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童貞マッチングアプリ体験談(1か月経過)

彼女いない歴=年齢かつ童貞の私は1年前、マッチングアプリをしていた。「童貞のマッチングアプリ体験談」では、当時書き留めていた日記をもとに、その時の出来事を書き記す。

人生初デート(リベンジ)


「Tapple」と同時進行でしていた「With」では、「Tapple」での失敗から得た反省を生かすことで、何とか女性と会うことができた。その女性の名は「りん」ちゃん(仮名)。私の3つ下の21歳。私が彼女にいいねをした理由は、共通の趣味があったことと、プロフィールの写真の顔が綺麗で、スタイルもスラっとしていたからであった。

「Tapple」では、相手の気持ちを半ば無視して、早急に会う約束を持ちかけたせいで、軽い男と認識され、最終的にブッチされた。そのため、慎重に慎重を重ね、会う約束をした。約束をしてからも、デートの当日までメッセージを適度に送り、本気度を態度で証明した。その甲斐あって今度は、急に連絡が途絶えることなく、デート当日を迎えることができた。喜ぶべきところであったが、私にとっては人生はじめてのデートであったので、正直それどころではなかった。当然、デート前夜、全く眠れなかったので、当日の朝は目が血走っていた。この目の血走りが、別の意味で受け取られないか心配しつつ、身支度を始めた。


え!?誰??


とにかく今できる最大限のおしゃれをして、20分前に待ち合わせ場所に待機した。周りをキョロキョロしながら待っていたら、いかにもデートに慣れていないように見えると思ったので、スマホでニュースサイトでも見ながら待つことにした。しかしながら、当然そんなものは頭に入らない。ただそこにある文字を目で追っているだけ。意識は完全にスマホの画面の外に向かっていたので、知らず知らずのうちに、全く興味のないパ・リーグの試合結果を見ていた(スポーツはサッカーしか興味ない)。

そうこうしているうちに、

「あ、あの。イケメン童貞さんですか?」

と声がかかる。

ついに来たか!

心臓をバクバクさせながら、おそるおそる画面から目を離し、正面を見上げる。そこに立っていた女性は、当然りんちゃんのはずである。しかし、目の前にいるその人は、プロフィールのりんちゃんとは似ても似つかない女性だった。肌は、パサパサのパンにバターをぬったような質感で、写真で見た、ゆで卵のようにつるりとした肌は見る影もない。私が惹かれたスラっとしたスタイルも、まるで写真を横に引きのばしたかのようにずんぐりとしていた(プロフィールの写真は、実物を細めることで完成した一品だったのだろう)。お雛様のように柔和な顔立ちだけが、写真の面影を残していたので、なんとかりんちゃんであることは認識できた。

私もプロフィールの写真では、肌質と肌の色に多少手を加えていたので、人のことを言えた口ではない。だが、写真と実物とのあまりの落差に、「帰りたい。」と思った。

いっそのこと「いえ、人違いです。」とでも言って逃げようかな。でも向こうは、私のことをすでに認識しており、「イケメン童貞さんですか?」と声をかけてきたはずだ。しかも「僕はこういう服装です。」とすでに伝えてある。逃げ場がない。

0コンマ数秒でこれらのことを考え、

「はい、イケメン童貞です。こんにちは。」

と本心を隠すために愛想笑いを浮かべながら、応えた。

まあいい、共通の趣味はあるんだ。その話で盛り上がれば、楽しい時を過ごせるだろう。

そう心をポジティブに持っていき、目的地のカフェまでの道のりを並んで歩いた。


緊張する二人


しかし、2,3ターン言葉を交わすうちに気づいた。

りんちゃん、めっちゃ緊張してる!

もちろん、女性との初デートで私も緊張はしていたが、向こうはその何倍も緊張している様子だった。素直に、

「緊張してる?」

と思ったことを聞いてみた。すると、りんちゃんは、

「はい、めちゃくちゃ。男の人と出かけることがないので。」

と応えた。これは新事実だった。プロフィール写真や電話の様子では、そんな印象を受けなかった。お兄ちゃんもいる、ということだったので男慣れしているものだと思っていた。私は、とにかく緊張を解こうと、あらかじめ頭に詰め込んでおいた話題を惜しみなく、打ち込み続けた。しかしながら、目的のカフェに着き、注文したアイスココアがテーブルに運ばれる頃には、話題の持ち弾が0になっていた。しかもまだりんちゃんの緊張は解けていない様子。これから小一時間、少なくとも目の前のアイスココアを飲み干すまでは、りんちゃんと話をしなくてはいけない。そのことを思うと、身がすくみ、アイスココアの一口目も甘さを感じないほどだった。

先ほど打ち込んだ話題の不発弾が時折起爆して、なんとかアイスココア半分までは会話が続いた。しかし、そこから私の頭は真っ白になった。会話が途切れ、沈黙が続く。

「静かでも気にならないタイプですか?」

りんちゃんが、気を遣ってたずねてくれる。

「うん。全然。沈黙が心地いい関係がいいんだよね。」

本当は非常に気まずかったが、それを言葉にすると、りんちゃんを傷つけそうだったし、何より私の会話力のなさが露呈されそうで、変につよがってしまった。そして、たった今発した言葉と整合性を保つために、沈黙を続けた。

「・・・」
「・・・」

沈黙が重い。視線をどこに向ければいいかもわからない。ふと、窓外に目を向ける。犬が飼い主に連れられて散歩していた。気まずさを振り切るように、

「あ、犬、カワイイ。」

と無感動につぶやく。

「はい。」

としか返ってこない。

「・・・」
「・・・」

また沈黙。

そこから会話が熱を帯びることは一回もなく、結局アイスココアを3分の1残してカフェを出た。そこから別れる駅までの道中、ただただ疲れて言葉を発するのも億劫になっていた。当然、私とりんちゃんとの間に会話はなく、重々しい空気だけが流れていた。

駅に着き、改札前で、

「じゃあ。今日は楽しかった。ありがとう。」

と思ってもない定型句を口にして別れた。
 
帰りの電車、流れゆく景色を眺めながら、今日のデートを振り返る。だが、あの重たい空気が生々しく蘇ったのですぐにやめた。

これが人生初のデートか・・・。

何だか悲しくなる。


惨憺たる結果

 
家に着くと、張り詰めた緊張がほどけ、さらに疲労が押し寄せてきた。靴を脱ぎ、靴下を剝ぐと、すぐにベッドに体を沈めた。昨日全く眠れなかったこともあって、すぐに眠気がやってきた。まどろみの中、「ピコン」とスマホの通知がなる。見ると、りんちゃんからの連絡だった。

「ありがとうございます。今日は楽しかったです。」

「嘘つけー!そんなわけないやろ!」。そう心の中で盛大にツッコんだ。まあ、私も別れる時に、「楽しかった。」なんて嘘を言ったし、お互い様か。そう思い、とりあえず、

「僕も楽しかったです。」

とだけ返した。本当に楽しかったら向こうからまた連絡が来るはずだろう。そう思って相手を試すつもりで、私からは今後連絡しないことにした。

その後、1日、2日、1週間と経ったが、結局連絡は来なかった。こうして記念すべき人生初デートは幕を閉じた。


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