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音楽レビュー『out of noise』坂本龍一(2009)ニュートラルな心に響く静かな音楽


坂本ファンの間でも
好みがわかれる後期の作品

坂本龍一についての記事を
いろいろ書いてきて、
それなりに読んで
いただいていますが、

自分にはコンプレックスも
あります。

それは私が'00年代後半以降の
坂本作品に詳しくない
ということです。

この『out of noise』も
その一つですね。

発表されて間もない頃に
CD を買って、
一通り聴いてはみたものの、

当時の私には難しく、
ほとんど聴き返すことなく、
ここまできました。

坂本龍一の最後の作品
『12』を聴き込んで、
その魅力に気づき、

そこではじめて
『out of noise』も
聴き直してみようと
思いました。

現実世界の音とは思えない
リアルな音

前作『CHASM』('04)から
5年ぶりの作品となった本盤は、
前作のポップな感じとは異なり、

現代音楽的なアプローチが
多く取り入れられた作品
となっています。

それゆえに難しく感じる
部分も多いのですが、

純粋に作り手が好んだ
「音」が詰まった作品
と言えるでしょう。

特筆すべきは、

坂本本人がさまざまな
場所でのフィールドワークで
採集した音の素材が
使われている点です。

北極圏で録音された
氷河の下を流れる
水の音などは、

現実世界の音とは
思えないほど、
澄んだ音になっています。
(⑨、⑩)

ニュートラルな心に響く
静かな音楽

発表された当時、
何よりも聴きづらかったのは、
この作品の音が暗く感じたから
なのかもしれません。

たしかに、今聴き返してみても、
決して明るいサウンドでは
ありません。

しかし、今の自分にとって、
それが聴きづらいかといえば、
むしろ、心にピッタリと
フィットする印象があります。

「明るい」「暗い」というよりは、
「静か」な印象なんですよね。

それまでの坂本龍一の作品は、
ソロ作品であっても、
どこか聴く人を意識した作品
という感じがありましたが、

このアルバムの頃から、

「他人のため」ではなくて、
自分が本当に聴きたい音だけを
作品に詰めるように
なったのかもしれません。

結果として、楽曲の中で
メロディーの批准は下がり、

純粋な音の塊としての
作品が目立つように
なったのでしょう。

心を落ち着かせたい時に聴くと、
これほど耳にしっくりくる
サウンドはない気がします。


【作品情報】
リリース:2009年
アーティスト:坂本龍一
レーベル:commmons

【アーティストについて】
1952~2023。
東京藝術大学在学中から
スタジオミュージシャンとして活動を開始。
’78年、『千のナイフ』でソロデビュー。
同年、YMO に参加、
その後、バンドは国内外で大ヒット。
他のアーティストへの楽曲提供、
映画音楽なども手掛ける。

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