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貴族の渡鬼

カズオイシグロの日の名残り。

読んだ直後はこんな私でも丁寧な言動をしたくなる。礼儀正しく、誠心誠意、ユーモアを忘れず、丁寧に毎日を過ごす。美しい風景や静けさに心を傾け万物に感謝。

20分もしないうちに、忘れていた締切を思い出して悪態をつき、昼間の残りのコーヒーとチャーハンを一緒にチンして、雨続きでサボった洗濯物の山を無視しつつ、立ったままチャーハンをかき込む。あぁカズオイシグロに申し訳なく思います。

日の名残りは、主人公の執事が旅行しながら自身の過去や思いが語られる物語。執事としてのプライドをがっつり持ってそのまま老いた主人公。その間戦争やらなんやらで世の中、仕えて来た貴族やシステムも変わりつつある。それについていけていない、いつの世、どの国にもいる一見ソフトな頑固オヤジの話。

イギリスでも重要な立場にあったお偉い伯爵に支えていた主人公。ご主人様を心から尊敬し、敬愛していましたが、時代が変わりご主人様がアメリカ人成金に変わります。文句は言わねど複雑な気持ちを持ちつつ誠心誠意尽くします。太っ腹なアメリカ人のご主人に当時最先端の車を貸してもらい、人手不足の解消のため以前一緒に働いていた女中頭に、もう一度一緒に働かないかと誘う為に会いに行きます。
その道中いろんな事を考えたり思い出したり。

アメリカ人成金をうっすら小馬鹿にした様な気持ちでいながら、最先端の車を貸してもらうと態度には出さないもののめちゃくちゃ喜んでたり、この女中頭に会うのも、お互いに恋心を持っていたので彼女も今もそうだろうと思い込んでいたり、全ての出来事がこの主人公の良いように解釈されていきます。

最終的には思ったように行かなかったって言う、なんか滑稽で寂しい結末になるのですが、それでも最後までこのおじさんはズレていて、よしじゃあ新しいご主人様のためにアメリカンジョークでも覚えてがんばろう!とか言って、そこ?とつっこんだ人も多いと思う。

この主人公は自分の空回りに気付かないのか気づかないようにしているのか、このまま人生を全うしそうです。そんな悪気はない少しズレている善良な市井の人をじっくりそのまま書いて、読者にズレを気づかせてちょっとイラッとさせる。

あぁでもひょっとして私もそうなんじゃない?自分では気付かないけどズレてる事もあるんじゃない?勝手に期待して勝手に落ち込んだり、思い出をかなり美しくしてたり、プライドが邪魔して損した事もあるかも。全部に気をつける必要はないけどちょっとしたズレを考え直してみれば、少し上手くいく事も増えるかもな。
と今書いてて思いました。

で、この本を読む前に私はがっつりイギリスドラマ、「ダウントンアビー」にハマっていました。イギリス貴族の話。伯爵一家とそこに仕える人々のドラマ。

伯爵夫妻には3人の娘がいて、各それぞれタイプが全然違い、それぞれが結婚や将来に悩み、またその伯爵家に仕える人々もみんな住み込みなので、事情を抱えながらもみな家族のようにダウントンアビーで日々を過ごします。そこで起こる小さな事件から大事件まで毎回面白い。

家庭内の小さな出来事。金銭的な問題や親戚の問題。姉妹ゲンカ。使用人同士のいざこざ。いざとなれば一家団結して事件に向き合う。

あれ。なんか聞いた事ある。そう!渡る世間は鬼ばかりの貴族版です。

渡鬼と違うのはスケール。実際のお城を使って撮影されていて、調度品、衣装、家具などまぁそれはそれは美しい!食事のシーンはお料理、食器、マナーとドラマの内容関係なく毎回必見です。
残りチャーハンの立ち食いしてる奴が何を言うか!

このダウントンアビーを見ていたので、日の名残りの主人公は、ダウントンアビーでの執事、カーソンで再生され、ばっちりとハマりました。

日の名残りの映画化ではアンソニーホプキンスだそうでまぁ名優ですからこれも全く文句なしですが。

そう言えば、ダウントンアビーの執事候補の使用人でトーマスバローって人がいるんですが、ゴールデンカムイの尾形だと思う!顔だけじゃなくて性格も!

ダウントンアビー好きな人はゴールデンカムイ見ないかなぁ。

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