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2016年3月27日

音楽雑誌の発売日を毎月心待ちにして、大好きなアーティストのアルバムの封を丁寧に切り、ライナーノーツを読んで、歌詞カードの1ページ1ページを大切に捲りながらヘッドホンから伝う爆音を貪ったあの時代、ミュージシャンになりたいと考えるようになった。

実際に手が届きそうな場所まで辿り着く頃には随分と年月が流れて、かつて都心に存在したレコードメーカーの巨大なビルは崩れ、名前さえ聞かなくなって、見渡せば音楽の世界でプロとして生きていくことを志す若者も激減した。

僕にとってCDは、小説や漫画と同じ類のものだったんだ。

書籍をしまう本棚があるように、CDにも専用のラックがあった。

町に暮らす人ひとりひとりの顔を知る商店のおじちゃんとおばちゃんが店を畳んだように、故郷の単館劇場がすべて潰れたように、周囲は姿を変えていった。

才能があっても楽器を置いて、べつの幸せを見つけた仲間は父となり母となり、一緒に演奏したステージやスタジオの音も遠い記憶の彼方で微かに鳴り響くだけ、そんな光景がたくさん目の前で千切れて、変わらず手のひらに残るものは数えるほどになった。

昨日、眠る間にまた夢を見てね、都落ちして北海道で目を覚ました僕は懇願したんだ。

“ごめんなさい、誤った判断をしてしまいました、あのアパートに帰らせてください、願いが叶うならなんでもします”

信じ難いことだけど、思いが本当に強ければ神様は耳を傾けてくれるらしい。

せっかく戻ってこれたんだから、足早な春の過ぎる東京の空のカンバスに、性懲りもなく明日を描いてやろうと思ってる。

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