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西友のPBの売り方がおもしろい

我が家の行きつけのスーパーマーケット西友。

西友と言えば、ひと昔前は“価格やすく”をTVCMでバンバン打ち出して、とにかく安さを売りにしていた印象だったが、ここ数年はそんな激しいCMを見た覚えがあまりないのは、ぼくが子育てに追われてTVを見なくなったという理由だけではないはず。

そんな西友でふと感じた品揃えの特徴と西友の売場におけるマーケティング戦略みたいなものが垣間見れておもしろそうなので、ぼくなり深掘りしてみようと思う。

なお、これはあくまでぼくが消費者として利用している中で感じたことをマーケティング戦略っぽく書いていくだけなので、実際の西友のマーケティング戦略とは程遠い内容である可能性も高い。
ここから先はそこら辺を踏まえて、温かい目で見てもらえるとありがたい。

西友PBのコンセプト

西友のPB“みなさまのお墨付き”は、100名以上の消費者に実際に開発段階の商品をテストしてもらい、80%の支持を得た商品だけが店頭に並んでいる。
(ぼくの記憶では70%だと思っていたので調べてみたら、2019年10月に70%→80%とより審査基準が厳しくなった模様。一部2019年10月以前に開発された商品は以前の基準のままパッケージに記載されていることもあるそう。)

この、“支持”というのが具体的どういったものなのか。

“みなさまのお墨付き”評価基準
味+量+価格=総合評価
(日用品の場合は使い勝手+量+価格)


第三者機関が、該当商品を日頃から食べ慣れている/使用している20代~60代までの消費者の方に、味/使い勝手、容量、価格について4段階(非常に良い・良い・良くない・全く良くない)の総合評価と、その評価の理由を調査。企業名やプランド名は伏せて行われる。ここで80%を超えたものだけが合格となり、商品化へ進む。

※西友HPより

要はいつも食べてる(使っている)お客さんの8割が“この味(品質)でこの量にしては安い”、いわゆるコスパが良い!と感じた商品にだけお墨付きをつけられる。

小売業の本部で働く身としてはなんとなく、うまくやれば大体の商品がお墨付きをつけられるのではないか、などとも思える。

一般に、製造メーカーはPBとして年間の製造数量や一回の製造数量を約束したり、一括で倉庫に仕入れることで大幅なコストダウンが図れるし、メーカー商品のように広告費が不要なのでその分メーカー品と同等の品質なら確実に価格を下げることが可能だからである。

もちろん、その分のリスクは小売側が持っているので、どれだけそのリスクを許容できるかは小売側の規模や販売力にも直結する。
規模が大きく販売力の高い、西友であればまず間違いなくコスパの良い商品を作ることは可能だろう。

ただ、あくまでもこれは店頭に並んだときのコスパの話。
多くの消費者は、ブランドや売場、競合商品との価格差などのさまざまなバイアスがかかって購入に至る。

実際の消費者テストでは対象者に対して正しい評価を得るために、ブランド名・販売社名・生産者名やパッケージデザインなどは全て伏せてテストを行っているという。

ブランドを隠した状態での品質と価格となると、そのブランドに対する信頼やなんとなくの価格感が全くない中での評価となるので、店頭に並ぶよりも随分厳しめの評価となるだろう。
そんな中でも80%以上の支持を集めるというのは、店頭に並べばそれ以上のコスパを発揮するということは確実。

店頭に並んだときには競合のメーカー品のブランド力と戦わなければならないので、その分も含めてかなりコスパの良い品質が求められることも考慮し、厳しめの基準を設けているのだろう。

実際、西友HPには“みなさまのお蔵入り”と名して、過去商品化出来なかった商品たちも紹介されている。
こういった失敗も含めて公表することが、逆説的に商品化したものの品質の良さを伝えることに繋がっている。

さらに、商品化は出来なかったものも西友という会社がユニークな発想でチャレンジングな商品開発を行っていることも伝えることができるので、これを見た消費者は“みなさまのお墨付き”への好感度は爆上がりとなるだろう。(“みなさまのお蔵入り”というネーミングセンスも好感ポイントのひとつだったりもする。)

PBにセカンドブランド!?“キホンのき”

いつからか日用品を中心に品揃えが増えている、この“キホンのき”というPB。
我が家でもキッチンタオルなどはずいぶんお世話になっている。

日用品が中心ではあるが、缶入り炭酸水などもあり日用品のPBブランドというわけでもない。

よく見てみると採用されている商品群は、どれも強いブランドがないカテゴリーであったり、ブランドに左右されづらい商品のど真ん中、超定番の品揃えが多い。

基本的な機能さえしっかりしていれば、あとは値段が安い方がいい、という商品たち。

たとえば、大人用オムツはあるけど子供用オムツはなかったり、ペット用品も猫砂やペットおやつなど“必需品なんだけど、だからこそなるべく安くあげたいもの”がまさに、このブランドの特徴だろう。

この商品群の選定が絶妙で“みなさまのお墨付き”と“キホンのき”の棲み分けがなんともおもしろい。

おそらく、“キホンのき”の商品を“みなさまのお墨付き”にしなかったのは、開発にそこまで時間をかける必要のない商品群だからということだろう。

前述の通り、ブランドが販売力に影響しづらいカテゴリーの商品であれば、トコトン価格を追求するのが手っ取り早くシェアを獲得できる。
“みなさまのお墨付き”のように、消費者テストなどを踏まえている時間があれば、なるべく多くの商品をこのブランドで安く販売して、スケールメリットを出すことで利益を生み出そうという戦略なのだろう。

消費者からすれば西友で食料品だけでなく、日用品を一緒に購入してもドラッグストアと大差ないコスパなのであればわざわざ店を梯子する手間が省けるし、逆にドラッグストアの顧客を奪うことさえできる。

PBを売るための思い切った品揃え

PBそのものではなく、品揃えにおいてもPBを売るための工夫がとことんされている。

PBは製造数量が増えればコストを下げられるため、多くの場合は各カテゴリーで1番売れ筋の容器、容量、味覚のものが中心となる。

品質は大きく変わらず、メーカー品よりも安いがそれでも、ブランド愛好者や安心感を重視してメーカー商品を購入する消費者は一定数いる。
さらに言えば、価格の差も10〜20円のものであれば大きな差と感じずに“なんとなく”メーカー品を手にする消費者は意外と多い。

この“なんとなく”メーカー品を購入する人たちにPBを買わせる仕掛けとして、西友ではPBの競合となるメーカー品を品揃えしない、という大胆な戦略をたてているように思われる。

実際、我が家の近所の西友のソースの棚では、ソースカテゴリーのメインの売れ筋であろう「ブ○ドック中濃ソース500ml」は品揃えがなく、同容量のPBがズラリと棚を牛耳っている。
しかし「ブ○ドック中濃ソース300ml」は品揃えしているわけなので、決してこのトップブランド商品がバイヤーの目利きから外れているという訳でもなさそうだ。
つまり、敢えてトップブランド商品を棚から外しているということだ。

スーパーに来る多くの消費者は、よほどのそのブランドのファンでもない限りはトップブランド商品がないからといって別の店舗で買うなんてことはせずに、代替となる商品を購入するだろう。

そのときに、一番の代替の候補は同容量でしかも価格の安いPBになるだろうし、それでもなおPBを嫌がる消費者は容量の異なるトップブランドを選択する。
トップブランド商品がなくてもその需要を取り逃がすことは少ないので、西友にとってはメリットが大きい。

メリットが大きいわりにはここまで大胆にPBに品揃えを寄せるということをするチェーンが多くないのは、西友ほどの圧倒的な規模や販売力を持っていなかったり、トップブランド商品を品揃えしていないことで、チェーン全般の品揃えの悪さを感じさせてしまうリスクがあるからだろう。

商品の品揃えというのは、チェーンの特性や顧客ターゲットと密接に関わるため、高級路線のスーパーで西友のような戦略を取ってしまえば、たちまち既存の顧客は離反してしまうだろう。

一方で西友にくる消費者は、ある程度の品質とコスパのバランス、そして品揃えの豊富さを求めて来るお客さんだとターゲティングすることで、このような大胆な品揃えができているのではないかと感じる。

まとめ

冒頭にも触れたが、これはぼく自身が家族と近所の西友で買い物をしているときにふと気がついたほんの些細な点をHPからの情報なども加えて膨らまして書いたものであり、実際の西友のPB商品戦略や品揃えの戦略に合致しているかは定かではない。
実際に我が家の近所の店舗でのソース売場ももしかしたら、店舗マネージャーが近隣の消費者動向を分析して敢えてそのように取扱い商品を絞っているのかも知れないし、たまたまトップブランドが品切れ中だったということも考えられる。

あくまでも、妄想の域をでない考察ではあるが、売上を伸ばし続ける企業やブランドというのは、その裏側には必ず戦略やブランディングを磨き上げる作業がされているものだと思う。

これだけの規模でありながら、PB商品開発と品揃えの考え方が一貫しているというのもそれだけ社内に西友というブランディングが浸透しているという証拠だろう。

我が家は既に西友ヘビーユーザー家庭ではあるが、深掘りをしてみてただのコスパの良いチェーンだけではないということも知ることができた。

次回ソースを買うときは容量の少ないトップブランドよりもいつもの容量のPBソースを妻に薦めてみようと思う。

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