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川柳見聞録 #番外編

待ち人は来ずお前だけ来た
/スズキ皐月「おすそ分けの日」(ネットプリント『レンタサイクル』)

短歌見聞録の番外編ということで今回は川柳。

「待ち人来ず」というのはおみくじの代名詞だけど、それは「待ち人は来ないでしょうね」という神のお告げというか、神さん側の予想みたいなものである。

が、「待ち人は来ず」と言っているから、これは「待ち人は来なかった」という当人の断定になるので、おみくじ構文を使った嘆き、みたいなことではないか。

ではなぜ、そんな嘆いているのかと考えると、前に引いたおみくじでは「待ち人来る」と出ていたのではないだろうか。なのに来なかった。そして「お前だけ来た」。なんだよ、待ち人やっぱ来ねえじゃん、と。

でも、ここでは終わらない。なんだお前かよ、と呼べるようなレベルの関係性である人であるところの「お前」は、確かにここに来ているのだ。当人は待ち人は来てないと思っているけど。

当人が意識していないだけで、「お前」が待ち人である、というところまで含めておみくじの結果であるという可能性が残されている。というか、その可能性しか読めないかのように詠まれているとすら思える。

さらに言えば、こういう言い方をしていることから、当人だって「お前」が「待ち人」であることに気付いているかもしれない。心中では、ああこいつが結局待ち人なのかあ、と思ってるのかもしれないのだ。

でもそれは言いたくない、言わない。その想いが強い言葉になってしまう。すばらしきハイコンテクストだと思う。

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