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【短編小説】ペットボトルから、ペットにしてほしいとお願いされた

 高校の昼休み。飲み終わったペットボトルをゴミ箱に捨てようとすると、
「あ、ちょっと待ってください。捨てないでほしいです」とペットボトルにお願いされた。
 そんなふうに言われるのは初めてだったので少し驚く。

「どうして?」と僕が聞くと、
「ペットにしてくれませんか」とのこと。

 ペットボトルに言わせれば、ペットボトルも同じPETなのに、犬や猫のように可愛がられないのはおかしいそうだ。そして、犬や猫がいかに恵まれているかを熱弁してくる。
 意味はちっとも分からないが、無下に扱うのは失礼な気がする。とはいえ、早く教室に戻って昼寝したいのも事実なので、上手く断らないと。

「ペットになるっていうのは、いいことばかりじゃないんだよ」
「えっ、そうなんですか」
「うん、仲良くなればなるほど、最期のお別れがつらくなるんだ。プラスチックってのは、何百年も生きられるそうじゃないか。まず間違いなく飼い主が先に死んでしまうだろうね。その孤独に耐えられるかい?」
 現実を突きつけると、ペットボトルは黙ってしまった。

 30秒ほど待っても返事がないので、よし、もう捨ててもいいかと思ってペットボトルを持ち上げると、「でもっ」と声を上げるペットボトル。

「でも……」
 言葉が続かないペットボトル。
 このまま沈黙されても困るので助け舟を出してみる。

「ほら、ペットボトルってリサイクルされるだろう。これで終わりじゃないからさ、すぐに決断を出さないでじっくり考えてみたらどうだい?」
「……たしかに、そうですね。少し冷静になろうと思います。衝動的なのはよくないですよね」と言って頷くペットボトル。
 落としそうになるから勝手に動かないでほしいなと思いつつも、納得してくれてよかった。

「じゃあ、また会おうぜ」
「そうですね。お騒がせしました。では、また」

 お別れの挨拶を交わし、ようやくゴミ箱にペットボトルを入れようとした瞬間、「あ、ちょいまちっ」と同級生の声。
 ペットボトルをペットにでもしたいのかと、冗談のようなことを思いついてしまったが、そうではないらしい。

「俺の弟が夏休みの工作でペットボトルたくさん使うみたいでさ、集めてんだよね。それもらってもいい?」
「OK」と僕は即答する。

 ペットボトルは黙っている。ペットになれるチャンスが急に舞い込んできて嬉しいものの、たった今「衝動的なのはよくないですよね」と言った手前、僕の目を気にして大喜びできないでいる、とみた。

 なんだかペットボトルに睨まれているような気がする(どこに目があるかは分からない)。僕のテキトーさに怒っているのかもしれない。先ほどの流れからすれば、僕は、「おい、同級生。このペットボトルには考える時間が必要なんだ。誘惑しないでやってくれ」と言うべきなのだろう。

 ちょっとだけ心苦しく思ったが、残念ながら眠気には勝てず、僕はすやすやと教室に戻っていった。

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