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年収288万円正社員アラサーが職場で泣き崩れた日

※一部の職業に対してネガティブな心境を語っていますが、決してその職業を否定しているわけではありません。
単に私自身のキャリアプランに当てはまる職業ではないというだけの話なので、どうか気分を害さず…。


私は30歳独身女
年商が1億円・借金も1億円の赤字零細企業に勤めて一年余りになる、年収288万円の会社員だ。

何故こんなに借金が膨れ上がってしまったのかというと、
社長夫妻を始めとした凄まじい経費の無駄遣いを咎める者が誰1人いなかったから
経営が総括的に下手クソすぎるから
他にも細かいことを挙げたらキリがないほど、様々な原因がある。

何故私はそんな崖っぷち企業で正社員になったのかと言うと、
ストレスフリーな環境とたまに感じる仕事のやり甲斐というプラスの要因が、待遇の悪さというマイナス要因をほんのわずかにだけ上回ったからである。

零細企業だからこその自由な環境で、今日まで割とのびのびと働かせてもらってきた。
常日頃ブチギレそうになる出来事はあるものの、それなりに楽しくやってきたし、これからもこの会社が続く限りできるだけ長く勤めたいと思っていた。

しかし今日、その心意気が崩れ落ちてしまうような出来事があった。



やや話しが長くなるが、今日までの身の上話を聞いてほしい。



私は大学卒業後、3社で正社員の事務職として勤めてきた。
1社目は総合商社の貿易事務
2社目は学校関連団体で経理事務
どちらも待遇・安定性は特段悪くなかったが、様々な悪要因が重なり数年で辞めた。

現在勤めている会社は、食品製造や飲食店を経営している企業だ。
従業員は10数名。
社長、その奥さん、常務、事務職の先輩、私の5人が事務所勤め。
あとは飲食店勤務のスタッフたち。

この会社との出会いは一昨年の10月、ちょうど2社目の退職直後で転職活動をしていた頃。
Instagramで、事務アルバイトの求人投稿を発見した。
この会社が経営している飲食店に何度か行ったことがあり、お店のアカウントをフォローしていたのだ。

《募集要項》
・業務…メール対応、資料作成など事務仕事
・勤務時間…10-17時
・休日…土日祝

事務仕事・土日祝休み希望の私にとっては、ありがたいアルバイトだ。
すぐに面接をしてもらい、難なく採用が決まった。

次の転職先が決まるまでの繋ぎのつもりだったが、時が経つにつれて会社の一員と化していった。
"頑張り次第で正社員登用可能"と面接時に言われた時点で、心のどこかで甘えが生じていたのかもしれない。

日が経つとともに仕事への熱量が深まり、この会社の繁盛のために、アルバイトの枠を越えた仕事をこなしてきた。
時給1000円のアルバイトとしてはかなり優秀だったと自負している。


アルバイトを始めて1年経った昨年12月、やっと正社員登用の面談をする運びとなった。
「年収は言い値だから考えておいてね!」と常務から言われていた。

私はかなり悩んでいた。
本来ならば、転職前より幾分上の年収で交渉するのが妥当だろう。
しかし、私はこの会社が"崖っぷち企業"であることを痛いほど認識していた。

残業代は1円も支給されない
ボーナスはもちろんなし
ずっと赤字経営続き

全部事前に知っていたので、「言い値でいいよ」なんて言われても、気を遣わざるを得ない。
よって私の出した結論は、
「320万円でいかがでしょうか」だった。

前職より40万円ほど低い金額。
ずっとカツカツの収入で生活してきた私には、これが譲歩できる最低限の年収だった。

正直、さすがに余裕で承諾されると思っていた。
新卒の頃に見ていた求人の初任給がだいたいこのくらいの額だったから。

しかし、その金額を聞いた社長と常務は、予想に反して渋い唸り声を発した。
そして返ってきた回答がこちらだ。

「288万円でどうかな?」

288…?
300を切っているのは、何かの間違いか??

200万円台って、大学卒だと新卒の初任給でも見向きもされない金額ではないか?
額面が288万円だと、手取りなんていくらになるの?
というか、言い値の年収でOKという話はどこへいったんだ?

思考回路がショートしかけたが、この会社で正社員になるために貴重なアラサーの1年間を捧げてきたのだ。
もう後戻りはできない。

「その年収でお願いします」
と了承する他なかった。

こうして晴れて、ボーナスなし・退職金なし・福利厚生なしのド貧乏企業の正社員となったのだった。
それでも気持ちを腐らせることなく、"早く黒字経営に回復させて、年収上げてもらうんだ!"と意気込んで仕事に取り組んできた。



ここまでが身の上話。
ここからは今日の出来事の話。



午後、突然社長が数枚の資料を皆のデスクに配布しだして、おもむろに経営会議が始まった。

細かい数字の書かれた資料と、"2月店舗シフト表"と書かれた紙だ。
それは来年度の目標収支額一覧表と飲食店勤務のシフト表のようなのだが、シフト表には何故か私の名前が数カ所に記されていた。

「赤字続きでピンチなので、売上増加のために飲食店の営業時間を長くする。しかし新たに人を雇うお金はないので、事務職社員にも飲食店で勤務してもらう。」

は??私って事務職として入社したのよね?
なのに販売の仕事をしろと言っているのか??

衝撃的な発表に思考停止している間にも更なる衝撃発言が続く。
「人員が足りないから、ひょっとしたら土日も出勤してもらうかもしれない」
土日休みのデスクワーク会社員なのに、販売アルバイトのような勤務を強制されている……。

来月からは事務職の傍ら、飲食店で接客や仕込み等もこなしてねヨロシク〜というわけだ。

一通り社長から説明があった後「この業務方針でいいかな?」と聞かれた。

「会社の指示なら従うしかないので、まぁやるしかないですよね…」
と全く乗り気ではない心情を素直に表現しながら了承した。

今後の経営方針の話がどんどん進んでいく。
その間、私はほとんどうわの空だ。

年収288万円という普通なら論外な低年収でも、やり甲斐だけでかろうじて何とかやってこれた仕事だ。
それが業務内容が一変して、全く興味のない販売職を一から覚えることになるの?


"年収288万円でやりたくない仕事して、これが私の望んでいたキャリアなのか?"


そう考えた瞬間、涙がツーッとこぼれてきた。

しばらく声を殺して静かに泣いていたがついに我慢の限界を越え、しゃくり上げて泣き崩れてしまった。
社長、その奥さん、上司、先輩。
その場にいた全員が驚いていたのが、涙で俯いていても分かった。


——勝手に私を販売員として働かせて、私が嫌がったところで拒否できないのは分かってるだろう。
賃金さえ払えば何でもすると思うなよ、私はロボットではないんだぞ。
ちゃんと感情があるんだ、これ以上会社に振り回されたら心が崩れてしまいそうになる。

事務仕事で売上増加させたら年収も上げると言ってたのに、販売の仕事に時間が取られて本来やるべき売上増加が実現しなかったらどうするの?
私の年収アップのチャンスなくなっちゃうよ?

だいたい何で今まであんたたちが経費を無駄遣いしたりヘマしてきたせいで溜まったツケを私が拭わなければいけないのか。

お金を稼ぐためにこの会社に勤めているつもりだ。
しかし人員不足だからと言って本来の職種以外の仕事も少ない賃金で強制されるって、これではただただ会社のために慈善活動してる感覚なんですが。

大学まで通わせてもらって留学にも行かせてもらったのに、新卒の初任給以下の年収で大学生バイト並みのキャリアを歩むことになるのか。
両親に申し訳なくて、合わせる顔がない。
私がいずれはこの会社で正社員になると言い続けてきた頃、ずっと心配してくれてたよね。
あれだけ過保護な母が"ボーナスと退職金が出る会社ならいいんじゃない?"と最大限の譲歩をしてくれたから、「ボーナスも退職金も出るらしいから安心して!」と嘘をついて就職してごめんね。
やっと正社員になれたよと報告した時も「一安心やね、続けられそうな会社なら良かったね」と喜んでくれたのに、ごめんね。

新卒で勤めた商社の一般職は、2年目の時点で今より100万円近く年収が高かった。
2社目に転職して少し年収が減り、今の会社に転職して更に年収が減った。
歳を重ねるたびに、友達との収入差が広がっていった。
友達は都心のお洒落なランチを気兼ねなく楽しんでいたが、私はどうしても内心出費が気になってしまっていた。
だんだん私は友達を遊びに誘わなくなった。



——いろんな思いが溢れてきて、涙が止まらない。
それでも話し合いは続く。

社長の奥さんが
「社長も飲食店勤務が続くと、育児がワンオペになるし、家族団欒の時間もなくなるんだけど。」と不満気に漏らした。

うるさい。あんたたち家族のことなんか従業員からしたら知ったこっちゃないんだ。
あんたたちが今まで家賃や車代やお高いディナーを経費で払い続けてきたから従業員に皺寄せが来ているのに、よくもそんな口が叩けたな。
私よりもあんたが身を粉にして店頭に立たなくちゃいけないのではないのか。

事務職の先輩は
「今会社が持ってるお金が100万円程度で、あと数ヶ月この赤字が続くと、キャッシュがなくなってしまう」と言う。

そんなの聞いてないよ、借金が1億円あるのだって正社員になるタイミングで後出しみたいに暴露されたのに、これ以上やばい経営状況隠してたのかよ…
本当に私はこの会社について行って大丈夫なのかよ…


余りにも少ない収入に悲しさや焦りが押し寄せる一年余りだった。
30歳、特段スキルもキャリアもない事務職が転職するにはそろそろ厳しい年齢だ。
それでもこの会社で頑張っていこうと、貯金を切り崩しながら生活してきた。
その結果が、こんな使い捨ての物みたいなどうでもいい扱いか。
私がいろんな葛藤や苦悩と戦いながらこの会社に費やしてきた一年余りは一体なんだったのか。

今まで積み重ねてきた"楽しい" "嬉しい" "頑張り甲斐がある"というモチベーションが、事務職のキャリアとともに一気に崩れ去ったのを感じた。
今日1日で一瞬にしてガラガラと崩れ去ったのだ。
そして、それは二度と再び修復することはない予感がしている。


結局経営会議は3時間の長丁場となり、とりあえずこのシフトで皆で頑張るしかない、という結論で締まった。
上司や先輩は泣き崩れる私に謝ったり労りの言葉をかけてくれたが、心折れ切ったまま職場を後にした。


仕事帰り、長引いた会議のせいで近所の八百屋が閉まっていたので、いつもは行かないスーパーに野菜を買いに行った。
ニンニクが1個130円、舞茸1パック298円…高すぎる。近所の八百屋の倍はする。
たかが数十円の差ですら私には充分高いのだ。私はろくに野菜すら買えんのか。
買い物ひとつ取っても世知辛いなと再び泣きそうになりながらスーパーを出た。
結局別のスーパーで妥協できる安さの野菜を買って帰った。

満身創痍だ、泣きすぎてすっかりお腹も減った。
ここはペペロンチーノをつくろうではないか。
私は自分が作るペペロンチーノがとても好きだ、お店のよりも塩分たっぷりでジャンクな味がするのだ。

涙で根こそぎ塩分が流れ出たから、さらに塩分多めでもいいか。
中途半端に残っていた食塩を、パスタを茹でるお湯にざーっと全部入れ尽くした。

こうして出来上がったパスタは、思った通り塩っ気がばっちり効いていた。
でも大量に入れた割には、ちゃんと美味しい範囲の塩味に収まっている。成功だ。

悲しい気持ちの日のペペロンチーノは、ちょっと塩を入れすぎるくらいがちょうどいいんだな。
最悪だった一日は、少しだけ幸せな気持ちで幕を閉じた。


この悲しくてやるせない気持ちはしばらく切り離すことはできないだろう。
今日みたいなつらい日には、またお塩たっぷりパスタで元気をつけて、明日からも腐らずがんばろう。

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