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2024/4/1

夢を見た。

わたしは、老齢の学者とふたりで、どこか遠い場所に立っている(以後、彼を博士と呼ぶ)。べつの星のようでもあり、そうではないのかもしれなかった。視界はどこも赤茶けていて、砂嵐のようなもののなかにいた。博士は異国風の顔立ちに、黒いジャンパーのようなものを着ている、見た目にはそのようには見えなかったのに、わたしは彼がなんらかの学者であると分かっている。

赤い砂嵐のなかで、彼はわたしに下を見ろと言った。火星のような地表に跪いてみると、なにかの鉱物の塊が落ちているのが間近に見えた。顔を近づけると、深紅や、あるいは濃紺をした細かな結晶が、くっつきあって大きな塊をなしているらしかった。あとからなにか高温にさらされて、そうなっているように思われた。ひとつだけ、大きく成長した結晶があった。奇妙なまでに美しい直方体で、おろしたての消しゴムほどの大きさで、やはり深い青色をしていた。

そこではなにかが終わろうとしていて、私たちはそれを危惧している。


一瞬にして、あるいは長い時間が経って、べつの場所か、あるいはべつの夢なのかは分からない。わたしは丸くすべすべとした小さい石を指にかけて、水切りのようにそれを投げる。海だった。石は二、三度水面を跳ねたあと、外れたタイヤが跳びはねるように、やがて体勢を縦にかえて、その先も波間をはねつづけた。いつまでもいつまでも跳ねていた。勢いがなくなることも、沈むこともないようだった。一度はサーフィンのように、遠くの波をスライドするように乗りこなしてみせた。ただそれは、あくまでも私が投げた力と、自然の法則とのみで起きていることに過ぎない。ながい時間、わたしはそれを見つめていた。となりにはもう博士はいなかったし、いたのかもしれなかった。

じっと見ていた石は、徐々にこちらに進路を変えているように見えた。石は幾度も波間をはねとびながら、少しずつ近づいてくる。投げたときよりも明らかに速いスピードで、石はほんとうに戻ってくるようだった。わたしは砂浜ではなくて、なにか黒い護岸のようなものの上に立っていた。こんなことがあるのかと思っているわたしの横を、縦回転のまま、石はやはりものすごいスピードですり抜けて、護岸のうえを転がり、やがて後ろの壁面に当たって、止まってしまった。

近づいてみたところ、石は投げたときよりもあきらかに大きくなっている。指にかけて投げたはずの石は、手のひらよりひとまわり大きく、とても片手で水切りができるようなサイズではなくなっていた。

そこで終わったか、それ以上は忘れてしまった。

目が覚めてから、石の大きさについてしばらく考えてみたが、あれは遠近法を使ったんだと思う。

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