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「面白いコンテンツは、影響力がなくても自然と広まる」ーー人気クリエイター、カツセマサヒコが語る企画術【EVENT REPORT#1】

“努力”なくして、人気を得るものはいない。

TVで見かけない日がない俳優も、書いた本が飛ぶように売れる文筆家も、リリースしたCDがミリオンヒットを記録するミュージシャンも、その人気の裏側には私たちの知らない“努力”の積み重ねがある。

株式会社IDENTITYでは、マーケティングやスタートアップなど各分野で活躍されているかたをゲストとしてお招きし、個人の経験に基づいたビジネス戦略についてのトークセッションを行うイベントを主催している。
6月23日には同イベントの初回『人気クリエイターが考える、共感を得るコンテンツのつくり方。8万フォロワーの心を動かす企画術とは』が開催。ゲストとしてお迎えしたのが、フリーライター・カツセマサヒコさん。
「妄想ツイート」というコンテンツをTwitterで発信し始め、5年という歳月をかけて8万人のフォロワーを獲得したカツセさん。彼の人気を支えるのも、自身の“努力”といえるだろう。

「多くの読者の共感を呼ぶコンテンツ作りの秘訣とは?」
「8万人フォロワーを獲得した、セルフブランディングの戦略とは?」

今回のイベントでは、カツセさんと同じくライターであり、IDENTITYの共同代表を務めるモリジュンヤとのトークセッション形式で、「企画力」や「ブランディング」など普段あまり語られることのないカツセさんのビジネス戦略を語っていただいた。
会場は、名古屋市中区の堀川沿いに位置するワーキングスペース『sharebase.InC』。暖かなオレンジ色をした照明の心地良さと、参加者の程良い緊張感に包まれながらイベントは幕を開ける。

PROFILE

フリーライター、カツセマサヒコ
1986年東京都生まれ。明治大学を卒業後、大手印刷会社の総務部に勤務。5年後、趣味で書いていたブログがきっかけで株式会社プレスラボに転職し、ライター/編集者としての道を歩み始める。Twitter上での「妄想ツイート」が話題を呼び、「タイムラインの王子様」として若い世代を中心に絶大な人気を獲得。フォロワー数は、8万を超える。2017年4月に独立し、現在はフリーランスとして幅広いメディアで活躍中。

INDEX
ー「好き勝手やってくれ」という案件は、まず読者のことを考える
ー「誰に見せても恥ずかしいこと」しかつぶやかない
ー「影響力」がなくても、広まるべきコンテンツは自然と広がる
ー幅広いテイストの記事のなかで見せる「自分らしさ」
ー地域を外に向けてアピールするときは、客観的な視点が大切

「好き勝手やってくれ」という案件は、まず読者のことを考える

先月愛知県の蒲郡市で開催され、大盛況に終わったフェス『森、道、市場』。同フェスと泊まれるモデルルーム『SHARES』のコラボレーション企画『森、道、市場 × SHARES』で公式レポーターをされていたカツセさん。
イベント参加者のなかに同フェスのスタッフを務めていた方がいたこともあり、トークは自然と『森、道、市場』をキーワードに始まった。

カツセマサヒコ(以下、カツセ):『森、道、市場』は大きなくくりで言うと「音楽フェス」なんですが、同じ空間にそれぞれこだわりを持った300店舗以上のマルシェがあって。
会場に着いてすぐにビールを飲もうと思ったんですけど、メジャーなビールを見つけるのがすごい難しかったんですよ。ハイボール専門店とか、クラフトビールとか、アルコールひとつとってもわかるように、「こだわり」を大切にする魅力的なフェスでしたね。

モリジュンヤ(以下、モリ):それ、仕事でいかれたんですか?(笑)

カツセ:仕事ですよ(笑)僕自身も、去年ぐらいから『森、道、市場』の噂は耳にしていて気になっていたんです。そのときたまたま、クライアントの『OMソーラー』さんが、『森、道、市場』の開催場所である蒲郡にソーラーパネルがついた宿泊施設『SHARES』を建てられた。これをPRするために『森、道、市場』も絡められないかなと思い、フェスのレポートも担当することになったんです。

モリ:いきなり「森、道、市場のレポートしてください!」というわけではなかったと。

カツセ:そうです。そもそも、30歳のおじさんがイベントレポートしても、普通読者は楽しくないですよ。(笑)アウトドア好きの若い女の子にレポートしてもらったほうが記事のPV数はとれる。けれど「ちゃんと、フェスと施設の魅力を伝える」点に焦点を置いてもらえた結果、自分がレポーターとして呼んでもらえたのかなと。
とはいえ、フェス当日は「好き勝手やってくれ」という感じだったので、出演アーティストへのインタビューはしっかりとこなしつつも、自由に過ごさせてもらいましたね。

モリ:カツセさんは割と「好き勝手やってくれ」という案件が多いと思うんですが、その場合何を考えて記事を構成していくんでしょう?

カツセ読者ですね。今回の『森、道、市場』の記事では、ターゲットを「森道知らないけど、夏フェスが好きな若者」に設定して、そこからタイトルや構成、構図も考えました。「フェス好きだったら、この画は外せないな」という感じで。
あとは、自分が記事を書くことによって喜んでくれる人が、たぶん8万フォロワーのうち20人はいると思うので。(笑)その方達に向けて自分だけのオリジナリティが出せたらな、ということも片隅で考えています。

「誰に見せても恥ずかしいこと」しかつぶやかない

モリ:そのオリジナリティって、「こういう要素は出そう」みたいに、あらかじめ決まっているものなんですか?

カツセ:これはイメージの問題と関わっているんですが、読者の方が僕に抱いている印象って「ちょっとエロい」「あざとい」「男子高校生っぽい」みたいなものがある一方で、「たまに良いこと言う」「実はそれなりに大人」という捉え方もされているのかなと思っていて。
そのイメージを文章や企画に落とし込むことは大切にしているので、コンテンツとして妄想を取り入れたり、ちょっとふざけたりするものもあれば、記事の最後をエモーショナルに締めるものもあります。

モリ:それらのセルフイメージを作っていく最初のきっかけは?

カツセ:僕がまだ会社員だった2011年ごろ、Twitterを利用して個人で仕事を取って飯を食ってる人がすでにたくさんいました。その方達に影響され「広く発信する」ということをストイックに考え始めたのがそもそものきっかけですね。「自分もいつかそっちの世界に行きたい」と思って、憧れてる人の真似をしようとブログを始めたりもしました。
僕の場合、Twitter上でのセルフブランディングで気をつけているのは「誰に見せても恥ずかしいことしかつぶやかない」こと。普通逆だと思うじゃないですか、でもリアルに僕は恥ずかしいことを呟いていますよ。(笑)

モリ:そこから徐々にスタートして、周りの反応を見ながら「自分が持たれているイメージ」と「自分のやりたいこと」を合わせていったと?

カツセ:そうですね。たとえば2014-2015年にかけては「家族」のことを中心につぶやいていました。その影響で「愛妻家」や「家族」をテーマにした記事の執筆依頼が増えたんです。けれど僕はプライベートと仕事を混同させたくなかったので、徐々に「家族愛」から「恋愛」のコンテンツにシフトさせていきました。
最初から明確に「こういう人になろう」というイメージを固めていたわけではなく、ツイートしたなかでフォロワーからの反応が良かったものをブラッシュアップさせていったという感じ。そこだけ聞くと簡単そうと思われがちですけど、僕はその行程を5年間続けてますからね。やっぱり、継続が全てかなと思います。

モリ:Twitterでのブランディングを継続的に進めていくなかで、「普段の自分」と「Twitterでの自分」にギャップが生まれたりとかは?

カツセ:ギャップはめっちゃあります。余裕のある人に思われたいけど、実際は階段を一つ飛ばしで駆け下りるくらいにはせっかちだし、猫背で挙動不審になることもある。「思ったより声が高い」ともよく言われます。(笑)けれど、Twitterはあくまでも自分の一部分としか捉えていないので、そのズレは特に気にしていません。

モリ:ではTwitter以外のメディア、例えばラジオとかでは「こういうキャラでいこう」とか決めたりしていますか?

カツセ:Twitter、ラジオ含めて共通して「毒にも薬にもならないことを言う」ことを考えています。僕には、人の人生をガラリと変える力や、社会に革新をもたらす力はないけど、「-2だったものを0に戻してあげる」とか「0だったものを0.5に押し進める」感覚で誰かの背中を押してあげることはできるかなと思っていて。見たひと、聞いたひとがちょっと応援されたなって感じるものを発信するようにしています。

「影響力」がなくても、広まるべきコンテンツは自然と広がる

ここで、イベント参加者のひとりが質問を投げかける。

「自分自身にまだ影響力がない場合、どのようにして企画で人を惹きつければよいのか」

これに対しカツセさんは少し悩んだあと、自身の会社員時代の経験をもとに話し始めた。

カツセ:ライターになる前、サラリーマンをやりながら個人で「ドミノ倒し」のイベントを運営してたんですよ。僕がドミノを3万個レンタルして、身内を呼ばずに参加者を募ったりして。当時、僕のフォロワーは150人くらいだったので集客は難しかったですけど、毎年マイナーチェンジしつつ開催し続けたら、最終的に80枚のチケットが1週間で完売するまでになったんです。
ドミノ倒しを通して学んだのは、「コンテンツ力」があれば「影響力」がなかったとしても、誰かしらがその種を拾って花火みたいに打ち上げてくれるんだということ。「私の記事が読まれないのは、影響力がないせいだ」と悩んでいる人をよく見ますが、本当に広まるべき文章であれば、本当に広まるべきサービスであれば、ちゃんと広がっていくと思います。

モリ:なるほど、じゃあ実際にそのコンテンツを企画する上で気をつけていることや心がけていることはありますか?

カツセ:まずは、ターゲット。どういう人に向けて自分の作るものを届けたいかをすごく細かく考えます。僕がよくTwitterでやるのは、「金曜の夜23:40の終電に乗っている状況」からスタートする妄想ツイートで、それは同じ気持ちを共有できる人が多いと思うからやる。
「自分がこういうものを書きたい」という思いも大切ですけど、「ここの読者に刺さる文章を書こう」という気持ちも重要なので、その2つの両思いの部分を狙っていくのがコンテンツを企画するうえでの第一歩なのかなと思います。
あとは、コンテンツ作りの基礎として「深堀り」「逆張り」「遡り」の3つも大切にしています。例えば、『君の名は。』をテーマにした場合を考えてみると

深掘り:『君の名は。』の主人公である瀧くんに焦点をあてて考える(例:瀧くんの好きなところ400個あげてみた)
逆張り:『君の名は。』が流行っているからこそ逆の部分にスポットをあててみる(例:『君の名は』と内容は似ているのにマイナーな作品を取り上げる、『君の名は。』を見たのに感動しなかった人に話を聞いてみる、など)
遡り:『君の名は。』など今流行っているものの歴史をたどってみる(例:『君の名は。』のように“登場人物の入れ替わり”を扱った世界最古の映画作品は?)

編集注:カツセさんが以前企画したコンテンツに「LINE晒し」をテーマに取り扱ったものがある。これはまさに「逆張り」を応用したもの。当時、ネガティブな印象が強かった「LINE晒し」にポジティブな面を見いだした企画。

カツセ:僕は、コンテンツを考えるときにこの3つのうちどれか1つでも当てはまっていたら嬉しいなと思いますね。あとは、読者ニーズとどう上手く噛み合わせるかの問題です。

モリ:読者ニーズを把握するために、Twitterのフォロワーとコミュニケーションを取ることもあると思いますが、そのときに自分なりのルールを作ったりしていますか?

カツセ:リプライは(誕生日や就職内定などのお祝いごとを除き)基本的に返さないんですが、送っていただいたメッセージは全て読んでます。自分が作ったものに対して、読者がどういう風に感じているのかはきちんと把握したいので。みなさんからの意見を参考にして次のコンテンツ作りに活かしたりしますね。

モリ:もちろん、いい意見ばかりじゃないですよね?(笑)

カツセ:絵文字がおっさんくさいとか言われますよ。(笑)僕も人間なので傷つくことはあります。100の賞賛より、1の罵声を気にしてしまうのが人間ですけど、だからこそ100の賞賛を大切にしていきたいとは思いますね。

幅広いテイストの記事のなかで見せる「自分らしさ」

イベント時間も終盤にさしかかり、トークの焦点は「ライターとしての在り方」「文章術」へとあてられた。

モリ:最近は「読モライター問題」もありましたが、カツセくん自身は特にそこを意識しているつもりはないでしょうか?

カツセ:気にしてないですね。クライアントも読者もWin-Winになる記事を書く前提のもとで、自分の顔出しが必要なのであれば顔出しもしますが、ポップなノリが必要だったり、しんみりした雰囲気が欲しい記事も依頼があれば書きます。僕には専門的な知識がないけれど、だからこそ色んなテイストの記事が書けると思ってます。
ただ、その幅広さのなかでも「カツセマサヒコらしさ」は出すようにしてますね。例えば、感動したときの言葉にならない感情とかは無理に言葉に表さないとか、読者層のことを考えて難しい言葉はちゃんと噛み砕きつつ、言葉のリズム感は大切にしたり。そういうことの積み重ねが自分らしさを出すことに繋がっているのかなって。

モリ:「文章術」に関して、何か心がけていることは?

カツセ:もったいぶらないことです。記事の本題はなるべくトップに持っていくようにしていますし、80枚の写真があればその中でも一番目に引くものをアイキャッチに持っていく。読者の気を惹きつけるために出し惜しみをすることはないです。「文章力」をアップさせたいなら、ブログを書くことを勧めますね。ある一定の温度感を保ったまま、10本連続で記事を書くと「自分の味」が出てくるんですよ、不思議と。

モリ:カツセくん自身も、「書く」ことを練習してた時期ってありました?

カツセ:ありましたよ。今でこそ、記事を書くときはある程度のフォーマットに当てはめてますけど、その感覚をつかむまでは「LINE BLOG」や「はてなブログ」を使って、色んなタイプの記事を試しに書いたり。あとは、ひたすら気に入った記事を読んでイメージを掴んだりしてました。

モリ:では流れとしては、気に入った記事の雰囲気を掴んで、そのイメージを自分のブログで試してみて、ある程度の型が決まってきたら実践に落とすと。

カツセ:そうです。案件をいただいたときも、自分のブログで色んなテイストの記事を試し書きしておけば、「こういうノリで大丈夫ですか?」とクライアントに参考記事を提供することができるので。自然とクライアントとのズレもなくなりますね。

地域を外に向けてアピールするときは、客観的な視点が大切

イベント最後のトークテーマは、開催地である「名古屋」に絡めて「どのように地域の魅力を外にアピールしていくのか」について。今までに、多くの地域PRの記事を執筆されてきたカツセさんの考えは一体どのようなものなのか。

カツセ:正直、みんな自分が住んでいる地域以外にあまり興味がないと思うんです。その地域に住んでいる人が「(この地域の)ここがいいよ」と外にいくらアピールしたところで、あまり心に刺さらない。では、どうしたらいいか?
例えば、名古屋のひとが地元のアピールをするならば、名古屋ではない地域に住んでいる人の気持ちになりきってみるんです。そのうえで「名古屋のどのコンテンツがうけるのか」を考えるのは、すごく大切だと思う。それを踏まえたうえで「面白い!」と思えるものは、絶対に面白くなる。
僕の人生で一番伸びた記事が「町田の記事」だったんですが、それは僕が町田という地域に5年間住みながらも、町田を客観的に紹介することができたからなのかなと。

モリ:冷静な客観視ってすごく大切ですよね。主観で押し出すメッセージが必ずしも良いとは限らない。「この地域ならでは」という切り口ではなくて、単純にコンテンツとして面白いものを見極めて記事化したほうがうけるってことですよね。

カツセ:その通りです。僕が尊敬するライターのヨッピーさんが、コンテンツを作るときのポイントとして「広さ」「距離感」「深さ」の3つを挙げていたんですが、これらが「地域を外に向けてアピールする」うえでも当てはまるのかを考えるところがスタート地点かなって思います。

ここで、イベントは終了時刻間際に。残りの時間で、参加者による質疑応答が行われる。いくつか寄せられた質問のなかでも印象深かったのは「カツセさんが次に目指すところは?」というもの。
問いに対しカツセさんは、「しばらくは編プロ時代の延長戦という形で、幅広いメディアで活躍したいですが、やっぱり老いには勝てないので。(笑)いずれはバックヤードの仕事術も身に付けたいと思っています。自分が企画を考え、実働は違う人がやるみたいなチームを組みたい。そのための仲間集めをします」と、笑いながらも力強い口調で答えた。

イベントの途中、何度も「こんなに真面目な話で大丈夫ですか?」「聞きたいことあったら、何でも聞いてくださいね」と参加者一人ひとりに気遣っていたカツセさん。これはまさしく、8万人フォロワーに対する普段のカツセさんの姿勢そのものではないだろうか。

8万が10万になろうと、10万が20万になろうと、きっと彼の“フォロワーファースト”の姿勢は変わらない。

コンテンツ作りも、ブランディング戦略も、文章術も、すべては「読者(フォロワー)のことを考える」ことから始まる。そんな、当たり前のようでいてつい見落としがちなポイントを、カツセさんはずっと守り続けてきた。

その地道な“努力”の積み重ねが、これまでも、そしてこれからも、カツセマサヒコという人物の人気を支え続けるものなのだと思う。


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