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アンナ・カレーニナ1(トルストイ)ネタバレ読書感想文

 「幸せな家族はどれもみな同じように見えるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」
 この最初の一文を読んで、「これ全部読みたい!」という気持ちになった。19世紀、ロシアの貴族社会の人間模様を描いた作品。
 
 何気ない描写が素晴らしい!「そうそう!そんなふうに思う事あるある!」とか、「ええ!そんな細かいことまで描写するんかい!」と感心したり驚いたりしっぱなし。
 好きな場面はいっぱいあるけど、主要登場人物の一人リョービンと愛犬ラスカとの寛ぎの場面が印象に残ってる。

 ラスカは相変わらず手の下に頭を突っ込んでくる。撫でてやるとじきに彼の足もとに丸くなり、伸ばした後ろ足に頭をのっける格好になった。そうしてこれで安心、万事大丈夫というふうに、軽く口を開けて唇をむにゃむにゃしてみせると、年老いた歯の周りに粘っこい唇を具合よく落ち着かせたところで、至福の安らぎという様子で動かなくなった。リョービンは犬の最後の動作をじっと眼で追っていた。
「おれもこんなふうに生きよう!」彼は心に思った。「おれもこんなふうに生きていこう! 大丈夫……何もかもうまくいくさ」

 リョービンは女にフラれたり、出来損ないの兄貴に絡まれたり、碌でもないことが続いて心身がまいっていた。そんなときのこの場面。なんか読んでて、ホッとしすぎて涙出てきた。
 あと一つだけ、面白い描写を紹介します。不快な気持ちを表現してるんだけど、「こんな言い方よく思いつくわ!」と感心したくだり。

 それはちょうど、渇きに苦しんだ末にようやく泉にたどり着いた人間が、泉の中に犬か羊か豚が浸かって、せっかくの水を飲んだりかき回したりしているのを見たときの感覚に似ていた。

 こういう面白いというか素晴らしい描写が他にもたくさん出てきて、もうただただ「はあ、参った~」と舌を巻きっぱなしでした。こういう印象に残る描写によって登場人物の心情を現わしてくれるから、それぞれの人物の輪郭がくっきりと浮かびあがって、おかげで物語にどっぷりと入り込むことができる。
 一巻589ページ。あっちゅう間でした!


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