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『父と母の日』

 父はよく母に叱られていた。「貧乏」「思いやりがない」「貧乏」「優しさが足りない」などなど、罵詈雑言の嵐だった。
 
 叱られっぱなしの父を見て兄はよく怒っていた。「父親らしくしろ」「貧乏」「ちゃんとしろ」「貧乏」などなど、どちらが大人か分からないくらいだった。兄は良くも悪くもしっかり者だったため、自分の父親が友人たちの父親と少し違うことに気がついてしまっていたのだ。この世には気が付かないほうが楽なことが多いのだと兄を見ていると思う。

 そんな父だが(そんな父だからなのか)、母の日を祝うことは欠かさなかった。ある母の日は、私と兄を連れて母へのプレゼントを買いに行った。またある母の日は、私と兄と夕ご飯(おそらくカレーだった)を作った。叱られながらも、怒られながらも、貧乏ながらも父はとてもよく頑張った。私も兄も、母の日の父は好きだった。

 買い物の送り迎えや夕ご飯の後片付けをした母は、いつもと変わらない様子だった。照れ隠しかもしれない。

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