)を頼ることができる」。著者らは、特に同棲しているカップルの場合、子どもに関わる家事に対する父親の関与と実行が母親のストレスを有意に低下させることを見出した。しかし、協調的な共同子育てに対する認識が母親のストレスに影響を与えるという点については、若干根拠に欠けていた。

共同育児と父親のウェルビーイングの成果

また、育児の分担は、父親のウェルビーイングの成果も向上させる可能性があることを示す証拠もある。前述したように、イギリスでは、育児にもっと関わりたいと考える父親が増えている(「働く家族」, 2017; Chung et al.)。このような育児に置かれる意味や価値の変化は、父親のアイデンティティも変化させ(Brandth and Kvande, 1998)、育児が重要な役割を果たすようになった。先行研究では、このような背景から、育児に関わる父親は、仕事満足度が高く、仕事と家庭の充実感があり、仕事と家庭の葛藤が少ないことも示されている(Ladge et al., 2015)。男性が提供する育児のタイプには違いがあり、それが父親のウェルビーイング向上につながっているのかもしれない。父親が関わる場合、日常的な育児よりも情操を育むタイプの活動に関わることが多く(Craig and Mullan, 2011)、育児における男性的なアイデンティティとしてそのようなタイプの育児をより重視することが研究で明らかにされている(Brandth and Kvande, 1998)。換言すると、このことから、父親がより「女性的」な日常的育児業務を分担しない場合、父親のウェルビーイング度には影響しないか、または増加しないことが予想される。一方、非日常的な情操を育む育児への関与や分担の増加は、父親のウェルビーイングの上昇と関連する可能性がある(本報告書の第2部も参照)。しかし、母親にとっては育児を分担すること自体も重要であることから、非日常的で情操を育む育児を分担することもプラスの成果につながる可能性がある。

夫婦関係の質/夫婦関係の解消における成果

前述の研究のもう一つの発見は、当然のことながら、育児の理想と現実が一致しない場合、男女とも特に自分にとって不公平な状況になっていると考えることである。Milkie et al.(2002)は、実際の共同子育が、理想としていた育児になっていないと感じた女性は、その分担が自分にとって不公平だと考えていることを明らかにした。この不公平の認識は、母親が感じる付け足されたストレスと相まって、両親が認識する夫婦関係の満足度と夫婦関係の安定性に影響を与え、関係の解消または離婚の可能性を高めることが分かっている。
多くの研究が、家事の不平等な分配は、異性カップルの間で、特に女性やより平等主義的性役割態度を持つ人々の間で、結婚生活の満足度の低下や離婚の可能性の上昇につながることを示している(Frisco and Williams, 2003; Ruppanner et al, 2018a; Schober, 2013)。例えば、Schober(2013)は、イギリスの家計パネルデータを用いて、女性の家事分担が結婚解消の可能性を高めることを検証し、子どものいない夫婦では、女性の家事分担が増加すると離婚の可能性が有意に高まることを示している。Ruppanner et.al.(2018a)は、スウェーデンのカップルデータを用いて、カップルの家事分担が報告されたカップル関係満足度や関係の安定性とどのように関連するかを検証している。Schoberによる発見と同様に、彼らは、より多くの家事をこなしていると回答した女性ほど、2人の関係に満足する可能性が低く、別れを検討する可能性が高い。実際、これらの組合せはより関係を解消しやすいことを見出した。更に、彼らの研究では、パートナーが女性の家事貢献度を低く評価したり、パートナーが報告した女性のパフォーマンスが女性自身が報告したものより低い場合、それに対応して、女性は関係満足度が低くなり、別れを考えやすくなり、関係が解消に向かうことが多くなることも明らかになった。換言すれば、家事の分担が不平等な場合、特に、女性が不平等な分担で家事をこなしていることや女性がこなしている家事の量を、男性パートナーが過小評価している場合、2人の関係に悪い結果をもたらす可能性がある。
加えて、夫婦間の育児分担が関係満足度や夫婦関係の解消にどのような影響を与えるかについても研究が行われている。例えば、父親の育児休暇の取得頻度や、その後の父親の育児への関与の増加は、異性カップルの離婚率を下げることが示されている(Petts and Knoester, 2019)。同様の証拠は、アメリカ、オランダ、オーストラリア(Kalmijn, 1999; Galovan et al., 2014; Schieman et al., 2018; Carlson et al., 2016; Kalil and Rege, 2015)、イギリス(Schober, 2013; Norman et al., 2018; Schober, 2012)など幾つかの国において発見されており、より平等な育児分担が関係満足度、および夫婦関係解消の可能性低下と正の相関を持っていることが分かっている。
例えば、Schober(2013)は、1992年から2005年までのイギリスの家計パネル調査データを用いて、夫婦間の育児分担の不平等がどれだけ結婚解消の可能性を高めるかを検証している。母親が主に育児に責任を負っている場合、パートナーが同等の育児責任を負っているカップルと比較して、夫婦関係破綻リスクは46%増加する。共働き夫婦に焦点を当て、共同で育児責任を負うことで、母親が主に育児責任を負う場合と比較して、別離リスクが最大92%減少することを見出している。Norman et.al. (2018)は、この問題を更に検討し、子育て1年目の父親の育児に関わる様々な形態の関与が、夫婦関係の安定性とどのように関連するかを見ている。彼らは、ミレニアム・コホート研究のデータを用いて、第1波(子どもが生後9か月)から第4波(子どもが7歳)までの期間に焦点を当て、幾つかの異なる関与活動(父親の単独育児、夜間起床、授乳、おむつ交換の頻度を介して測定した父親の関与)と、家事、即ち料理、掃除、洗濯における父親の分担(「母親が殆ど行う」「父親が殆ど行う」「均等に行う」に分類)とに区別して、その違いを明らかにしている。彼らは、父親の単独育児は、おむつ交換を子どもが生まれてから9か月間することとともに、親同士の関係が破綻する可能性を大幅に減少させることを見出した。更に、この事象は特に母親がフルタイム勤務をしている場合に当てはまった。
育児の分担は、夫婦関係の満足度に大きく影響することが示されている。Schober(2012)は、父親と母親双方からの報告書を用いて、Norman et.al.(2018)が行ったように、父親の育児分担や頻度が夫婦関係の質にどのような影響を与えるのかを確認するため、ミレニアム・コホート研究を調査している。彼女は、父親の育児分担が母親の夫婦関係性の質の捉え方にいかに大きな影響を与えるかを示している。父親に関しては、父親の育児頻度は父親自身が感じる夫婦関係の質と夫婦関係内の幸福感を高め、これらは全て、子どもの人生の後期において夫婦関係が破綻する可能性に影響を与えることわかった。更に、母親が感じる夫婦関係の質が父親の育児行動を形成するのに役立つ可能性、より具体的には、より幸福な夫婦関係にある父親が育児により深く関与している可能性があることが示された。
重要なことは、夫婦関係の解消はそれ自体が親のウェルビーイングの成果にとって重要であるが、子どもへの影響についても同様に考えるべき重要な要素だということである(Amato, 2001)。また、親の葛藤、夫婦関係の質、母親が父親から感じているサポート、母親のメンタルヘルスは、父親と母親の実際の時間や関わり以上に、時には子どものアウトカムを説明する上で全て重大な影響を与える要因であることも重要である(Baxter and Smart, 2010; Flouri et al, 2016; Flouri and Buchanan, 2003; Salimiha et al, 2018)。換言すれば、子どものアウトカムを考える上で、母親のウェルビーイングや夫婦関係の質は重要なのである。

(了)

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