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#5: ウィンブルドン王者のメンタル

大事な試合を控えている時、あなたはメンタル面で自信を持てますか?

「負けたらどうしよう」と不安になったり、「勝たないと」と焦る人が多いと思います。

メンタル面で心がけるべきことは、テニスのチャンピオンからも学べることがあるかもしれない。

先週末、ウィンブルドンでそれぞれ女子・男子チャンピオンとなったマルケタ・ボンドロウソバカルロス・アルカラスのインタビューを聞いていて私は思いました。




1. 試合を楽しもう

ボンドロウソバは2019年の全仏オープンで決勝に進出するも、アシュリー・バーティに1–6 3–6でストレート負け。

その経験が今回、ウィンブルドンで生きたか聞かれると彼女はこう答えました。

その時私は19歳で、「とにかく良い試合をしないと」とストレスを感じていました。チェコでもみんな注目し、応援してくれている中、試合ではボコボコにされました。あっという間に終わってしまって、楽しむこともできなった。
私はとても打ちひしがれて、「またこんなチャンスが巡ってくることがあれば、試合中の全ての瞬間をとにかく楽しまないと」と自分に言い聞かせました。例え負けたとしても、楽しむこと。
今日は、例え負けたとしてもこの大きな舞台を、決勝に進出できたという大きな成功を楽しめていました。
この試合はとにかく、存分に楽しめました。

試合後の記者会見より

私もチェスでとびっきり良いパフォーマンスを出せた時を振り返ってみると、特に良い結果を期待していなく、プレッシャーを感じていない状態でした。チェスを楽しめていて、大会にいること自体に幸せを感じられているような状態。良い感じにリラックスできていて、結果の心配はしていない中でも、盤上では全力で集中できていました。

著名なパフォーマンスコーチ、ブラッド・スタールバーグスティーブ・マグネスは、著書のピーク(最高の)パフォーマンス (2017年)でこう綴りました。

  • 精神状態がパフォーマンスにどのような影響を与えるかを知るのは大事だ

  • 本番前の精神状態はパフォーマンスを大きく左右することがある

  • 問題を解いたり、創造性を必要とするタスクを行う前に肯定的なムードに意識的に転換することでパフォーマンスを改善することができる


2. 誇りを持とう

若干20歳にして世界ランク1位のアルカラスは6月の全仏オープンの準決勝でノバク・ジョコビッチと対戦。
試合前、そして試合中の緊張やプレッシャーに苦しみ、第2セットの終わり辺りから全身の筋肉がつり始め、3–6 7–5 1–6 1–6で敗退しました。

たった5週間後、ウィンブルドンの決勝で彼はジョコビッチを1–6 7–6 6–1 3–6 6–4と下し、こう話しました。

夢が叶いました。もちろん、勝てたことは素晴らしいのですが、例え負けたとしても、今大会でのパフォーマンスをとても誇りに思います。この歴史ある、美しい大会でレジェンドと決勝を戦えた。
20歳にして、この舞台でプレーできたのはまさに夢が叶いました。こんなに早く、ここまで到達するとは思っていなかった。
とにかく、僕自身、僕のチームと、こんな舞台に向けて僕らが取り組んできた毎日のトレーニングを誇らしく思います。

試合後のコート上でのインタビューより

ボンドロウソバのコメントとも共通点がありますね。

今までのあなたが成し遂げたことに誇りを持ちましょう。今立っているのがどんな地点でも、成功の記憶も時と共に色褪せ、常に次のレベルに進まないと満足できないと感じるかもしれません。
それでも、試合前はあなたとあなたの能力に肯定感を持っている状態のほうがうまくいきます。

今までのベストゲームを集め、あなたがどんなに見事なチェスを指せるのか、常にすぐに思い出せるようにするのは1つの案です。
特に、大会などがうまくいっていない時に自分の会心のチェスを並べると励みになります。そんな時は1人で抱え込むと辛いので、親しい人に相談するのももおすすめです。


3. メンタル面を意識しよう

決勝後の記者会見で、全仏オープンからどう改善を図ったのか聞かれたアルカラスはこう答えました。

僕は全仏オープンの時とは別人です。僕はあのマッチから色々学んで、大きく成長しました。今回の決勝の前はその体験を踏まえた上でルーティンを調整し、メンタル面の準備の仕方も変えました。そのおかげで全仏オープンで苦しんだプレッシャーにも、緊張にも今回はうまく対処できました。
このマッチは、全力で戦い抜けたことがとても嬉しかった。落ち込まず、諦めず、どのポイントも決まるまで戦い続けた。僕らは良いラリーをし、ハードなポイントを奪い合った。長いセットを含む長いマッチでしたが、5セットを戦い抜くことができたのはメンタル面のおかげだと思います。

試合後の記者会見より

長年、チェスをやっていてもメンタル面に明らかな穴を抱えているのは普通のことです。チェスに特化した観点でメンタルについて学べるリソースは少ないし、メンタル面の改善となるとさらに稀有。
私の経験からも、メンタル面を意識的に鍛えようとしているプレイヤーはほとんどいないと言えます。己の中にある白黒の盤やピースと格闘するより、己の外にあるもののほうがはるかに扱いやすいからです。

まず第一歩目を踏み出すには、あなたのチェスのパフォーマンスにメンタル面がどういう影響を与えているかを知ること。

  • うまくいっていた大会での共通項は?

  • チェスにおいて、あなたの内なる悪魔は?

  • 次の大会で、また、それまでに取れる策は?


勝とうとすることと、勝つための力を出そうとすること。この違いは些細なものに思えるかもしれないが、実際大きな違いがある。
勝つことしか気にしていない時、あなたは完全にはコントロールできないものを気をしているのだ。ゲームを勝つか負けるかは、相手の能力や頑張りにも左右される。コントロールできない結果に感情移入していると、人は不安になり、力を入れすぎてしまう。
しかし、勝とうとするためにどれだけ力を出すかはコントロールできる。どんな時でも、その瞬間での最善を尽くそうとすることはできる。コントロールできる対象に対して不安を感じることはないから、勝とうと全力を出していると意識さえできていれば、不安は取りのぞける。
結果的に、心配や不安や、それらがもたらす結果に流れるかもしれなかったエネルギーを、ポイントを取ろうと使うエネルギーに変えられる。
こうやって、アウターゲームを勝つ確率を最大化できる。

ティモシー・ガルウェー著「インナーゲーム」より(拙訳)

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