まだ未発表のため現物は見せられませんが、マンガのネームをiPad Pro＋CLIP STUDIO PAINT PROで描いてみた、漫画原作者の所感です。

久々にネーム原作を描いている

マンガ家さんのリクエストに応じ、ネームで原作を渡すこともかつて何度かありましたが、私は基本的にシナリオ（文章）形式でマンガの原作を提供したい人です。
なぜなら、自分の絵柄は基本的に５〜６頭身のマンガ絵なので、シリアスなアクションものに向きません。マンガ家さんが実際に原稿に起こす際、ネームどおりに作画すると絶対バランスがくるうから。

でも、最近久しぶりに、ネーム原作を描いてたんです。
久々なので勘がつかめず、けっこう手間取っていた。noteの投稿が極端に減ったのは、そんな理由があります。

アナログ＋デジタルのちゃんぽんネームに辟易

描いたネームは、コピー用紙にシャープペンで描くアナログ作業でした。
しかし編集さんに送るため、結局スキャナで取り込んで、jpg画像にして送信。
何度か修正依頼を受付け改稿する作業もPC上で、Photoshopを使ってコマをコピペして移動させたり、セリフを書き直したり、注意書きを描き込んだり……。
大幅な修正があれば、新たにコピー用紙にシャープペンで描きつけ、またスキャナで取り込んで、ネーム画像にカット＆ペースト。

そんな作業を繰り返すうちに、世間は新型コロナ禍、非常事態宣言、外出自粛。
スキャナは仕事場にあり、私は自宅で自主的ロックダウン中。これではアナログ修正素材を取り込めない。
セブンイレブンのマルチコピー機で取り込むこともできるが、それもちょっとした面倒。料金もバカにならない。
（紙も使わずただデータとして取り込むだけなのに１枚30円って高くない！？）

もう、最初からデジタルでネーム描こうかな……と、手持ちのiPad Pro（10.5インチ・64G）をふと見るわたくし。
ようやくここからが本題です。

クリスタ使うならPRO？　EX？

幸い、デジタルで作業するマンガ家さんやイラストレーターさんの友人が多いので、正直に尋ねました。

「マンガの完成原稿ではなく、ネームだけiPadで描きたい。クリスタ導入するのはもったいない？　iPad Pro 10.5インチじゃ小さい？　てかクリスタのPROとかEXとかどう違うの？」

友人にいただいたお返事をかいつまんでまとめると以下のようになります。

・クリスタPROはイラスト用。マンガに使うならEX。なぜならEXはマンガ１話分ページをまとめて管理でき、PROだとできないから。
・マンガ家さんがクリスタユーザーなら、ネームのデータをそのまま渡せば即下書き的に使えるので作業がひと手間減ってありがたい。
・iPad ProとApple Pencil持ってるなら、初めてクリスタ導入すれば３ヶ月無料だから、とりあえずそのiPadに入れて使ってみろ。サイズ云々はそれからだ。足りんと感じたらiPad買い替えればいい。

というわけで、iPad Pro 10.5にCLIP STUDIO PAINT for iPad をインストールし、EX１年分の課金手続き（３ヶ月以内の解約なら料金かからず）をしてみた。
……というか、俺はプロなんだから「PRO」じゃないの？ 申し込むべきは「EX」なんだ。へえ。
イラスト用なら「CLIP STUDIO Illust」、マンガ用なら「CLIP STUDIO Comic」とかにすればいいのに。わかりづらいな。

超いいじゃん！ CLIP STUDIO

CLIP STUDIO PAINTの使い方などのTIPS、こうやって使ってみたみたいなことは端折ります。
ネットで検索すればクリスタ使いのイラストレーターさんやマンガ家さんが、たくさん解説しています。
ぼくの場合は、最低限「鉛筆」ツールでネームさえ書ければよい。

というわけで、編集さんとの電話打ち合わせで、最終的な微調整依頼の来た数カ所分だけ、クリスタを使ってネームを描いてみました。

紙に比べツルツルするペンのタッチ感は今は置いておいて、問題は10.5インチの画面の作業スペース感。
これ、精緻なマンガを描くわけでなく、設計図としてのネームしか描かないわけですから、ページの全体を見渡しつつざっくりコマ割り、人物・フキダシ配置、画面を拡大してひとコマずつ表情やセリフを描き足していくくらいなら、全然手狭な感じはなかったです。

出来上がったネーム素材は、
【ファイル-複数ページ書き出し-一括書き出し】でjpgとして保存。保存先はiCloudのデスクトップフォルダ。
クラウドを介してPCのデスクトップに自動で書き込まれている手軽さに驚愕。
なにこれ、楽ちん過ぎる。

あとはもともとPC上にあったネームデータにPhotoshopを使ってコピペして編集。
ぼくの場合はアナログから途中の修正でクリスタを使ったのでこの工程が発生していますが、最初からクリスタでネームを描いていれば、
【ファイル-複数ページ書き出し-pdf】で全ページ分PDF化。iPadからそのデータをメールに添付すれば即編集さんに送れるし、同じくiCloud経由でPCのデスクトップにも保存されるので、データを移す手間もなく、PCからでも送れる。

もしマンガ家さんがクリスタユーザーならば、CLIP STUDIOのトップから、
【作品管理-（該当マンガファイルサムネイル）-ファイル共有】で、共有方法を指定。AirDropやメールで、クリスタファイルのまま全ページ分まとめてZipで送れる。
なにこれ、楽ちん過ぎる。（２回目）

まだCLIP STUDIO PAINT for iPad を導入して２日ばかりで無料の３ヶ月がほとんど残ってますが、ネーム原作の仕事がもし続くなら、EX 年額7,800円？　超安いじゃん。
ネームしか描かない漫画原作者でも、課金する価値が充分にある。

クリスタに不満もある

それでも、改善してもらいたい点がクリスタにないわけではありません。
編集さんにチェックしてもらうためにPDFに出力した場合、データ上では見開きで描いていた２ページが分割されちゃうんですよね。
編集さんに見開き１枚でバランスを確認してもらいたいページが分割されちゃうと、正しく見てもらうには、そのデータを編集さんがプリンターで物理的に出力し、並べる手間がいる。

これは機能改善を要望する声が過去あったようで、2017年11月に投稿されたもの。

スクリーンショットはこちら。ぼくも同様の要望を持っています。

途中の別のユーザーさんの横槍要望が入っていますが、ぼくもこのとおり「見開きページを分けて書き出す」チェックをオフにする機能が欲しいなと。

ただこのスレッドは2018年8月にこのサポートの投稿を持って終了し、今も改善されていないということは、これはあまり重要とされなかった要望ということなんでしょうか。

というか途中で参加してきている「ぺけう」さんは、『少年ラケット』の掛丸翔さんでしょうか。（掛丸さんのHNは「ぺけうー」）
掛丸さん、その後掛丸さんはどのように対処していますか！？（と、エアー質問。）

追記[4/23]

その後いろいろ試しているうちに、上記の不満、解消されそうな気がしました。

見てください。一括書き出しの際の出力ファイルをPDFにすると、上記のように「見開きページを分けて書き出す」のチェックが外せない仕様になっています。

ですが出力ファイル形式をJPEGにしてみたところ、「見開きページを分けて書き出す」のチェックを外すことができます。
うん、別にこうやって見開きを一体化させたJPEGで渡してもいいし、そのJPEGを改めてPDFにまとめてもいいし、一手手間はかかるけれど、これでいいかもしんない。
追記は以上です。

最後に

ここまで書いておいてなんですが、そんなアナログとデジタルを妙にちゃんぽんして一応の編集チェックを経たネーム原作、実際にこの作品が皆さんの目に届くかどうかは、ハッキリ言えません。
講談社の主力漫画雑誌がのきなみ発行延期になったニュースにはびっくりしました。
『キン肉マン』も執筆状況が３密ということで休載というニュースもありましたが、この新型コロナ禍の中、マンガ業界にもとうとう影響が……と、明日は我が身と少し背筋が寒くなる。

持続化給付金の手続きが必要になる事態も考えられなくないな……と、私のような原作者を含めマンガ家さん、アシスタントさんも、赤松健さんのTumblr記事は見ておいたほうが良いかも。

無事この窮地を脱し、ぼくの作品が皆さんに届けられるよう祈っています。

もちろん、現在連載中の『宇宙戦争』もよろしくお願いします。
第２巻、４月11日に発売したばかり！　外出を控えている方には本屋さんでぜひ！ とは言いづらいですが、通販や電書もありますので！

漫画原作者の猪原賽でした。以上。