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さまざまな世界の終わり方

だらだらと話す気はないんだ。 その男は実は強大な力を持っていたんだが、それを家族を守ることだけに使ってひっそりと一生を終えたので、誰も気づかなかった。それだけの話だ。 力? 男はそんなことしなかったけれど、たとえばあそこの山を半分くらいに潰したいと思ったとするだろ。簡単にそうできるくらいのとんでもない能力をもっていた。たとえば、な。 男の人生は冴えない、平凡なものだった。下級役人になり、そこそこ認められる働きぶりだったが歳を重ねて自然と押し上げられる最低限の役職以上に出世

    • noteで昔の小説の原稿を公開してみた | INC http://goo.gl/YDvLX5

      • あまたの夢、緑の丘を去りて

         彼は年老いていた。濃いサングラスをかけ、とてもゆっくりと、体をまっすぐに立てて歩いた。顔色は灰色。暑い日にはそれが白茶け、寒さのきびしい日には青ざめた。目が見分けられなないので、両端のぐっと下がった口元がいつも目立った。  毎日きまった時間に、決まった道を通り、決まった所へ行った。午後早く、黒ずんだ雨跡が見えない蔦の影のようにからみつく建物から出て、旧市街を抜け、間もなくバー《トリストラム》に入る。夕方五時過ぎには《トリストラム》を出て、斜めに道を横切り、レストラン《ファン

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