ふたりだけの世界

初めてちゃんと付き合った、五年続いた元彼は
働かないニートで生粋のダメ男だった

それと同時に男をとことんダメにするクズ女の話し。

派手髪を後ろでしばったTheチャンプロードみたいな男だ、初めはこんなに続くなんて思ってなかった

付き合った時、実は他に女がいる事を隠されていて
知らずに交際が始まった

半年経つまでその事実は知らなかった

何故か彼の家に上げてもらえず仕方なくごみ溜めみたいな私の家に入り浸り、半同棲の様な生活をしていた

ちなみに、家にあげたのは彼が最初で最後だ

当時、十五歳だった私が家に金髪男を転がり込ませたのに家族は何一つ口出しせず半年後には元から居た
家族みたいな扱いだったのは未だに不思議である。

土曜日の昼間、インターフォンが鳴った

ドアを開けると知らない同世代くらいのヤンキー女とやたらイカつい男がいた

「○○いる?」

明らかに怒った様な顔でキツい口調だった。
なんか知り合い来たよ!と告げると彼の顔が急に青ざめた

話をしに外に出て行くと、何が起きてるか分からず
急に不安がよぎった

「どうしよう......」

戻った彼はボコられて口端から血が出ていた

事態がよく分からず話を聞くと、ヤンキー女とは元々付き合っていて自然消滅状態だったらしい

さらに、彼女は16歳で彼の子を身ごもっていて半年経っていておろせるか分からないと言った

詰まる所、孕ませて逃げて私を隠れ蓑にしていたのだ

どんだけ良い所をあげてみても、取るに足らぬ
最低最悪な男である

追い討ちかけるように彼は続けてこう言った

「お前と付き合ってるし、アイツと別れたいから下ろす金を準備しないと殺される」

嘘みたいな話ではあるが、この台詞はハッキリと覚えている

これを鵜呑みにする程......私は馬鹿だった

結果、私は知らない女に三十万を払う事になる

当時の私にはこの事態の深刻さがまだよく理解できず、すんなり払った訳じゃない

そもそも、私は知らなかったし関係ないハズだ......

彼女は親に出てもらい中絶手術をしたらしく週に何度も金出せ!とインターフォンを鳴らした

以来、インターフォン恐怖症になる

あれだけ怒るのも当然で、私には想像できないくらい辛い思いをしたのだからと思うと居た堪れず分割で支払いますと約束をした。

何で私がこんな事してるのか分からず、工場で透明のシャンプーハットみたい帽子被ってサンドイッチのパンにハムを高速で並べる仕事をしながら涙が出た

彼は泣いて謝ったけど、自分で働いて返す選択肢はまるでない本物のクズ男だった

クズだと分かってるなら、知らないと突き放せばいい話なのに私にはそれができなかった。

それは私が善人だからではなくて、同時に生粋のクズだったからだ

生まれて初めて、他人にこんなにも必要とされ
私が居ないと生きてけないと漏らす彼の戯言に酔いしれていた

家族とは元々折り合いが悪くあんな事があったので帰れないと言い、あれ以来彼は友人を全員失いひとりぼっちだった

あんなにイキってた男が丸まって怯えているのを見て最低な言い方をすれば、捨て猫を拾った様な気分になった

「私がなんとかしなきゃ死んじゃう」

バカみたいに幼稚で、本気でそんな風に思っていた

月に十五万程度稼いでいたので割と早く返済は終わり、それからは彼の携帯代を払い煙草を買い与えていた

私が仕事をしてる間、ポテチを食べ一日中ゲームして待っている姿を見ても怒る所が安心すら覚えていた

素行も全て最低な奴だけど、気の優しい男だった

自ら家事を手伝い、家族分のお弁当まで作り出した

ヒモ気質がいかんなく発揮され、世話のかかる弟の面倒を見たり掃除や家事をせっせとこなし、あの時だけはごみ溜めが幾分綺麗にみえた

三年が過ぎた頃には立派な家族の一部になっていた

働かない以外は......

そろそろ働いたら?と気軽に口にできないレベルに達していた

私には少ないけど友達も居て、時々遊びに誘われても友達が一人もいない彼に出掛けてくる!とは言いづらく断り続けると次第に誘われなくなった。

同世代のカップルが遊ぶ様なデートはできず
たまに行くディズニーランドが夢みたいだった

当時買ったプーさんのぬいぐるみと会話する様になると(冗談ではなく彼は本気だった。なんならご飯まで与えていた、クマの人形に......)

さすがの私でも引きそうな事態なのに、それすら愛おしく感じ一緒になってクマの人形と会話した

これも嘘だろ、と思うような危ない本当の話である。

二匹のプーさんを可愛がり、平和に暮らしていたが
私の転職を期に状況は一変した

十八歳になり、当時憧れだったショップ店員になった

パンにハムを挟むだけの毎日にも飽きて何か新しい事がしたかった。

お洒落も、雑誌を読むのも大好きだったので
慣れない仕事も楽しくて天職だと思った。

電車通勤、研修、ヘルプ、と忙しい日々を過ごし
初めてのクラブ遊びも覚え身なりもどんどん派手になった

そんな私を見ても焦る素振りも見せず、ヘトヘトになって帰るとご飯の準備をしてくれて私が食べてる間
彼は相変わらずプーさんにご飯をくれていた......

良くも悪くも、彼は変わらずにずっとそこに居た

私は安心する反面、急に物足りなさと苛立ちを感じた

仕事の先輩は彼氏と海外に行ったり、お洒落なデートをしたりプレゼントを貰っているのに私の彼は......

自分で拾ったくせに、新しい世界を見たら煩わしさを感じはじめてしまったのだ

本当に、最低な女だ。

そんな時、職場の四つ年上の店長に言い寄られた

こんな風に言い寄られのも久しぶりで、舞い上がってしまった

仕事ができて、明るくてお洒落でかっこよかった

いい感じの雰囲気を匂わせる関係になると、突然
彼は仕事を辞めると言い出した

それと同時に、実は彼女がいたけど別れてきた
これから結婚を前提に付き合ってほしいと真面目な告白をされた

今の収入じゃ養えないから、より給与の高い営業の仕事を決めてきたと......

急な展開に全くついていけなかったが、押しが強くて男らしくてクラクラした

それからなし崩し的に付き合う事になった

働いてない彼氏が家にいる話をした上で......

言い訳する余地もなく、浮気だった

店長に夢中になるにつれ彼との別れが頭によぎった

何年経っても働かないし、将来性ないし、人形と話す程幼いし......

いくら別れの理由をあげても、べったり一緒に過ごした彼を引き剥がす事ができずに同時進行していた

彼が昔やっていた事と同じ、本当に最低な行為だった

初めは浮かれていて何も考えられなかったのに
別れを意識すると、どんどん自分の首を締めた

とことん浮気に向いていない

こんなの悪いことと分かってるのに、苦しんで当然なのに、ひとりぼっちの彼にどうしても別れを言い出せずにいた

そんな関係も数ヶ月過ぎると、さすがに答えを出さなくてはいけないと追い詰められた私は狭い風呂に入りながら、下を向いて彼に言った

「もう、別れたい」

彼は目を丸くして、泣いてるみたい顔で笑った

「え、嘘でしょ?やだよ......一人にしないでよ」

こんな時だけドラマみたいな台詞言わないでよ

自分で切り出したクセに悲しくて泣いてしまった。
お互い泣いた後、距離を置くという形にして家から出てってもらった。

彼は、あんなに嫌がっていた実家に帰る事になった

それからはれて店長との明るい未来!となるはずなのに気分は最悪だった

何をしてても、彼の事が頭から離れない

今どんなに寂しい思いをしてるかと考えただけで苦しくなった

自分が切り捨てたくせに、同情するなんて
本当に嫌な女だ......

結局、あんなに悩んだ末別れを切り出したのに
店長と別れて彼と続ける事を選んだ

ただ、また元に戻るんじゃなくて別々に暮らして
働いて自立してほしいと伝えると彼はすぐに仕事をみつけてきた

すごい!やればできるじゃん......

結果、離れた事で彼は甘えから解放され働く事もできて今後より良い関係になれるかもしれないと思った

休みが合う日にデートして、ご飯をご馳走してもらう新しい関係になった

寂しいけど、自立して今度は二人で暮らせたらいいね!なんて呑気に話していて、その時私は自分のした事の重大さに気づいてなかった......

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