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孤独男の辛い話

 
辛すぎる。マジで辛すぎる。

先日、映画館の帰りに、駅のホームで電車を待っていた時のこと。
夜の深い時間帯だったので、ホームには私一人。直前に見た映画の余韻に静かに浸っていた。すると、カップルが2組、ホームにやって来た。静かなホームが急ににぎやかになった。2組とも何やら会話が弾んでいる。聞くともなく聞いていると、どうやら先ほどの映画の感想を話しているようだった。この駅は、映画館から目と鼻の先にあるので、映画を観た人はだいたいこの駅を使う。

「いいな~。感想を共有できる相手がいて。」

羨望の気持ちがむくむくと湧いてきた。これ以上彼らのそばにいると、羨望が醜い嫉妬に変わる気がして、彼らの声が届かないところまで移動した。
 
また静かにひとり、映画の余韻に浸っていると、人の声が近づいてきた。「まさか…。」と思って、声のする方に目を向ける。そこには、またも新たなカップルが。しかもまた2組。彼らも、映画の感想を楽しげに語っている。彼らの声の届かないところに移動しようにも、そんな場所がないほどに、駅のホームはカップルの声で満たされていた。醜い嫉妬が私の心にひょこっと顔を出す。

「深呼吸、深呼吸。俺は一人でも十分楽しめたからそれでいいじゃないか。」

目を閉じ、そう心の中でつぶやきながら、平静を取り戻そうとする。実際映画はとても面白かった。

「今までもそうだったじゃないか。一人で映画を観て、誰に気兼ねすることもなく、映画の余韻に浸る。最高じゃないか。」

次第に心が落ち着いてきた。今なら菩薩のようなまなざしでカップルを眺められそうである。閉じていた目を開け、改めてホームをぐるりと見渡す。そこには肩を並べる4組の男女、そして横に誰もいない私…。自分の孤独が嫌でも直面化させられた。それによって、私の心は醜い嫉妬に占有された。気づけば私は、菩薩どころか般若の形相で彼らをにらみつけていた。

「くっそ。なんで俺は今日も今日とてひとりなんだ!」

やがて近くのカップルの男が、映画の原作の続きをネタバレし始めた。私は映画しか見ていないので、原作を知らない。

「ぶち殺すぞ!お前はこの哀れな男から、孤独な楽しみすらも奪う気か!」

そう心の中で罵る。菩薩は見る影もない。

憤然と電車が来るのをひたすら待つ。こんなに電車が遅いと感じたことはなかった。

やっと電車が来た。でもそれを見て絶望した。1両編成の電車。

じ~ごくはつづく~よ~ ど~こまでも~♪

嫉妬に満たされた私の心に、メロディが悲しく響いた。

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