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ニシン漬けとラーメンと私

色々あって離婚した。
子供2人連れて知らない土地で働くことになった。
その時の思い出。
私はいつも、こういう人たちに助けれたことを
どこかに記しておきたくて、書きました。


長距離バスに1日中乗ったけど、目的地にまだたどり着かない。
終点の港町で一泊して、
明日、バスを乗り継いで目的地行く。
海の向こうにロシアが見える町が次の職場だ。

ホテルに荷物を置いて、
子供を連れて遅い夕飯を食べに行く。
田舎の繁華街にあるのは
スナックと怪しい店とその客目当てのラーメン屋。

カウンターだけのラーメン屋の丸椅子に子供たちを座らせ、
見慣れない子連れの女がラーメンを注文する。

女店主は、ぶっきらぼうにラーメン3個と、
お椀にどっさり、ニシン漬けを出した

戸惑う私に
「食べればいいしょ」と深いシワの老女が言う。

美味しいニシン漬けだ。
どんぶりいっぱいのニシンづけ。

着の身着のまま、
男から逃げてきたと勘違いしたのかもしれない。
こんな田舎の港に、
迎えにきてくれる人のアテもなく、
ラーメンを注文する哀れな女と子供。

何か言いわけをしたかったけど、
子供はラーメンの中のワカメが嫌だとぐずるし、
とっても、とっても疲れていたから、

何も言わずに
どんぶりいっぱいのニシン漬けを残さず食べることにした。
残せば捨てることになる。
店主の思いやりのニシン漬け。
完食する私の意気込みを、
ここに、逃げにきたわけではない。
生きるために来たことを
空になったどんぶりで返事した。

しょっぱいラーメンに、
しょっぱいニシン漬け
しょっぱい人生に
丁度いい塩梅だ。


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