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日本の「絹(シルク)」は人工血管で「再生」するか

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(画像=PIXTA)

「高級品」である「シルク(絹)」。優雅な光沢やしなやかな肌触りに加えて天然繊維の中でも綿の1.3倍から1.5倍の吸水性があり放湿性も綿に匹敵する。

世界の「シルク(絹)」は3種類に分けることができる。世界最高級は「マルベリーシルク(Mulberry silk)」である。厳しい条件の下で飼育された蚕から作られる桑の絹は最も高価で上質な絹とされている。2つ目はインド東部でつくられる「タッサー・シルク(Tussar silk)」だ。桑の葉ではなく沙羅双樹の葉などでつくられる絹である。「エリ・シルク(Eri silk)」はエリ蚕という野生種の蚕(wild silk)からとれる繭である。「絹」といえば「光沢」のイメージだが「エリ・シルク」は生成りでコットンのような肌触りが特徴だ。

(図表:カイコ(Silk moths))

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(出典:Wikipedia

「養蚕業」と「製糸業」は明治から昭和初期にかけて日本の主要産業であった。明治維新で西洋と肩を並べていかなければいけなくなった我が国を何もない状況から救ったのが蚕から産出される生糸であり、絹製品だった。餌となる桑についても日本はその生育に際して好条件の立地だった。養蚕業、製糸業、そして絹産業は我が国において「ゼロから 1 を生み出す」打ち出の小槌だったといえる。さらにそれに関連した技術革新を通じて幅広く我が国経済の発展の礎を創り、同時に莫大な国富を日本へと移転してくれたのである(IISIAマンスリーレポート2019年4月号参照)。

片倉工業株式会社(TYO: 3001)はまさにその時代に創業された(1873年、明治6年)。当時日本の輸出総額の約4割が絹製品であり日本最大の製糸企業を持っていた片倉財閥は「シルク・エンペラー」とも呼ばれた。現在は繊維事業、不動産事業、医薬品事業、機械関連事業など多角的な事業展開をしている。

(図表:糸繰り(繭から糸を引き出して紡ぐ作業))

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(出典:蚕飼絹篩大成

現在日本の製糸業は縮小傾向にある。現在関東や東北地方を中心に小規模な産地が残るのみとなった。過去10年の間(平成21年から平成31年)に養蚕農家数、繭生産量は共に約3割の水準まで減少している。これに伴い生糸の生産数量も大きく減少した(参考)。

他方で世界の「絹(シルク)」の需要は増加傾向にある。世界の繊維市場に占める「絹(シルク)」の割合はわずか0.2%以下だが国際貿易センター(ITC、International Trade Centre)によればこの数字は誤解を招きやすい。ほとんどの輸入国では完成品の絹製品に関するデータが不足しているため評価は難しいものの実際の貿易額(trading value)は数十億ドル規模にのぼる(参考)。

今「絹(シルク)」が「再生医療」の材料としても注目されている。優雅な光沢や滑らかな肌触りが特徴的だが実は最強の繊維でもある。蚕がつくる絹は同じ太さの銅鉄線よりも強い。丈夫な上に生体適合性が高く昔から外科手術の縫合糸として使われてきた。絹の人工血管は血栓ができにくい(参考)。東京農工大学の朝倉哲郎教授は世界で初めて絹の人工血管をつくることに成功し研究を進めている(参考)。

「衣食住」の「衣」を超えた医療における「絹(シルク)」の新たな可能性に期待が高まる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮 美樹 記す