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「福岡市、ハンコレス完了!」なぜ福岡市ではイノベーションが行えるのか【後編】

国に先駆けて、役所に提出する3800もの書類への押印義務を廃止し、ハンコレスを達成した福岡市。

ハンコレスだけではなく、行政書類のオンライン化や、公共料金支払いのキャッシュレス化、オンライン診療や遠隔服薬指導、一人暮らしの高齢者の方の見守りなど、ICTやIoTを積極的に活用して、市民の暮らしやすさを追求しています。

また、民間企業である LINE Fukuoka と協力し、粗大ごみの回収依頼から支払いまでをLINEで完結できるとりくみや、道路や公園の不具合を見つけたときにLINEで通報するしくみなども構築しています。

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福岡市では、なぜこうしたイノベーションを次々に実行できるのでしょうか。

現在、福岡市長を務める高島宗一郎さんにインタビューしました。

(聞き手・編集: 池澤 あやか)

グローバルに考えてローカルに行動する

池澤: それにしても、福岡市が2年近くも前からハンコレスに向けて動けていたのはなぜですか?

高島市長: リーダーはみんなを引っ張っていくぶん、ビジョンが見えていなくてはいけません。とはいえ、自分の得意分野だけ見ていても、市全体を良くしていくことはできませんよね。

それぞれ分野をいちから勉強するの大変ですが、各分野の第一線で活躍するトップランナーから話を聞くと、その人の目にはこの世界がどう映っていて、何を課題視していて、どう解決していきたいかがわかります。

私はG1サミットやダボス会議でそうした方々の話を聞いて、さまざまな角度から世界や日本を捉えて、その中で福岡市はどう動くべきかと、相対化して考えています

池澤: 市の話だから、あえて視座を下げて、市民目線でやっているのかと思っていました。

高島市長: グローバルを見て、ローカルが勝つ戦略を考えています。福岡市の場合は、成長可能性のあるすべてにベットする余裕はなく、限られたリソースをどこに集中投下するかというやり方でないと勝てません。リソースを分散させると、どれも焼け石に水になってしまいますから。

例えば、福岡市では、世界や日本がこれから直面するであろう、超高齢化社会や人生100年時代に向けて、「福岡100」というとりくみを始めました。ICTを活用した遠隔診療や、ICTやIoTを活用した健康づくり・見守りの仕組みづくりを含む100のアクションです。

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高島市長: このプロジェクトでは、ビーコン技術を活用した認知症の方の見守りや、低消費電力で長距離のデータ通信を行えるIoT向けの通信である「LoRaWAN」を街中に張り巡らせ、行方不明になってしまった認知症の方の早期発見を行える小型IoT機器の実証実験など、ICTやIoTを活用した実証実験も行っています。

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「Fukuoka City LoRaWAN」の活用イメージ。
省電力・軽量の小型センサを持ち歩くことで、デバイスからの見守りが可能となります。

政治を変えたいなら、ロビイングの重要性を知ってもらいたい

池澤: 行政の改革に切り込むのは大変じゃないですか。

高島市長: 改革や規制緩和は、選挙に強くないとできません。これらは、選挙で応援してくれるような既得権益側の人たちの市場に新規参入を促すことだからです。

なので、よっぽど自分は選挙で勝てるっていう自信がないと、改革や規制緩和をする勇気はなかなか持てないかもしれません。

私も昔から政治家になりたいと思っていたのですが、ある雑誌に「選挙に強い人が政治をしないと、政治活動が選挙運動になってしまう」と書いてあって、政治家になる前に多くの方に顔を知ってもらおうとアナウンサーという職業を選びました。

あとは、私が民間出身だからできているという側面もあるのかもしれません。

もちろんすべての方ではないですが、公務員出身の首長の方は、現場の大変さをわかるからこそ、保守的な政策を打つ方が多いです。
役所に勤めた仲間として、何かを変えることがどれだけ大変かってわかっているから、頼めないんです。

何かを変えるには、現場の大変な労力を伴います。

例えば、Uberのようなライドシェアサービスを日本で行えるようにする規制緩和を例にあげると、国交省に勤める方々にとっては「Uberが参入できない日本は遅れてる」と一部の人たちがネットメディアで騒ぐことよりも、タクシー協会から支援を受けている議員など、直接要望を持ってくる人たちへの対応や答弁のほうが、ずっと面倒くさくて大変なわけです。

池澤: なにかを変えるためには、SNSで文句を言う以上に、ロビイングが効果的なんですね。

高島市長: 既得権益側ではない方々にも、もっとロビイングの大切さを知っていただきたいですね。

それでも、市長が改革と規制緩和をやりつづける理由

池澤: 大変な改革や規制緩和をやりつづけるモチベーションはどこにあるのですか。

高島市長: 限られたリソースと年数の中で、何を残して次の人にバトンを渡すかということを考えています。

例えば、スタートアップは都市の成長戦略には必要不可欠ですが、スタートアップ支援は選挙で票にならないんですよ。

スタートアップの人たちはロビイングしない。選挙にも行かない。政治資金パーティにも来てくれない。

逆に、選挙で応援してくれるような既得権益側の人たちにとっては、スタートアップ支援は市場にライバルを入れることなので、私はむしろ票を減らしているのかもしれません。

だからこそ、改革や規制緩和は、課題意識を持っていて、さらに既得権益に切り込める人がやっていかなくてはいけません。幸いにも、今の自分にはできる力があるから、誰もしないなら私がしなきゃなという使命感を持ってやっています。

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本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。

Special Thanks: 小笠原治さん、きゅんくん、牧田恵里さん

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