くろたん

くろたんの日記的な何かです。 短歌や言語について。

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最近の記事

2024/4/1

夢を見た。 わたしは、老齢の学者とふたりで、どこか遠い場所に立っている(以後、彼を博士と呼ぶ)。べつの星のようでもあり、そうではないのかもしれなかった。視界はどこも赤茶けていて、砂嵐のようなもののなかにいた。博士は異国風の顔立ちに、黒いジャンパーのようなものを着ている、見た目にはそのようには見えなかったのに、わたしは彼がなんらかの学者であると分かっている。 赤い砂嵐のなかで、彼はわたしに下を見ろと言った。火星のような地表に跪いてみると、なにかの鉱物の塊が落ちているのが間近

    • くろたん一首評(20221016)

      (原文が、改行を含む歌で、コピペしただけなのですが、スマホで見ると歌が不自然に分断されて見えるかもしれません。) 本気で懇願、してないでしょう、って勝手に決めつけて思って、なぜかといえば、「聞き入れられることはなく」の他人事感というか、はじめからあきらめているものを、懇願と呼ぶべきか、よくわからないけど、とにかくなにかこの人ははじめから諦めていると思う。バスの大きさに道幅は対応することは、ない。それは世界がはじめからそうなっているからで、たぶん、見た目には、道がバスを受け容れ

      • 日記 20220310

        なにか書かねば、と思う。 最近、なにも書けなくなった。 「書けなくなった」というとき、なにか書きたいのにうまくまとまらない、という状態が想起されるかもしれないが、僕のはそうではなく、「書きたいことがない」というか、もっと言えば、状態として「書く必要がない」ような気がする。それでもあえてこうやってなにか打ち込んでいるのは、僕がついこの間まで書くことをアイデンティティとしてきたがゆえに、なにか、起きてしまった変化をまだ受け入れないための策として、書いているのだと思う。 短歌の

        • 2021年、読んだ本

          〈歌集〉 予言 イーハトーブの数式 えいしょ2020 虹を見つける達人 リヴァーサイド 西ベンガルの月 えーえんとくちから 光るグリッド 前線 Bootleg ビギナーズラック 煮汁 光と私語 新しい猫背の星 色の濃い川 広い世界と2や8や7 地上絵 恋人不死身説 パン屋のパンセ 夜のでかい川 感傷ストーブ 砂丘律 九夏 浜竹 水中で口笛 水庭 アイのオト 起こさないでください まばたきで消えていく 日本の中で楽しく暮らす 僕は行くよ ナイトフライト 緑の祠 プーさんの鼻

          くろたん一首評(2021/9/28)

          I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる/橋爪志保 『地上絵』 この歌は、前から書こうかなと思いながらもなかなかうまく捉えきれず、頭のなかでずっとそのままになっていた。この歌の「大丈夫」の説得性には驚かされる。あまりに無根拠であるにも関わらず、「大丈夫だ」と思わせるなにかがある。それがこの歌の魅力のひとつであり、さまざまな人が言及してもいるのだが、その説得性がどこからやってきているのか、理由はずっとわからなかった。 それがふと分かったよ

          くろたん一首評(2021/9/28)

          蝉の話

          今日は短歌関係ないです。蝉の話です。 この記事は虫が苦手な人は読まないほうがいいかもです。あと、オチが無いです。 これは今年の一月の僕のツイートです。しばらくこのことは忘れていたのですが、今日ふと思い出して、こんなことを考えました。 「夏から1月まで脱け殻が幹から落ちない可能性と、あやまって冬に蝉が羽化してしまう可能性、どっちが大きいだろうか。」 そう、ツイート時点では、冬に蝉が羽化する可能性を考えていなかったのです。なんだか急に気になってきました。で、ためしに「蝉 冬

          歌集じゃないけど

          また短歌の話がしたい。 オンライン短歌市で出てたネプリを中心に読んでます。 十年ぶりに書き足した詩のルーズリーフを海と平行にして差し出す/小俵鱚太 ※訂正 後日、指摘をいただきまして、こちらの歌、正しくは「十年ぶりに書き足した詩のルーズリーフを海と水平にして差し出す」でした。申し訳ありませんでした。そのため、以下の評も間違いが含まれています。僕の読解に大きな変更はないと判断したため、このまま残します。頭のなかで訂正しながら読んでいただければ幸いです。 後半が好きだった。

          歌集じゃないけど

          橋について

          短歌は言葉で、だから構造があって、それだけの、橋みたいなもので、だから、体の外側に存在できるのに。 人によっていろんな建て方とか材質を使うわけなんだけど、だからって向こう岸にとどかなかったり崩れそうになったら、物理法則と折り合いをつけていくしかない。 俺は最近どんどん「みんながちゃんと渡れればなんでもいい」になりつつある。

          橋について

          『水庭』の話②

          月白の空ゆく鳥の生計さへ受難者めきて冬のはじまる/三島麻亜子 前回の記事(末尾にリンクあり)で諦めてしまったこの歌について、あらためて考えてみました。  まずは、音に良さがあるような気がします。 とくに個人的に気持ちがいいのは 「月白」→「生計(たつき)」の「つ」の繰り返し、それから 「生計」→「めきて」の「き」の繰り返し。この音の連鎖。 「つ」はつめたい、に通ずるし、音自体もどこか冷たくて鋭い印象がある。「き」もなんとなく金属音ぽくて、きんきんとかきりきりとか、こちらも

          『水庭』の話②

          『水庭』の話

          最近読んでいたのは三島麻亜子さんの『水庭』という歌集で、文語だしむずかしい植物の漢字とか、わかんない言葉が多くてちょっとつかれてしまった。普段読まないタイプです。でも、二周目で急にはいってきた歌が多くて、こういうのは、言葉に反映された作者の身体性に、徐々に馴染んでくる過程としておもしろくて、それも歌を読む楽しさだと思う。 キッチンに粥を炊きつつ書く便り集めし切手をときをり使ふ/三島麻亜子 お粥を炊いていて、そのあいだに手紙を書く。ふと訪れた待ちの時間を埋めるのが、手紙を書

          『水庭』の話

          短歌研究 2021 9月号 読んだ。

          なんかこれまでは歌の話になると論文みたいにかたくなってしまって書く方も読む方もつかれるから、久しぶりの記事、ゆるく出直したい。 短歌研究2021の9月号ぱらぱら読んだ。 新人賞の発表号だから、いろんな人の歌が出てる。歌の話したくて、p120-121の佳作のところを開いて読んだのでここから好きだった歌を引いてみる。 自販機が突き返した千円札に血がついていた 私のではない/越慶次郎 「私のではない」のは血だと思って読んだ。お金っていろんな人が回して使うから折り目とか汚れとか

          短歌研究 2021 9月号 読んだ。

          くろたん一首評(2021/3/24)

          わかるのもわからないのも同じ濃さでマークシートを塗りつぶしてく/ワトゾウ  少し前に、僕とワトゾウさんで「架空公共交通」というネプリを作った。これはそのなかの一首。(「架空公共交通」は、診断メーカー「謎の駅」で遊んだときに出てきた実在しない駅名からイメージを膨らませた連作を、各々3作づつ載せている。) というわけで読んでからだいぶ時間が経ってしまったのだが、この歌が頭のすみになぜかずっとひっかかっていた。特に結句が。 まずはふつうに意味から読んでいく。この歌の面白いとこ

          くろたん一首評(2021/3/24)

          短歌(2021/3/6)

          どうしてなの?と目で言うときのそれは遠い、玄関で脱いだまま散らばって 気象庁のニュースの象のとこ だけをみているとじわじわじわじわ象へ  母さんのつくった二酸化炭素と、僕のつくった二酸化炭素 もう二度と会えないのかもしれないと思うのはそのほうが正解っぽいから パソコンの音はなりやまない 僕の体にもそういうものはありそう 誰にもほめてもらえないのは足の裏の汗とか洗濯物とかとおなじ 陰毛か脇毛かわからないけれど脇毛だったらいいなと思う なにも言いたくないならなにも言

          短歌(2021/3/6)

          短歌(2021/3/5)

          おしっこをすると多少はウイルスが出ていくような気がして、それは なんというか、これは言葉というよりも徒歩そのものの、靴ではなくて 咲いている梅を無視して過ぎていく 見たけどやっぱり、無視、みたいに 子供らはとなり同士で話ながらブランコの金属をこすり合う おもしろくない、梅が咲いてておもしろくない 徒歩六分で電車内になる 体力を失くしたあとが問題で、そのあとの生きる、とはなんだろう 左手で鍵をかけてから右手でそれを直して玄関を開ける

          短歌(2021/3/5)

          くろたん一首評(2021/2/23)

          ポニーの歌なんだけど、縄の歌だ。普通はどうにかポニーの動きを描写しようとするんじゃないだろうか。そこをこの歌の場合は「時おり縄はゆるりと動く」と縄に注目して見せた。縄の動きを見せることで、その先につながれているものの動きを想像で読者に補わせるやり方が非常にうまいと思う。どっかの映画監督が、風を撮るために地面の木漏れ日を映すよう指示したみたいな話があった気がするが(超うろ覚え)そんなことを思い出す。 もうひとつ注目したいのは「時おり」という副詞の選択だ。歌を支えているのはこの

          くろたん一首評(2021/2/23)

          俳句を読む (2021/2/16)

          今回は、俳句の話。季語とか主体のことを考えてみた。 長くなる。俳句はおもしろかった。 前半は好きな句についてだらだら語り、後半から小考のような形をとるので、てきとうなところから読んでくれればと思う。 たまたま家の本棚に高浦銘子という俳人の句集『水を聴く』と『水の記憶』があったので読んだのだが、俳句というものをちゃんと読むのは初めてだった。ちなみどうやら親の本なので、僕が好んで選んだわけではない。 まず『水を聴く』から好きな句を引いてみた。こちらが第一句集らしい。 はな

          俳句を読む (2021/2/16)