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マーケターに力を借りる前に読みたい「マーケティング思考」

今回は山口義宏氏の著書「マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること」をご紹介します。

●目次
第1章 なぜ「マーケティング」は難しいのか
第2章 成果を出すOS=「マーケティング思考」
第3章 マーケティング思考を構成する3つの共通言語
第4章 事業フェーズ別の考え方・判断基準
第5章 「マーケティング思考人材」育成の成功法則

マーケターの方に読んで頂きたい本ではあるのですが、「マーケターを採用する側の方」あるいは「外部のマーケターに支援を依頼しようとされている方」にもご一読頂きたい内容です。以下、特に気になったポイントをご紹介します。

マーケティング思考とは

本書は特定のアプローチの戦略論ではなく、特定の新しいマーケティング施策の解説でもありません。業種、戦略、施策のやり方はそれぞれ異なるものの、業績を伸ばし続けた企業に共通するマーケティングへの取り組み、チームの人材の要件、業務の進め方といった、外部からは目に見えにくいけれど普遍性のあるOS(オペレーティングシステム)部分の言語化を試みています。このOSを「マーケティング思考」と名付けました。

このマーケティング思考を「社内の共通言語」とすることが、業績の持続的な向上に重要だというのが本書の提案となっています。

最近はデジタル化により施策やテクニック(OSとの対比で言うところのアプリケーション)が多彩になり、注目も浴びやすい状況かと思います。

ただ、OSの部分をおろそかにしてアプリケーションだけを磨いているマーケターは、どこかで成長が頭打ちになるでしょうし、マーケターに力を借りる側がアプリケーションが得意な人ばかりを集めた場合、思うような成果が出ないといった事が起こり得るのでしょう。

チームが陥りやすい2つの落とし穴

1. 「誰に?(顧客理解)」と「何を?(顧客価値)」が不在

各施策の指針になる「誰に?(顧客理解)」と「何を?(顧客価値)」が不在で、4P施策のアウトプットがずれ、施策で顧客の心と行動の変容ができず、成果が出ない

こういう状況だと、いくら専門知識があったとしても、顧客にとっては的外れな施策になってしまいますね。私もよく直面した状況なのですが、顧客理解と顧客価値の整理にまとまった時間とお金を費やすのはなかなか難しく、施策をとりあえず走らせながらスキマ時間を使ったり、何かの予算に関連づけてなんとか整理していました。

マーケターに力を借りる側としては、まず自社の顧客理解と顧客価値の整理が十分にできている状況なのかを判断し、できていないのであればその部分を実行できる人材を探す必要があります。

ただ、施策のプロでありながら顧客理解と顧客価値を整理できる人材は非常に少なく、本書によるとだいたい1〜2割とのことなので、探し出すのは簡単ではありません。

マーケター側からすると、そこができる人材になれば自分の市場価値を高める事ができるので、チャンスとも言える状況です。ただし、採用する側の意識改革がないとそもそもそういう人材を求めないので、本書の提案内容がもっと普及する事を祈るばかりです。

2. 4P施策の選択・リソース配分が弱い

「何らかの施策を上手にやる」以前の判断として「そもそも、どの施策に投資配分して展開するか?」や「どの施策と施策の間の一貫性・連携が大切か?」という、4P施策への投資の全体最適化を担う指揮者が不在で成果が出ない

例えば、広告の運用支援をA社に、オウンドメディアの運用支援をB社に依頼するとなった場合、各社は全体最適ではなく部分最適で提案を行う(自社へ割り当てられる予算を削ってまで成果の最大化を目指そうとしない)事になってしまいがちなので、投資の最適化を行う指揮者は必要不可欠。

ただ、最適化をするには各種施策に関する浅くても良いので広い知識が必要とされ、社内で人材を育成するのは容易ではありません。短期的には指揮者を外注し、いずれは内製化するといった選択肢が良いのではないでしょうか。

成果が出ないチームの3つの問題症状

1. エース孤立・機能不全症

チーム全体の知識・スキルレベルは低いが、エース人材だけレベルが高く、孤立し、機能しにくいチームの症状。様々な施策の実行を試みるが、現場メンバーの実行力が追いつかず成果が出ない。経営判断で外部から実績ある専門家を連れてきたチーム、創業者だけマーケティング力が強いチームが陥りやすい。

2. 初心者集団・会話空中戦症

チームメンバー全員の知識・スキルレベルが低く、マーケティングの会話が空中戦になる症状。共通言語となる知識や用語がないため、議論・会話がまったく噛み合わない非生産的な状況が続く。マーケティングが弱くても成り立った参入障壁が高い業種、営業が強くマーケティング不在でも売上が確保できたチームが陥りやすい。

3. 知識高レベル・連携不全症

知識・スキルのレベルが高いメンバーは多いが、連携するための共通言語や定義がなく、連携が悪い症状。メンバーの多くがスキルを持っている自負があるが、課題認識や業務連携が噛み合わない。腕の良い中途採用者が多いが、出身母体の流儀を持ち込んみ、機能不全を起こしているチームが陥りやすい。

分類と表現が秀逸すぎて、共感しかありません。1はマーケティングに力を入れたい経営者が優秀な専門家をヘッドハンティングして陥りやすいケース、2は商品力や営業力で成長してきた日本の中小企業、3はコンサルティングファームや資金調達して優秀な人材をガンガン採用しているスタートアップに多い症状でしょうか。

こういった症状に陥らないためにも、マーケティング思考でチームを形成し、人材育成に力を入れる必要があります。本書が掲げる理想のチームは「ダイヤモンド型組織」というもので、マーケティング知識・スキルレベルが平均以上のメンバーの「構成比」が高い状態です。2:8の法則で言うとハイパフォーマーは2割しかいないのですが、残りの8割全員は難しくとも5〜6割のスキルが引き上がったチームを目指すイメージです。

マーケター思考を普及させるには?

マーケティングのOSの部分を磨く必要性は高いものの、その普及は簡単ではないでしょう。アプリケーションは日々新しく生まれ、注目を浴びますし、経験則ですが採用する側もアプリケーション部分を重視するケースが多いように思います。

まずはマーケターを採用する人を啓蒙するために、マーケター採用に特化した書籍の出版やイベント等も必要になってくるかもしれません。
この記事がマーケター思考の普及に少しでも役立てば幸いです。

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