学生を戦力化できる組織の構築
学生だけのプロ集団をつくる
本業の中核を担う学生組織
現在のサクラスは、社員1名、学生21名、社会人の業務委託5名(と私)から成り立っています(人数は本稿執筆時点)。
30名の学生は、いわゆる「インターン」という形ですが、長い人は3年以上続けていて、雑用というよりも本業の中心を担っています。世間一般のインターンのイメージとは異なるかもしれません。
社会人の業務委託5名は、広告運用やタグ運用などの専門的なアドバイスをしてくれている人が2名、広告の専門知識が豊富なお客さま担当(AE)が1名、プログラマーが1名と、DAOの運用をしてくれている人が1名となっていて、広告運用の実務に関する部分は概ね学生だけで完結しています。
キッカケはコロナ
このような学生中心の特殊な組織となった直接のきっかけは、コロナ禍でした。
それまでは経験豊富なプロフェッショナル15名前後のネットワークで仕事をしていました。(その時から社員という形ではなかったのですが、そちらの詳細は別記事を参照下さい。)当時のメンバーは元コンサルやメガベンチャー、総合・専門の広告会社のフリーランスや副業などです。
それが、2022年春にコロナ禍でフルリモートとなったことをきっかけに、学生の割合を大きく増やして今に至ります。
勿論、学生インターンは創業当時から存在してました。しかし従来の学生の仕事は定量分析など個別の工程を切り出してお願いしていたか、または事務や撮影のアシスタントなどでした。
それが、コロナ禍をきっかけに本業の選択と集中、標準化や仕組み化を推進することで、会社の本業の納品部分の殆どを学生に任せ始めました。
学生の戦力化は可能か?
本稿では、学生が本業の中核を担うために必要となる準備、及び導入のメリット・デメリットについて解説します。
但し、現在の多様化した社会において、企業と学生との関係には様々な形が有り得ると思いますので、あくまでいち手法として参考にしていただけたら幸いです。
学生中心組織を作る上で準備したこと
本質は「プログラマティック組織」
導入のメリット・デメリットは、導入する方式に相当依存すると思われるために、先に前提となる手法について説明します。
当社における学生の積極登用手法に何か名前をつけるとしたら、「プログラマティック組織」などになるかもしれません。
この「プログラマティック組織」(いま名付けた)では、マニュアル、プロセス、アウトプット、KPIの4点が重要となります。
それぞれ簡単に解説します。
徹底したマニュアル化
本業の納品部分の殆どを学生に任せるにあたっては、それなりに準備が必要です。当社の場合には、SNS広告運用の業務を100ページほどのマニュアルにしました。
マニュアルはその後もことあるごとに加筆していて、今では400ページ以上あると思います。(上記のFacebook投稿にもある通り、アンガーマネジメントにも一役買ってくれた気がします)
マニュアルに(そんなにたくさん)何を記述するのか?
多くの学生がマニュアル期待するのは、デジタル広告の具体的な管理画面などの操作方法といったところですが、実は当社ではそうした内容は最低限に留めています。デジタル広告の基本的な概念や具体的な操作方法などは、ググれば書いてあるからです。
代わりにマニュアルには、当社独自の手順や書類の作成方法などを記述しています。例えば投稿時のチェック項目や誰が何日前までにチェックするのか?など、ひらたく言えば、品質向上につながるような内規(ルール)や工夫を書いています。
ルールや工夫をマニュアル化することによって、仕事の品質を属人的なものにせず、再現性のあるものにすることができます。
プロセスの標準化
ここで実は、ルールや工夫をマニュアル化するためには、仕事の「手順」(プロセス)を定める必要があります。当社の場合はデジタル広告の出稿の手順を13ステップに分けていて、そのそれぞれにルールを定めています。
例えばターゲットリストを作成する際には情報源をどのように決めるべきか、レポートを作成する際には計算過程をどのように残すべきかなど、マニュアルに記述しています。
また、社内承認の手順や事故防止のための点検の手順などステップによらないルールも定める必要があります。
日頃、より大規模な業務システムの開発などに携わっている方からすると「システム化にあたって業務設計が必要になることは当たり前」と思うかもしれませんが、「プログラマティック組織」においても業務設計や要件定義は同様に重要といえます。
アウトプットの標準化
それぞれのステップでは、何らかのアウトプット(納品物)があります。
そこで求められる品質についてもマニュアルで記述しています。
顧客への提供価値を高めるためには、各段階でレベルの高いアウトプットを出していく必要があり、前述のプロセスの洗練化もそうしたアウトプットの質を高めるためのものと言えます。
なお、前項のプロセスもそうですが、ここで言うアウトプットの標準化は、マニュアルに書かないものも含みます。
必ずしも全てをマニュアルで明文化する必要まではなく、クラウド上や過去のSlack・メールのやりとりとして残されている部分も多くあります。
例えば、前述の13StepはひとつひとつがSlackのチャンネルになっていて、アウトプットのチェック項目はSlackの各チャンネルにPinされています。
また、新たに加入したメンバーには、過去Slackの検索方法など、会社の過去の知見にどうアクセスするかを最初に教えます。
こちらはコンピュータのシステムでいうところの、APIや関数、つまりインプット(引数)とアウトプット(戻り値)にあたる部分となります。
KPIの定義と運用
最後に、KPIも重要です。
当社では顧客へ提供した付加価値量を指標化しています。
「プログラマティック組織」においては、運用中の設計者へのフィードバックのほか、自由度ある運用部分に一定の方向性を持たせる役割を担います。
KPIはシンプルで客観的なものにする必要があります。
学生戦力化のメリット・デメリット
当社における学生の積極登用の本質が「プログラマティック組織」の構築にあることは既に述べた通りです。
ここからは、あくまで当社の「プログラマティック組織」方式を採用した場合の学生登用のメリット・デメリットについて記載します。
事業の選択と集中が必要
先にデメリットですが、「プログラマティック組織」の構築には、相当手間がかかります。場合によっては人を育てるよりも先行投資がかさむかもしれません。
そのため、社員を選ぶくらい慎重に、事業を選ぶ必要があります。
同時に複数の事業を推進するには不向きです。
当社の場合も、マニュアル化と学生組織への改編を行った時点から、事業の選択と集中を徐々に進めました。
ピボットはできる
投資は必要と書きましたが、一気に大規模な投資が必要となるわけではなく、投資は漸次的となります。
ですので、もし組んでみて顧客価値を体現できない、市場の要請にフィットしないということになればピボットすることが可能となります。
そのため、組織を組み上げることを目的化させすぎず、あくまで提供価値(KPI)の様子を見ながら少しずつ軌道修正をしていくことが理想です。
提供価値の再現性が高まる
この方式の最大のメリットは、顧客への提供価値の再現性が高まる点です。
顧客への提供価値の特定部分を担保するものが、人材からシステムになることで、安定性が高まります。
また、企画と実行がほどよい距離で分離されることで、高度な人材はより高付加価値の企画機能に特化できます。
マニュアルを書き換えたり(またはトークン設計を変更したり)することで、企画と実行はお互いに影響し進化できるくらいの距離感です。
企画機能と実行機能は一定分離されるものの、完全機械化やコンピュータプログラム化よりも柔軟で、学習し続けられるという点が魅力です。
経営者が他責にしずらい
蛇足ですが、その他のメリットとして、経営者が他責にしずらいということがあると思います。
純粋無垢な学生を登用して、マニュアルを整備してなお問題が起きるとしたらそれは設計者である、経営者の責任です。
もし学生がマニュアルを読まずに事故が起きた場合は、マニュアルを読んでもらうためのマニュアルを記述するか、マニュアルを読む人だけを採用するか、マニュアルを読まずにはいられない仕組みを導入すると思います。
よくある誤解
ここまで読んでいただき、この「プログラマティック組織」を導入したいと思った場合に(そんな人がいるかわからないけど)、念の為以下のような感想が生まれていないかテストしてみて下さい。
もし以下のような感想(や質問)が生まれていたら、この方式は向いていないので別の方式を採られることをオススメします。。
「最近の学生は優秀ですね」
(うすうす伝わったかもしれませんが、)いま時点で、結果として「中途採用や新卒採用よりも現役学生の方が人材要件に合っている」というだけですので、「最近の学生が昔よりも優秀だから(以前は考えられなかった)学生インターンという新しい選択肢がある」と考えて学生を積極登用しているわけではありません。
「優秀な学生をどう採用しているんですか?」
採用は重要ですが、「優秀」の定義は会社によりそれぞれで、総じて(当たり前ですが)「現役学生が3年目の社会人より優秀」ということはありません。新卒の学生と同じくらいです。
ちなみに、大学の勉強は社会に出て役に立たないので、大学一年生でも新卒一年目でも社会人としての能力はそれほど変わりません。
とはいえ採用については色々と方法はありますのでまた別の機会にまとめられたらと思います。
「安上がりでいいですね」
ひとりあたり人件費よりも、ひとりあたり粗付加価値などで考えた方がいいと思います。(マジレスしていいのかわかりませんが・・)
「マニュアルを作っても、使わないのでは?」
これは良い質問です。
実際、マニュアルやプロセス、アウトプット、KPIは、半ば無理矢理でも徹底して浸透させる必要があります。
例えば、Slackで学生に何か個別の指導をする際も、面倒でもマニュアルの当該箇所を案内し、参照するよう促しています。またその際、必要であれば都度、当該箇所に加筆しています。
「プログラマティック組織」は組織がコードから離れすぎて「暴走」する可能性もあります。
そこはコンピュータと比べて運用の自由度がある分、諸刃の剣となる可能性をはらんでいるといえます。
サクラスの現在地と将来像
システム化の整備
これまでご紹介してきたとおり、「プログラマティック組織」では、組織における「入力」と「出力」の連鎖をある種のプログラムに見立てて仕組み化を進めてきました。
今後はここに機械化の要素も入れていく計画です。
具体的には、既定のプロセスに従っているかどうか、アウトプットの基準を満たしているかどうかなどを機械が判定し、KPIのモニタリングも自動化していきたいと思っています。
より、「プログラマティック」になっていくかと思います。
ベストミックスを探して
一方で、「人」ならではの強みも活かしていきたいです。
人にあって機械にない強みは、「責任感」「向上心」「理解力」といったところだと思います。
より組織のシステムにマッチした人材が、楽しくいきいきと働ける環境を用意することで、システムと人材が、イーブンな関係で相互に依存しあって進化し合う状態になることが楽しみです。
DAO化も推進
前述の機械化を推進することで、DAO化との相性も良くなってきます。
今は税制その他法制面でネックも多いDAOですが、来たるべき時代に備えてまず組織を温めておきたいところです。
機械化に加えてトークンでの報酬支払いが進んでくると、社内と社外の境目があいまいになり、よりコミュニティとしてどう熱量を高めていくか?が重要になっていくかと思います。
Z世代を応援する理由
最後に少しだけ、Z世代を応援する理由について書いておきます。
次の世代へのバトン
歳をとっただけと思われるかもしれませんが、自分よりも後の世代にどんなセカイを残すのかというようなことは、20代の頃からずっと考えてました。
中学生の頃に『葉隠』を読んだときなのか、働き始めてからモノクロ映画の『日本のいちばん長い日』を観た時なのか、『昭和天皇独白録』なのか安達二十三将軍の遺書だったか大西瀧治郎の遺書だったか、きっかけは何だったかわからないのですが、
何か重いバトンを受け取った気がして、
今に至ります。
顧客への提供価値が第一
なお、くどいようですが、個人的には、顧客の提供価値を犠牲にしてまでZ世代を起用しようとは思っていません。
30代の方がいい、40代の方がいいと思えば、今でも特に躊躇なくそうすると思います。
(実際はバランスだと思うので、今でも一定比率30代以上の専門家を交えて最適なミックスを探りながらやっているという形ですが)
自分が欲しかった場所
今のサクラスは、学生時代に自分が欲しかった場所です。
大学の勉強が社会に出て役に立つと思えなかったので、
野球部の人たちがプロ野球に行く準備をしている中
自分が時間を無駄にしている気がして焦りました。
高校の時から自分で勝手に作っていた「社会」との接点は、
少しずつですがいくつかあって、それらは楽しかったですが、
今で言う起業のような形でそれを広げきることは、当時の私にはできませんでした。
研究の奴隷にさせられるのは最悪の体験でしたし、
就活の面接だけで、社会での自分の存在意義を決められるのも恐怖でした。
受験であれば志望校の過去問を解くこともできたと思いますが、就活ではそういったものは無く、
社会人としての自分の「偏差値」を実技でもってガチで測れる場所、鍛えられる場所があったら良かったのにと思います。
学生から見たカイシャ
本稿ではどうしても、経営都合からの組織の描き方になってしまいましたが、参加する学生の側から見たときには、この仕組みを使い倒してほしいと思います。
乗りこなすの学生たちのレベルが高ければ、より難易度の高い仕組みも用意できます。F1のドライバーとレースカーのような関係です。
最高の仕組みを用意するので、それを駆って社会に挑戦して、ガチの対決でオトナを打ちのめしてほしいと思います。
この組織で世の中の同業他社に競争で勝ちたいです。
本稿は、学生の登用を前提とした「プログラマティック組織」(勝手に名付けた)について紹介させていただきました。「プログラマティック組織」については、あくまで組織運用方法の一例であり、学生の積極登用にあたり同手法が最適であると主張するものではありません。
「うちの会社では学生がこんなふうに活躍してるよ!」というような別の事例がありましたら是非、積極的にお知らせ下さい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?