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第71回菊池寛賞の「南海トラフ地震の真実」(小沢慧一)を読む


30年以内に「70〜80%」の確率で発生するといわれている南海トラフ地震。この確率が水増しだと、丹念な取材で突き止めた力作。

真実を追い求める小沢さんの記者魂が読み手に迫ってくる。詳細は、ぜひ本書を手に取っていただきたい。

さらに政治的判断によって科学が歪められている実態を見事に暴く。
こちらの方が私には衝撃だった。

▶︎ 「前兆現象はオカルト」 「予言可能と言っている学者は詐欺師」

 日本の地震予知への批判が高まるきっかけを作ったのは、ロバート・ゲラー東大名誉教授だ。ゲラー氏はスタンフォード大助教授から、1984年に初めて任期なしの外国人教員として東大の助教授になった地震学者だ。地震予知を批判する論文が1991年に英科学誌ネイチャーに掲載され、脚光を浴びた。
 研究室に取材に行くと、ゲラー氏は冒頭から「前兆現象はオカルトみたいなものです。確立した現象として認められたものではありません。予知が可能と言ってる学者は全員『詐欺師』のようなものだと思って差し支えないでしょう」と言い切った。
 ゲラー氏によると、「地震の前兆現象」といわれているものは1万件以上あるという。いずれもその現象が起きれば必ず地震が発生するという再現性があるものではなく、因果関係が証明されたものはないと言う。米国では1980年代に予知の研究はほぼ行われなくなった。
「前兆現象があったら教えてほしいという市民の気持ちは理解できます。しかし、それを悪用する学者は最低です」

p.192−193

▶︎ 「彼らはばかではないがずるい」

 ゲラー氏は、予知体制の弊害は今も残っていると言う。
「予知が虚構であることが明らかになりました。だが、予知ができるとうそをついた先生たちとその弟子や孫弟子は、今でも地震研究の中心的な座に居座っています」
(中略)
 そして、政府の委員として長期評価を出し続ける地震学者たちのことを、痛烈に批判する。
「彼らはばかではないがずるい。物理の数学もできるのだから、やっていることがいかにデタラメか本当はわかっている。だが委員を務めてその後で勲章をもらうために、科学から離れて政治的なことを言っているんです」

p.194-197

勲章のどこが嬉しいのか理解できないが、やっていることは、ずるいどころか卑劣。

▶︎ そして、事なかれ主義?


中央防災会議の作業部会は、2017年に「(南海トラフ地震の)確度の高い地震の予測はできない」という報告書を発表。

予知を前提とした地震防災対策を断念したが、その一方でそれを前提とした大規模地震対策特別措置法ついては廃止されなかったという。

 なぜ内閣府はそこまでして大震法を廃案にしたくなかったのか。この問いに河田氏はこう答える。「大震法は議員立法だ。廃案するとなるとめちゃくちゃもめる。(中略)
 今の担当局長や参事官が矢面に立たざるをえなくなるが、役人としてはそれは避けたい。2年もすれば人事異動で次のポストに移るのだから、そこまで耐えられればいいというのが本音でしょう」

 河田惠昭 関西大学 特別任命教授 (防災・減災、危機管理)

p.206


多くの国家公務員の方々が、過酷な労働環境の中でも、国の将来に思いを馳せ真摯に取り組んでくれている。

でも無謬性志向なのか事なかれなのか。これが現実なら、官僚の保身によって無駄なお金が使われ続ける。

そもそも高い専門性が求められるいまの時代に二年での異動は早すぎる。 

▶︎ 危うく国の情報を当てにするところだった…

 朝日新聞の元科学記者で著書に「日本の地震予知研究130年史」などがある泊次郎氏は、(中略)「こうした仕組みが残ったことで、多くの人は南海トラフ地震が起こる前には何らかの情報が出ると勘違いを続けるのではないでしょうか。」

膨大な国費を投じて地震に対する監視網が構築され、それが活用されるのだと信じていたが、それは「勘違い」とのこと。

いまの科学では予知・予測は不可能で、地震は突然やってくるものなのだ。私たちができるのは「備える」こと。


ご自身が唯一の長所と謙遜される「粘り強さ」に加え、とことん真実の追求し、この問題を世に問うてくださった小沢さんの記者魂に敬意を表します。

第71回菊池寛賞の受賞、誠におめでとうございます!

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