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六月大歌舞伎 遊ぶように仕事する

さて、6月17日、2回目の歌舞伎鑑賞。
三谷幸喜 作・演出の「「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち」。
もう一回観たいなぁと思いながらネット検索したところ、一幕ずつ見ることができる「一幕見席」という当日券があることを知る。4階席のため、役者の細かい表情までは見えないが、舞台全体が見渡せる。そして、何より、値段がお手頃。通しで購入しても4千円だ。
ということで、初鑑賞から2週間弱経って、舞台がどのように変化しているのかも楽しみにしつつ歌舞伎座に向かった。

主役の松本幸四郎さんがブログで、
「演出家の三谷さんが毎日チェックに来られて、まだまだ直しが入ります。これがとても嬉しいのです。微妙なタイミングやセリフ、心理への直しがとてもありがたく、今日こそは!と思いながら公演を務めています」
と書いているだけあり、作品は進化を遂げていた。

「出し切ることの難しさ。集中しきることの難しさ。天に向かって頑張るぞー!」という幸四郎さんの決意。
現状に満足せず、さらなる高みを目指して一回一回の舞台を生き切ろうとしているその姿勢は、さすがプロだと思うと同時に、人間の美しさを感じる。

作品の素晴らしさもさることながら、今回私が強烈な喜びに包まれたのは、筋書きと呼ばれるパンフレットの三谷幸喜さんの言葉。

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僕は大雑把な演出プランを告げると、後は役者さんに託しました。「そんな感じでお願いします」。なんと無責任な演出家だと思われるかも知れませんが、なにしろそこに集まった役者さんは、人生のすべてを歌舞伎に捧げて来ている人たち。僕が太刀打ちできる相手ではありません。ここは任せるのが一番。
光太夫役の幸四郎さんと庄蔵役の猿之助さん、新蔵役の愛之助さんは早速車座になって相談を始めました。
(中略)
なにが凄いって、三人とも楽しそうなのが凄い。眉間に皺を寄せて、ああでもないこうでもないと、意見を出し合うのではなく、まるで小学生が放課後何して遊ぶか話し合っているかのように、はしゃいでいる。笑いながら「歌舞伎」を作っている。「歌舞伎」とじゃれ合っている。とんでもないものを見ている気分でした。
なんとなく方向性が決まったところで、太夫の竹本六太夫さん、三味線の鶴澤公彦さんも巻き込んで、実際に動いてみる。いろいろと試行錯誤を繰り返しながら、次第に形が見えてくる。そして驚くべきスピードと驚くべき完成度で、光太夫と仲間の別れの場が出来上がりました。
(中略)
しかし彼らが本当に凄いのは、その数日後、再びこのシーンを稽古した時に、前回出たアイデアを半分くらい残して、後は捨ててしまったこと。彼らは、さらなる高みを目指し始めました。しかも笑いながら。とんでもない人たちです。
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そして、幸四郎さんのブログには
「歌舞伎座での舞台稽古は、テクニカルを重点的に、深夜2時を回る毎日でした。三谷幸喜さんを信じて思いっきり自分の役に集中しています」
とあった。
笑いながらアイデアを次々に出し合い、遊ぶように一つの作品を創り上げていく。
夢中になっているから時間が経つのも忘れる。
しかも、一度創り上げたものに執着せずにあっさり手放す潔さ。
かっこよすぎる。
そうやってエネルギーをスパークさせて創られたものだから、観客もそのエネルギーを感じて心が動かされるのだろう。
私もこんなふうに仕事がしたい。遊びと仕事の垣根を超えたところでものづくりがしたいなぁ。

そうだ。先日、読んだ小野美由紀さんの「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」というエッセイでも、同じところが心に刺さったんだった。

過剰に教育的な母親に支配され、中3でリストカットや摂食障害、不登校を経験。入った大学にもなじめず仮面浪人。イケてる自分になりたくて、猛烈に頑張って、非の打ち所の無い履歴書を持って大企業の面接に臨むも、パニック障害を発症し、就活を断念する。そして、スペイン巡礼の旅へ向かう。その旅の途中で出会ったスペイン人のルカス、71歳の言葉。以下、著書より抜粋。

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ルカスが私に聞いた。
「なぜ道を歩くの?」
いつもの質問だ。
「大学を卒業した後、どんな仕事につきたいか、考えるため」
とりあえず、そう答えた。
「毎日を、月曜日だ、火曜日だ、と思ってする仕事はいけないよ。毎日を、土曜日、日曜日、祝日だと思ってする仕事につきなさい。私は41年間、一日も、仕事をしたと思った日はないよ」
偉ぶらず、諭すでもない、穏やかな口調だった。
たったこれだけの言葉に、彼の、全人生が詰まっていた。
「毎日が休日だと思える仕事」……そんなこと、私は考えてもこなかった。
仕事だと思えない仕事だなんて、本当に、あるんだろうか?
(中略)
じゃあ、私はなにをしたら、ルカスの言う通り「毎日が休日だと思える」んだろう。 
お腹の底から、楽しいって言えることって、なんだろう。
分からない。
分からないし、ひょっとしたら、国も立場も年齢も異なる自分には、ルカスの哲学は、当てはまらないのかもしれない。けれど、それでも世界に、そんなふうに考えて生きている人が一人でもいる、そのことが、この時の自分にはただ、嬉しかった。
その夜、寒さに震えながら毛布にくるまり、暗闇の中、他の巡礼者たちのいびきを聞きつつ寝入ろうとしても、ルカスの言葉は深々と胸に突き刺さったまま、光を放ち続けていた。
これから私が向かう航路を照らす、灯台のあかりのように。
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毎日、笑いながら夢中になって遊んで、稼ぐ。
すでに好きなことをやっているけれど、もっともっとその純度を上げたい。
ということで、まずは遊ぶようにこの文章を書いてみた。
書き始めたら不思議と止まらない。
何だかすっきり!楽しかった!

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