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『東海道中膝栗毛』をチラ読みしたら、江戸時代に生きてないのにビビっときたた話

日本の古典文学の授業の課題の一部に、「江戸時代の滑稽本の一部分を抜粋して感想を書く」というものがあった。
有名な滑稽本はというと、だいたい十返舎一九の『東海道中膝栗毛』とか式亭三馬の『浮世風呂』が挙がる。授業で内容を聞いた感じどっちもおもしろそうだったが、試しに『浮世風呂』の原文があるかどうかジャパンナレッジで調べてみる。やっぱりデジタル化されてる文献の方が便利だからね〜っと、
…ない。

そんなわけで『東海道中膝栗毛』を読むことにした。

やっぱり昔の文だからいくら江戸時代のものとは言っても読みづらい。正直最初は「与えられた」意識が勝っていたこともあって面倒だった。

それなので、まず読みたくなる部分がないかと「目次」を拝見。

すると、よく知る地元付近の地名があるではないか!とりあえずここから攻めよう。うむ。

ジャパンナレッジに収録されている小学館の『日本古典文学全集』はとても素晴らしいのでちゃんと難しい漢字にはふりがなを、わかりにくい表現には注釈がつけられている。ありがてえ。ありがてえ。

で、文字を追ってみた。


・・・感動した!!


滑稽本のはずなのにどうして感動してるんだと思われるでしょう。まあ、選んだ部分が弥次さん喜多さんが面白いことやってる場面じゃなかったことは一つの理由です。でも、感動した理由、

それはひとえに、「地元のあるあるが出てきたから」に尽きます。

今回抜粋した部分は「道中膝栗毛第三章下」で、現在の静岡県袋井市から歩いてきた弥次さん喜多さんが現・浜松市に到着した場面。

感動ポイント①「地元の地名が登場していること自体」

これは、今で言う「地元が映画のロケ地になるとテンション爆上がりする」のと同じだと思う。「え!そこめちゃめちゃ地元!先週の日曜通ったし!」みたいな感動。しかも今回の場合、「古典作品に登場している」ということでさらにレア感が高まる。

感動ポイント②「昔名産だったものがわかる」

今回の場面では浜松に着いた弥次さん喜多さんが、宿屋の客引きに勧誘されるシーンがある。そのとき客引きが「当所名産の自然薯(じねんじょ)があるよ」と言って二人を誘い込むのだ。
しかし浜松ネイティブである私、「自然薯」が名産だなんて知らなかった。たしかにスーパーの自然薯は「浜松産」と書かれているのをよく見た記憶があるけれど。これで令和の今でも名産だったらごめんなさい。でも、一応調べてみたのだ。すると2018年9月20日現在の政府統計「作物統計調査(平成28年産野菜生産出荷統計)」では、全国のやまいも収穫量が1位青森県、2位北海道、3位長野県で、静岡県の順位は23位だったのだ。なんということ。江戸時代から令和に至るまでに何があったの・・・?

感動ポイント③「地理的な特徴まで押さえてる」

やっとこさ浜松についた弥次さん、こんな歌を詠む。

「さつさつと あゆむにつれて 旅衣 ふきつけられし はままつの風」

注釈によると、この歌は「速く歩いたので颯颯の浜松風に吹きつけられるごとくに浜松の宿に着いた。」ということを言っている。浜松の冬は、遠州灘から勢いをつけて吹く強風が風物詩となっていて、先人がその風を少しでも和らげようと海沿いや大きな街道沿いに植えた松林は現在でも残っている。(松くい虫がひどくて最近減っちゃってるのが残念だけど)

江戸時代、『東海道中膝栗毛』が大流行したが、そのファン層の多くがすでに東海道・伊勢参宮の旅の経験のある人々であったという。一九の短い土地の説明や描写に誘発されて、この人々には楽しくその経験がよみがえってくることから共感を得たそうだ。

『東海道中膝栗毛』を読むことで現代に生きる自分の身にも、そうした地元の景色が懐かしく思い起こされることに衝撃を受けた日だった。

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