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テレビレビュー『不適切にもほどがある』(2024)昭和・平成を経て、令和を生きる我々は何を失い、何を得たのか


クドカン最新作は、
令和にタイムスリップしてきた
昭和の親父

1~3月に放送されたドラマでは、
これしか観ていませんでした。

宮藤官九郎脚本で、
主人公は昭和から令和に
タイムスリップしてきたおじさん、

これは観るしかありません。

実際に観てみると、
これが思っていた以上に
おもしろく、

すぐにレビューに
したいくらいでしたが、
最終回まで我慢しました。

ようやく最後まで
観ることができたので、
その魅力について書いてみます。

耳からうどん、
小さな機器に向かって話す若者

物語の舞台は、
1986年、2024年です。

妻に先立たれた
シングルファザーの主人公・
小川一郎(阿部サダヲ)は、

中学校で教師を務めています。

体育の教師で、
野球部の顧問でもあり、
生徒に厳しい「鬼教師」
として知られていました。

そんな小川にも
高校生の娘がいます。

娘は反抗期で、
親子の関係も
それほどうまくいっている
とは言い難い状況です。

それでも娘の行く末を
案じる小川はたびたび、

娘に対して小言をぶつけては、
また娘との関係は
悪くなる一方でした。

そんな小川がある時、
帰宅の際に路線バスに
乗ったところ、

いつもとは違う光景が
目の前に現れてきて、
困惑してしまいます。

耳に「うどん」を
つけた女子高生、
(うどんではなく
 Bluetooth のイヤホン)

手元の小さな機器に
向かって話す若者、
(スマホ)

外にはそれまでに
見たこともなかったほどの
タワーがそびえ立っていました。
(スカイツリー)

小川は知らないうちに、
38年後の世界に
やってきてしまったのです。

果たして1986年から
やってきた鬼教師・小川は、
令和の時代をどのように
生きていくのでしょうか。

昭和・平成を経て、
令和を生きる我々は
何を失い、何を得たのか

本作はタイムスリップを
描いた作品でありながら、
SF 的な部分はそれほど
重要ではありません。

脚本を手掛けた宮藤官九郎は、
過去にも
『ゆとりですがなにか』でも、
(2016)

「ジェネレーションギャップ」を
おもしろく描いたことが
ありました。

本作もそういった世代間の
ギャップを際立たせて、
それを世に問う作品
と言えるでしょう。

主人公をタイムスリップ
させることで、
そのギャップはより濃厚となり、
おもしろさが倍増します。

さらに、本作では、
毎話ごとに、
以下のようなテロップが
表示されるのです。

この作品には不適切な台詞や
喫煙シーンが含まれていますが
時代による言語表現や文化・風俗の
変遷を描く本ドラマの特性に鑑み
1986年当時の表現をあえて使用して
放送します

これを見た時に、
うまいやり方をするなぁ
と唸らされました。

今は何かとコンプライアンスが
厳しい時代ですから、

当然のことながら、
'80年代のことを描くうえでも、
何かと不都合が多いでしょう。

そこを敢えて、テロップで
注意喚起することによって、
それ自体が笑いにも
なっていますし、

視聴者に対しても
「作り話ですから、
 勘弁してくださいね」
という目くばせとしても
効果を発揮しています。

2024年にやってきた
小川の前には、'80年代の人には
考えられないようなトラブルが
次々と出てくるのですが、

そのたびに、小川は
「不適切発言」で
それらを見事に
解決していきます。

そこに出てくる不適切さも
先に「おことわり」しているので、
なんだか許されてしまうんですね。

何よりも、今の時代は、
正面からものが言いにくい
時代でもあります。

そのはけ口は、
SNS をはじめとする
インターネットの世界に
なってしまったのが、
今の状況です。

しかし、小川はそんな状況に
困惑しつつも、
常に相手に対して真正面から
自分の意見をぶつけます。

この姿が何よりも爽快なんです。

視聴者は「これだから昭和は」
と嘲笑しつつも、

どこか的を射たような
その言動に刺さるものが
あるのではないでしょうか。

昭和・平成を経て、
令和を迎えた私たちが
失ったもの、
逆に得たものが、

小川の存在によって、
明らかになっていきます。

そして、最終的には、
この時代を生きて、
小川(と視聴者)は
そこに何を見出すのか、

それは最終回まで観てこそ、
わかるものかもしれません。

とにかく、このような形で、
言いにくいことを
正面から言うようなドラマを

(上から諭すのではなく、
 客観的におもしろく伝える)

作ったのは
すごいことだと思います。

最近のクドカンの作品は、
ただおもしろいだけでなく、
深いテーマも感じさせますね。

そういう点も含めて、
クドカンの作品は
おもしろいのです。


【作品情報】
2024年1月~3月放送(全10話)
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀
   坂上卓哉
   古林淳太郎
出演:阿部サダヲ
   仲里依紗
   磯村勇斗
放送局:TBS
配信:TVer、Netflix、U-NEXT

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