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アンナ・カレーニナ3(トルストイ)ネタバレ読書感想文

 リョーヴィンとキティの結婚。リョービンの兄ニコライの死と、同時に訪れた新しい生命の芽生え(御懐妊)。アンナとヴロンスキーのなんだか救いようのない関係などなど、いろいろと物語上重要なトピックはあるものの、最も印象的なのは、リョービン、オブロンスキー、そしてお調子者の若者ヴェフロフスキーの三人で出かけた猟の場面。「2」の草刈りのシーンでも思ったが、自然の中で人が活動する場面を描くのが本当に上手で、まるで今そこで起きていることをこの目で見ているような錯覚に陥ることもしばしば。
 また、相も変わらず愛犬ラスカの描写が可愛すぎる。

「ラスカは彼に駆け寄って、ぴょんぴょん跳ねて歓迎の意を表しながら、犬の言葉で残りの人たちはすぐに出てくるかと質問したのだが、返事がもらえなかったものだから、もう一度自分の見張り地点にもどり、首を脇に向けて片耳だけをぴんと張った格好でじっとうずくまった。……(このあとも続く)」
 
 トルストイ本人が、さぞかし犬が好きだったんだろうと推察できて楽しい。
 また、この猟では、新キャラのヴェフロフスキーがいい味を出している。ハンサムでガタイも良く、明朗快活でよく笑うナイスガイだが、これがかなりのおっちょこちょい。馬車の中で誤発砲するわ、馬車を見張っていれば沼地にはまって馬を転倒させるわ。狩猟中は射程距離とかタイミングなどお構いなしでバンバン発砲するわで、リョービンかオブロンスキーかどちらかが、あるいは両人とも殺されるんじゃないかと、本気で心配した。
 いわゆる「KY」な彼だが、それは屋敷に帰ってきてからさらに本領発揮。リョービンの妻でありしかも身重でもあるキティに対して、完全に口説きモード。実はこれ、猟に行く前からそんな感じで、そのせいでリョービンは最初この若者のに対して良い印象を持っていなかった。しかし、猟で時間を共にすることによって、彼の良さに気づき、さあもっと仲良くなろうという矢先に口説きモード炸裂。温厚なリョービンも怒り心頭で、ついには屋敷を追い出される始末。
 生命の危機、夫婦の危機、色々な危機を生み出してくれるヴェフロフスキーくん、友達にはなりたくないけど、この猟のシーンで絶妙な緊張感を演出してくれたことで、彼には助演男優賞を差し上げたい。

 一方、アンナとヴロンスキーの関係は愛憎ごちゃまぜで、まさに泥沼。全く良い進展が想像できないまま「4」へと続くのだった。

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