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  • 父と私

最近の記事

【小説】カミーユ

 異星人が、パリコレで紹介される服をデザインすることは、もはや常識となっていた。  十数年前、異星人たちが宇宙船で地球に上陸した時、地球人たちは恐怖に震えた。宇宙を旅できるほどの能力を持つ彼らによって、地球が侵略され、地球人たちが滅亡させられる予感に怯えたのだ。  しかし、異星人たちは地球人たちの予想に反し、とても友好的だった。彼らは、激しい内戦の結果、祖国(正しくは祖星なのかもしれない)を失い、移住地を求め、宇宙を彷徨い続けた。それは、気が遠くなるほどの長い旅で、祖国を

    • 人生は戦いなり。<短編小説>

      『焼肉好き?』 藍子からのメッセージに気が付いたのは、実験の準備を終え、明日の朝に実験を行うか、このまま深夜まで実験をするか迷っていた時のことだった。 メッセージの受信時刻は午後18時。スマホに表示されている現在の時刻は午後19時。慌てて電話をかけると、数回のコール音の後に、少し不機嫌そうな藍子の声。 「……何ですか?」 「焼肉、好きですけど……」 焼き肉店のURLが送られてきた。 藍子に出会ったのは公園だった。 僕がベンチに座っていると、突然、隣から唸り声が聞こえてきた

      • 好きでもないし、嫌いでもない。<短編小説>

         数時間前、私は彼氏からひどいことを言われ、振られた。自分が悲しんでいるのか、怒っているのか何も分からなかった。ただ、お腹の奥がツーンと痛くて、身体がうまく動かなかった。それでも、彼が私を置いてどこかに行ってしまったから、私は私の家に向かうしかなかった。  いやにクリアな視界とぼんやりとした思考。電車を乗り継いで、最寄駅から家へと歩いていた。もうすぐ家に着く。そのことに気が付いた途端、「嫌だ」と思った。きっと、ひとりぼっちになったら、心の中の暗いところから戻ってこれなくなって

        • まばゆい夜と私たち<短編小説>

          月の光。私は窓辺に座り、彼の声を聴く。 「今日は白鳥座の話をします…」 スマートフォンにつないだイヤフォンから聴こえてくる星たちの物語を聞き、お酒を飲む。そして、自分の意志と関係なく、夢に溶ける瞬間を待つ。 「朝ごはん、できてるよ」 ワタルの声で目を開ける。 「今日は鮭を焼いたよ」と言いながら、ワタルは私の隣に梛木の木の植木鉢を置いた。 梛木の木は日の光に当てないといけないんだ。面倒だけど、日の光と水をちゃんと与えれば、すくすく育つ。それってすごいことだと思わない? ワタル

        【小説】カミーユ

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        • 父と私
          12本

        記事

          『父とトーキョー』

           父は20歳前後の頃、東京に暮らしていた。  東京に着いた父はとある画廊に行った。スモークで充満した展示室をサーチライトが照らしていた。『トーキョー』だと思った。そう父は語っていた。  私は『父のトーキョー』を見たことがないのだけれど、なぜか画廊にポツンと立つ若い父を思い浮かべることができる。その時の高揚も、これからの生活への期待も、想像することができる。私も、おそらくは兄も、東京で経験したことのある感情のはずだから。  その4年後、父は地元に帰ることになる。凱旋とはいか

          『父とトーキョー』

          『番外編:母とTKKG』

          「たまごかけかけご飯にする?」  白いご飯から立ち上る湯気。ほかほかという音が聞こえてきそうなご飯はとても美味しそうだった。しかし、ご飯はあまりにも白くて、私は何かが足りないと思った。私の言葉に、目の前に座る友達はきょとんとした。 「たまごかけご飯じゃないの?」 「かけ」を2回言うこの呼び方は、私の家族にとても染み付いているものだ。家族全員がこの言葉を使う。そのため、TKGが一大ムーブメントを引き起こしてテレビの引っ張りだこになるまで、誤った呼び方であることを私は知らなかった

          『番外編:母とTKKG』

          『父と兄弟』

           父には3人の兄がいる。父が生まれた頃は珍しいことではなかったらしい。  祖母は子どもを産むたびに「次は女の子。次は女の子」と念じていたらしいが、男ばかりが産まれてしまったのだという。しかし、その願いは孫やひ孫の代になって叶い、女ばかりが産まれている。家を継げる人がいなくなっているが、天国の祖母は大満足だと思う。  末っ子である父は、それはそれは甘やかされて育った。ただし、2番目と3番目の兄にはそこそこいじめられたらしい。  2人の好物は『蜂の子』だったが、蜂の巣を入手す

          『父と兄弟』

          『父と雑誌』

           父は雑誌を作ったことがある。同人雑誌を作ったというのが正しいが。  父が雑誌を作り始めたのは1998年のこと。雑誌は月に1冊の頻度で売られた。No.12から始まるその雑誌は、No.11、No.10と続き、1999年7月にNo.0の発売をもって廃刊とすることになっていた。そう、恐怖の大魔王が現れるとともにその雑誌は終わるのだ。  ある日、映画か本の影響を受けたのか、父は雑誌のアイディアを思いついてしまった。こういう時にすぐに行動を起こしてしまうのは、父の悪いところでもあり

          『父と雑誌』

          『父と朝ごはん』

           父は人よりも少しだけ早く起きる。だいたい午前2時から4時の間だ。  母も兄も私も朝起きることが苦手だったため、朝ごはんを作るのは父だった。父は気に入っている料理しか作らないため、卵と白米と味噌汁が毎日の朝ごはんだった。  美味しいかと聞かれると答えに困る。味噌汁の味は安定しなかったし、卵焼きは焼きすぎだった。朝ごはんを食べる私と兄は眠くてふごふごしているという最悪のコンディション。父だけが幸福そうに大声で歌いながらお茶を飲んでいた。私と兄が家を出ようかというタイミングで

          『父と朝ごはん』

          『父と母のお昼寝』

           父は一生懸命働く。会社をクビになったことがある人間とは思えないほど働く。  一生懸命なのは父だけじゃない。母もだ。父の指示の下、母はイラストを描いたり、営業をしたりする。それだけではなく、父の指示にはないお昼寝もする。  私は社会人2年目の時、心身をすり減らしながらお金を稼いでいたため、母のことが羨ましかった。「階段から落ちれば1〜2日は寝られる」と思い始めた頃、私は母に「お昼寝をして過ごしているのが羨ましい。だらだらし尽くして、こんなまるまると太って…」と泣きついた。

          『父と母のお昼寝』

          『父と目玉焼き』

           父の好きな食べ物は目玉焼きだ。食べ物としてだけでなく、存在そのものが大好きなのだ。  ある日、父は食卓に並ぶ目玉焼きの写真を撮った。気まぐれかと思いきや、目玉焼きの写真を撮る日々は父が飽きるまで続いた。だいたい数週間くらいだったと思う。飽きっぽい父にしては長かった。写真を撮りながら、父は大きな発泡スチロールを削り、目玉焼きのオブジェを作った。大量の発泡スチロールのゴミとともに、1畳分くらいの大きさの目玉焼きが出来上がった。とても良くできていた。  目玉焼きのオブジェ見た

          『父と目玉焼き』

          『父と母の日』

           父はよく母に叱られていた。「貧乏」「思いやりがない」「貧乏」「優しさが足りない」などなど、罵詈雑言の嵐だった。    叱られっぱなしの父を見て兄はよく怒っていた。「父親らしくしろ」「貧乏」「ちゃんとしろ」「貧乏」などなど、どちらが大人か分からないくらいだった。兄は良くも悪くもしっかり者だったため、自分の父親が友人たちの父親と少し違うことに気がついてしまっていたのだ。この世には気が付かないほうが楽なことが多いのだと兄を見ていると思う。  そんな父だが(そんな父だからなのか)

          『父と母の日』

          『父と仕事』

           父は印刷業を営んでいる。会社勤めではなく、自営業。フリーランスとも呼ぶのかもしれないが、兄は父のことをフリーターと呼んでいる。  父は夢があって自営業をしているのではなく、勤め先がなくて自営業をしている。私が生まれる1週間前、家を建てて1週間後、父は会社をクビになった。社長から「明日から会社来なくていいよ」と言われ、人よりもちょっとのんきな父は「わかりました!」と会社を辞めてしまったのだ。  職を失った父は病院へ向かい、出産に向けて入院した母に「明日からは毎日お見舞いで

          『父と仕事』

          『父と靴下』

           父は靴下が嫌いだ。正確には子どもたちが家の中で靴下を履いているのが許せないのだ。  私や兄が靴下を履いたまま歩いていると、「やい。靴下脱げ」という父の声が家のなかに響き渡る。父の靴下発見力はまるで警察犬のようだった(兄の足は納豆の匂いだったため、見つけやすかったと思う)。  父の靴下発見力が遺憾なく発揮されるのはこたつの中だった。こたつ布団をめくった瞬間、父は「やい!」と怒鳴った。とても素早い「やい!」だった。私も兄も大変な良い子だったため、「やい!」と言われたら、言い

          『父と靴下』

          『父とスーパー』

           父はスーパーマーケットが好きだ。広くて品揃えのいい近所のスーパーがお気に入りのようだ。  ただし、スーパーにも「その日」のコンディションというものがある。川の流れが毎秒異なるように、母の機嫌が毎分変化するように、スーパーの品揃えも毎日変わる。お気に入りのおつまみがない日、野菜の鮮度が悪い日、あるいは卵が高い日、「やい! 今日はダメだな!」と父の声が響く。父に悪意はないのだ。父は良く言えば裏表のない人間で、悪く言えば人の気持ちが分からない人間だ(最悪なことには母を怒らせる天

          『父とスーパー』