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私が書きたい小説

今後はどんな小説を書きたいのか、という質問をいただくことがあります。


今の私にとって、その質問に答えることは、小説を書く理由を説明することでもあります。また、”どんな”を通じて果たそうとする目的の説明をすることでもあります。理由であり目的であり、ただそうしたい「次の一作」があるから、というだけのことなのですが、そうやって思っていることをああだこうだと話しているうちに、ちゃんと答えたのだかどうだか分からなくなってしまうのでした。

だいたい”思っている”というのはどういうことなのでしょう。思うとは何か。思ったことを書こうとしているといつまで経っても終わらない。終わらないどころか、一文字だって書き始まらない。そうしていつも行き着くのは佐々木敦さんから教わったことです。

――考えたことを書くのではない。書いたことが考えたことだ。

それで最近は、『ことばと vol.7』の「受賞の言葉」として寄せた文章を自分で引用して回答することにしています。

私が書きたい小説

その部分を、編集部(書肆侃侃房)に確認の上、以下に転載いたします。

造形したい。小説を書きたい。

今までに作った、アイデアやフレーズをつなぎ合わせただけの、どの瞬間を振り返っても書けた気のしない「小説を目指した何か」ではなく、自立し成立していると確信できる小説。

速度だけでは形を維持できないような長さで、しかし難なく読み切れる作品。言語芸術と呼んで誰に憚ることもない、ある一線を越えて美しく、知らない誰かにとって新しく面白い読み物。

具体の積み重ね。どこにも書き込まれてはいないのに、知覚し取り出すことのできる秘密を抱くことばの一群。精緻にして微妙なもの。

一緒に次の作品を企てようという伴走者が現れてしまうような、人と引き合う力を持った造形物。

『ことばと vol.7』
「受賞の言葉」p.239 より転載
※note用に池谷が改行しました

それらを目指して書いたのが、中編小説「フルトラッキング・プリンセサイザ」です。お読みいただけたら嬉しいです。

単行本、予約受付中です。

『フルトラッキング・プリンセサイザ』池谷和浩(書肆侃侃房)

映像や3DCGを扱う制作プロダクションに勤めるうつヰの一日は長い。今夜バスタオルで体を拭くのを忘れないようメモするアプリケーションには何が最適か。部長の言うユーキューは「有給」なのか「有休」なのか?仕事を終えると「プリンセサイザ」にログインする。京王線沿線の各駅に配置された王女たちと、仮想空間システムを渡り歩けるソーシャルVRの中で交流するのだ。選考会で激賞された第5回ことばと新人賞受賞作「フルトラッキング・プリンセサイザ」ほか、一年後をつづった「メンブレン・プロンプタ」、うつヰの学生時代を描いた「チェンジインボイス」を収録。

書肆侃侃房 Webサイト

以上です。
ねこによろしく。

フルトラPジェネレータ/うつヰが居る風景で生成

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。つたないものですが、何かのお役に立つことができれば嬉しいです。