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「福岡市、ハンコレス完了!」なぜ福岡市は自治体で一番最初にハンコレスを達成できたのか【前編】

行政の縦割りや既得権益の打破を掲げる菅内閣。行政のデジタル化を加速させることを目指し、行政手続きについても書面や押印についても、見直しに向けて動き始めました。

そんななか、福岡市では役所に提出する書類への押印義務を2020年9月末にすべて廃止し、国に先駆けてハンコレスを達成しました。

婚姻届や出生届など、国や県の法令でハンコが必要な書類はあるものの、高齢者乗車券交付申請書や就学援助申請書、保育所等入所手続き関係の現況届や教育・保育給付認定申請書など、市の裁量で脱ハンコができる書類からは「ハンコ欄」がなくなりました。

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なぜ福岡市はこんなに早く、自治体で一番最初にハンコレスを達成できたのでしょうか。
現在、福岡市長を務める高島宗一郎さんにインタビューしました。

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(聞き手・編集: 池澤 あやか)

福岡市がハンコレスを達成できたのはなぜか

池澤: そもそも、なぜ福岡市はハンコレスに取り組んでいるのですか?

高島市長: 出来るだけ役所の窓口には並びたくないですよね。福岡市はオンライン化をできる限り進めて、そもそも役所に来なくていい「行政のノンストップ化」を目指しています。

そうした行政手続きのオンライン化を進めていくなかで、ハンコという物理的なものが障害になっていたんです。

また、自動化できるところは自動化して、空いた人手は、高齢者・障がい者に対するサービスなど、人のフォローが必要なところに充てていくことで、より充実した行政サービスを提供したいと考えています。

池澤: 行政書類のハンコをなくしても、手続き上問題はなかったんですか?

高島市長: 実印が必要な書類においては、確かにハンコにも一定の本人証明としての役割があると思います。

でも、ほとんどの書類は、慣例的にハンコを押すことにしていただけで、そこらへんで買える三文判でもよかったんです。三文判にどれだけの本人確認効果があるでしょうか。役所の売店で売られていたこともありましたからね(笑)

本人確認が必要な書類については、署名に切り替えて、ハンコは廃止にしていきました。

池澤: 手続きのフローを変更すると、現場に大きな影響が出てくると思います。現場からの反発はありましたか?

高島市長: 「印鑑なしで本当に大丈夫なのか」「市民との間でトラブルになったら嫌だ」 「見直しにかかる作業が大変だ」 「今そんなに問題が起きてないのに、なぜわざわざ見直さなければいけないのか」等々、そういう慎重な声もありました。

公務員にとっては、市民サービスが向上してもしなくても、給料は変わらないし、クビにもならないし、組織も潰れないんですよね。なので、ハンコレスにするために今までの様式や手続きを変えるって言われたら、言われるだけ損なんです。

でも、うちの職員はこれまでの特区の取り組みなどで、私の仕事の進め方はいやというほど(笑)わかっていて、組織全体のマインドセットやスピード感が変わってきてますから、他の自治体や国だったら難しそうなことでも、チャレンジすると決めたら、やるんです。

国も県も市区町村もがんばらないと、ハンコはなくならない

池澤: 国の行政のデジタル化に期待していることはありますか?

高島市長: 福岡市でも、まだ、国や県に提出する書類にはハンコが必要なものが残っています。

ハンコレスを本当の意味で完了するためには、国も県も市区町村も頑張らなくてはいけません。

特に、市民のみなさんが、国や県に出す書類というのは限られているので、そうした人々がいちばんハンコレスを実感できるのは、市区町村の書類からハンコがなくなること。ここが変わらなくてはダメです。

あとは、国の法律で対面原則がある手続きがありますこれをなくして、役所に来なくても、引っ越しなどの手続きができるようにしたいですね。

現在、福岡市に引っ越してくる際は、住所や名前などの情報のフォーム入力はオンラインで終わらせておいて、役所の予約をとり、当日はその時間に行ってプリントアウトされた書類に署名するだけという感じで、最小限の手間で済むようにはしています。

しかし、市民にとっては、オンラインですべて完結したほうが便利ですよね。

完璧なタイミングでの「福岡市、ハンコレス完了」

池澤: ところで、「福岡市、ハンコレス完了!」のリリースを、国がハンコレスに動き始めた絶妙なタイミングで打っていたと思うのですが、なぜあんな完璧なタイミングでリリースを打てたんですか?

高島市長: タイミングについては、偶然のところと、図ったところがあります。

そもそも、福岡市では約2年前からハンコレスを進めてきました。ハンコレス化の完了がこの時期になったのは偶然です。

一方で、福岡市で先進的なとりくみを行うこと自体が、先進的な人たちを福岡市に呼び寄せるブランディングにもなるので、ハンコレス達成のリリースをどう打つかも大切です。

ちょうど福岡市のハンコレス完了の目処が立ったタイミングで、菅総理や河野大臣が、行政書類への押印廃止を含めた行政のデジタル化に向けて動き始めました。

「インパクトあるリリースを出すならこのタイミングだ」と直感して、こうした国の動きとハンコレスが完了する福岡市とを、どう関連付けてアピールできるか策を練りました。

そうしたタイミングで、菅総理からランチに誘っていただいたのです。私としてはこのタイミングだと思い、ハンコレスの資料を持参して総理に直接説明しました。もちろん対面原則の見直しや今後の様々な規制緩和の進め方についても。

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高島宗一郎オフィシャルブログより引用

高島市長: 実際、2人きりで1時間も時間があったわけですから、話は多岐にわたったのですが、会場の外で待ち受けていたマスコミには、「福岡市は国に先駆けて9月末にハンコレスを完了!」と発表し、事前に準備していた資料も配り、あのようなインパクトあるかたちでニュースとして報道されることになったのです。

池澤: 偶然ともくろみが重なって、奇跡的なタイミングでしたね。

高島市長: タイミングはもちろん大切ですが、普段からバッティング練習をしていないと、いい球が来たって打ち返せないですよね。やはり、福岡市が前々からハンコレス化に向けて準備を進めていたことが大きいと思います。

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本記事は、日経MJでの連載『デジもじゃ通信』での取材インタビューを基に執筆しています。

Special Thanks: 小笠原治さん、きゅんくん、牧田恵里さん

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