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ブータンに勇気を捧げた日

もう10年も前の話になる。ブータン3週間の旅をしたことがあった。

きっかけは単純で友人のカメラマンに「凄いぞ!映画ラストサムライの世界だった」と猛烈に勧められたからだった。しかし調べると遠い。距離が遠いのもあるんだけど、現地のツアー会社と直接やりとりしたから大変だった。

誰もが行ける場所に興味はない。僕はブータンの秘境の温泉や、数年前までゲリラ紛争のせいで外国人が立ち入ったことのないインド国境まで突き進んだ。県境を超えるごとに関所があってパスポートと許可証を求められた。

その時タシ君という現地のガイドに世話になったんだけど、道中で彼から発せられた言葉がどうしても引っ掛かった。唐突だけど、予定に無いスケジュール変更を申し出た。

『この国は、中々変わらないんですよ。何をしても動くのが遅いんです。長老や偉い人たちは新しい変化を望んでません。だから若い人たちは未来に諦めに近い感じを持ってるんです』

タシ君の嘆き

「ブータンの首相官邸に行こうよ!」

無茶振りもいいとこだったが、僕はどうしても伝えたいことがあったんだ。でも想像していたとおり、タシ君は眉を潜めるどころか苦い顔をして首を振った。

「そんなの無理です」

僕だってイイっすねと笑顔がかえってくるとは思ってない。どこの世界でも「カースト制度的なる身分の違い」から由来する「絶望感」「不可能感」というのはある。でも諦めてはいけない。

「じゃあ、JICAオフィスに表敬訪問しよう!」

僕はステップ論でまずJICAオフィスにアポなし表敬訪問をする事にした。タシ君はムリですよと言いながら渋々クルマを向けてくれた。

日本大使館はインドにあってブータンには無い。JICAは外務省外郭団体でODA予算の実行の現場なので、ブータン人にとっては大使館的な存在イメージ。

正面玄関を入ると受付に凛としたブータン人の女性がいた。

「は?アポはありますか?」

冷ややかに言われた。どこの世界でも権威が必要なときがある。しかし諦めてはいけない。僕は英語でゆっくりと話した。

「アポなど無い。日本からはるばるブータン南部地域を3週間視察してきた。だから日本人スタッフにお会いして貴重な情報をお話ししたい。これは大事な情報です。もちろん両国にとって。」

数分ロビーで待っている間、タシ君は委縮していた。JICAオフィスに入ったのも初めてだし、そんな無茶を言う観光客も初めてだった。しかし一時間後の彼の表情は変わっていた。

僕は週刊SPAと写真週刊誌FLASHをお土産に渡した。遠く離れた国で最新情報を聞いて喜ばない人は居ない。無茶苦茶ハナシは盛り上がった。

「ねぇ。首相オフィスに行って見ようよ。不敬罪で逮捕されるワケじゃないんだしさ」

僕達は作戦を考えた。タシ君の表情は以前とは変わっていた。やってやるかって顔になっていた。僕達は首相官邸エリアに向かった。

しかし壁は厚かった。そこは観光客の入るエリアでは無い。何処の馬の骨とも知れぬ外国人観光客が、カンタンに足を踏み入れる場所では無かった。警護は厳重で、何度も訪問の理由を話す事になった。ゾンカ語はわからない。分らなくても雰囲気は伝わってくる。しかし諦めてはいけない。

このエリアは首相官邸と霞が関官庁街が一緒になったようなエリア。もちろんブラブラ歩いている人など居ない。シーンと静まり返った建物の上を雲がゆっくりと流れていく。目指す建物は遠かった。遠い。遠すぎる。しかし諦めてはいけない。

やっと入口にたどり着いた。ココからが難関だった。タシ君は階段を登るのを躊躇している。なんで来ちゃったんだって恨めしそうな顔をしている。オレはもっとヤバいことを乗り切ってきた。タシ君!頑張れ!僕は胸の中で叫んだ。そしてニコリと笑って言ったんだ。

「さぁ。行こうか!」

僕達は荘厳な空間へ飛び込んでいった。

何度も検問を通るあいだに、変な日本人が来た情報は伝わっていたようで10分ほど待たされた。でもその時間は1時間待たされたように長く感じた。

僕は腕を組んで眉間にシワを思いっきりよせて苦い顔をした。タシ君は不安そうな顔をしている。衛兵は僕達を睨んでいた。

僕達は首相オフィスの奥の方へ通された。

大臣は会議中で、首相フェローも不在だったけど、丁重にもてなされた。広い部屋でお茶を飲んで、ひとしきり旅のハナシを秘書官にして、意気揚々と引き揚げた。

日本人観光客で、あそこまで踏み込んだヒトなど居ない。ほぼ日の糸井さんだって、モデルの押切もえちゃんだって、ブータンへ訪問しているけど、こんな体験はしてないと思う。

帰り際に美人秘書と記念撮影を頼まれた。この距離感が僕の立場と身分を表している。と思ってもらっていい。

帰り道、タシ君は興奮してドライバーのキンチョウ君に官邸のハナシをしている。僕は僕の役立つ事を背中で示せたことに満足していたし気持ちが伝わったのが嬉しかった。

「諦めなくてよかったね」

非常識と思われてもイイ。僕は僕なりに両国の絆に貢献できたと思うんだ。未来は若者のためにある。若い人の力を信じて「自信」や「勇気」をばら撒いてきた。

ブータンの正装である「ゴ」を着て記念撮影した時。コスプレでは無い。あしからず。

で。。その夜にオトコ三人で一番盛り上がったのは美人秘書のことだった。興味関心は世界共通である。

「ええ。諦めなくてよかったです。美人にも会えたし」

長い一日が終わった。ありがとう😭ありがとう😊。珍道中だった3週間の旅は「勇気をわかちあう旅」になった。

#私だけかもしれないレア体験

ドライバー・キンチョー君・ガイド・タシ君・髪が黒くて太ってた頃のオレ

#私だけかもしれないレア体験

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