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マンガレビュー『プラチナエンド』大場つぐみ、小畑健(2015~2021)単なるエンタメじゃない哲学的要素が濃厚


天使の羽と矢
あなたならどう使う?

もしも、あなたの前に天使が現れて、
翼とハートの矢を
プレゼントしてくれるとしたら、

あなたは翼と矢を
どう使うでしょうか。

翼を使って、空を飛び回り、
いつも歩いている街を
上から見下ろすでしょうか。

はたまた、好きな人に
ハートの矢を刺して、
あなたが思うままに
相手を手中に入れるでしょうか。

そんな「if」の世界が
本作では描かれています。

『デスノート』で「死神」を描き、
大ブームを巻き起こした二人が、
今度は「天使」の話を描きました。

私はこの連載が
はじまったのを聞いた時、
「天使」から連想されるような
甘い恋の物語を予想していました。

二人のもう一つの代表作でもある
『バクマン。』にも
そんな側面があったからです。

しかし、実際に読んでみると、
予想とは、かなり違う物語でした。

赤の矢=惚れさせる
白の矢=死に至らしめる

本作の主人公・
架橋明日(かけはし みらい)は、
幼い頃に両親を亡くし、
親戚の夫婦に育てられました。

その家庭では、虐待を受け、
学校ではイジメに遭うという
過酷な生活を送っていたのです。

彼は中学卒業と同時に
自殺することを心に決めました。

屋上から飛び降りると、
彼の前に天使が現れて、
彼の命を救ったのです。

天使は主人公に
翼と矢を渡しました。

翼を使うと
瞬時に飛び回ることができます。

赤の矢を使うと、
矢が刺さった相手が
自分に惚れて、
相手を思うように操ることができます。

白の矢を使うと、
矢が刺さった相手を
死に至らしめることができます。

なぜ、天使は
主人公を助けたのでしょうか。

そして、これらの能力を授けた
天使の真意とはなんなのでしょうか。

単なるエンタメじゃない
哲学的要素が濃厚

地上に舞い降りた天使は
全部で13羽です。
(13匹と言うと怒られます)

天使の目的は、
次の神候補を探すことでした。

天界にいる神は力が衰え、
命を失いかけています。

そこで、神は人間界で
新しい神を見つけようと
天使たちを送り込んだのです。

「神候補」に選ばれた人間は、
不幸な人たちでした。

自らの人生に絶望し、
今まさに自死しようとしていた
人間が次の神候補として
選ばれたのです。

『デスノート』においても
死神を巡る攻防戦が
繰り広げられましたが、

本作でもそのような場面が
多くあります。

『デスノート』でも
死神のノートにまつわる
各種のルールが秀逸でしたが、

本作における天使のルールも
よくできています。

赤の矢を刺せるのは
同時に14人まで。

赤の矢が刺さった人間が死ぬと
矢が持ち主に返還される。

赤の矢が効力を発揮するのは
33日間だけ。

同じ人間に赤い矢を
刺すことはできない。

この他にも細かいルールが
いろいろとあるのですが、

これらの決まり事によって、
神候補を巡る争いは
頭脳戦の様相を呈していきます。

白の矢(殺す矢)があることによって、
『デスノート』とは違って、
アクションシーンも多いです。

頭脳戦、アクションといった
エンタメ要素に加えて、

本作では
「生きるとは」
「幸せとは」
「神とは」
「人類とは」

といった哲学的な問いが、
壮大なテーマとして
描かれているのです。

誰もが予想だにしなかった
ラストには賛否両論あるとは
思いますが、

このラストを見て、
私は妙な納得感を得ました。

人類って、
こういうことなのかもしれません。


【作品情報】
初出:『ジャンプスクエア』
   2015~2021年
原作:大場つぐみ
作画:小畑健
出版社:集英社
巻数:全14巻(全58話)

【作者について】
大場つぐみ
’03年、『DEATH NOTE』でデビュー。
小畑健
’69年生まれ。
’89年、『CYBORGじいちゃんG』でデビュー。
代表作『ヒカルの碁』(’98~’03)
『DEATH NOTE』(’03~’06)
『バクマン。』(’08~’12)

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