産婦人科医にマンコが汚いと連呼された話

月経困難症である私が、大学2年生の時に受けた診察についての備忘録。


都内で一人暮らしをしていた頃、生理前に下腹部の痛みが激しくなり、Googleマップで検索して家から一番近かった産婦人科に行った。

元々月経困難症でPMSが重く中学生の頃には低容量ピルを飲んでいた私は、それまでは地元の女医さんのところで診察を受けており、産婦人科への抵抗はあまりなかった。

受付を済ませて待合室でうずくまり、長い時間が経った頃、診察室へ呼び出された。中に入ると父親くらいの年齢の中年男性医師がいた。看護師はいなかった。

受付でカルテに書き込んだ情報を読んだ医師が一言、「タバコ吸ってるんだ」と言った。「はい」「1日どのくらい」「5本〜多い時で一箱くらいですかね」とやりとりをすると医師の目が急に怖くなった。

「今すぐタバコをやめなさい」

この時は、如何にもお節介な医師が言いそうなことだな、でもそれにしてもさっきから初診の患者相手に口調が馴れ馴れしいな、程度だった。

医師は続けて「最近若い子に多いんだよ、タバコ吸っといて生理痛が重いって当たり前だろ、タバコをやめりゃいいんだよ。だからマンコが汚えんだよ。あんたもそうだと思うよ、念のためエコー撮るからこっちに移動して」と言った。

なんだこいつ、絶対ヤバい、と思ったが医師である手前いうことを聞くほかなかった。

検診台に乗って、触診とエコーをされている間も「あーやっぱり腫れてるしただれてるよ。ここわかる?(エコーモニターを見ながら)汚いもん」とずっと言われた。マンコなんて粘膜だし、素人の私がエコーの映像を見たところで何が正常で何がそうじゃないのか全くわからない、適当に「はぁ」と相槌を打っていた。「汚い」を連呼され、とにかく居心地が悪く、気分が悪かった。

私はコーヒーも酒も飲むしタバコも吸う。自炊はしないし夜型だし、いわゆる不摂生の役満みたいな生活習慣かもしれない。それでも、なぜ、お腹が痛くて来院したのに、会って5分の知らない医者に、行きずりの男にさえ言われたことないような醜い言葉をかけられなければいけないんだろう、とずっと考えていた。

触診が終わり診察室へ戻ると、今度は医師自身の自慢話が始まった。なんでも、卵管の腫瘍が拳大まで肥大した患者さんの摘出手術を成功したらしい。ご丁寧に革の表紙のバインダーに貼られた新聞の切り抜きを押し付けられた。

医師は自分の自慢話を続けながら、先ほど診察した私の子宮、卵巣、卵管のエコー写真を取り出し、マーカーでグルグル囲みながら「ここに腫瘍ができると肥大して〜」と説明を始めた。「今現在、私に腫瘍はあるんですか?」と尋ねると「ないよ」と言う。「でもいつかこうなる」

「私を信じなさい。今日から約束しなさい。これあげるから、今ここでタバコは二度と吸わないと誓いなさい」と、薬局でもらえるようなおまけのボールペンを無理やり握らされた。

どんな名医であろうが、初対面の患者の性器を汚いと連呼するような医者をどう信頼すればいいんだろう。なんでボールペン一本で禁煙を誓わされてるんだろう。アホくさすぎて心の中は泣き笑っていた。抵抗したところで話が通じないなと思い、「今すぐは無理だけど減煙します」と適当に行って診察室を出た。イスから立ち上がる直前、マーカーでぐちゃぐちゃに書き込まれたエコー写真を持たされた。初診料とカード発行料、それからエコー代が含まれた診察代を払って病院を出た。

家に帰って、張り詰めていた緊張と恐怖と不快感が噴出して、玄関口で泣き崩れた。醜いと何度も刷り込まれた自分の子宮のエコー写真と、原価数円のボールペンが気持ち悪くて即刻捨てた。なんで女に生まれてきたんだろう、という気持ちでいっぱいだった。


数日が経って週末が来て、私は実家に戻って女医さんの産婦人科に行き直した。

触診とエコーの結果は、今までと同じ月経困難症、原因は冷えとストレスだった。

都内で診てもらった時にこう言われたんですが、私の子宮って汚いんですか?と質問すると「いや?どこも腫れてないしただれてないし、異常はどこにもないよ?」と言われた。

「タバコやお酒が生理痛や病気の原因になることはあるけど、今直近で心配するような異変は起きてないから大丈夫。程々にね」と言われて診察は終わった。

安堵感から、ふにゃっと身体の力が抜けたのを覚えている。私のマンコは、どうやら汚くないらしい。


あのオッサン医師が私の産婦人科初経験だったら、話を冷静に聞いてくれる女医さんの存在を知らなかったら、私は今頃「マンコが汚い」という呪いにまみれ殺されていたかもしれない。

医師だからといって、患者について何を言ってもいいわけではない。そんな当たり前のことも、いざ目の前で起こると体が強張って思うように動かないものだ。

私のように呪いをかけられた、烙印を押されたように感じた人がこの世にいるのなら、そんなことないよと全力で肯定したい。

「女性医師が診る患者は死亡率が低い」の根拠について書かれた東洋経済オンラインの記事をツイッターでみて、ずっとずっと書き留めようと思って先延ばしにしていたあの日の出来事を、今やらないとまた逃げることになると思って勢いでなぐり書きした。

この話を思い出しながら何度もオエッとなった。もう関わりたくないので、あの医師は心の中で100発ブン殴って、病院はGoogleで星1にした。

心が強くなった今の私が次そう言ったことに出くわしたときは絶対に社会的制裁を加えてやるからなという、ボールペン一本分の禁煙よりも遥かに固い決意を込めて。


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