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マンガレビュー『エースをねらえ!』山本鈴美香(1973~1975、1978~1980)この一球は絶対無二の一球なり


個性豊かなキャラクター

私の苦手なスポーツマンガであり、
少女コミックというのもあって、
まさか大人になってから読むとも
思っていませんでした。

興味を持ったきっかけは、
松岡修造が本作の影響を
強く受けていたのを知ったことでした。

そもそも松岡修造がテニスを始めたのも
『エースをねらえ!』を読んだのが
きっかけらしく、

海外遠征にも全巻を持参して
臨んだそうです。

試合の合間に
コートに持ち込んで読んでいた
というエピソードも有名ですが、

まさに彼にとっては
バイブルだったんでしょうね。

『エースをねらえ!』と言えば、

宗方コーチ、お蝶婦人といった
主人公・岡ひろみがかすむほどの
個性を持った名物キャラクターが
思い起こされるところです。

実際に読んでみると、
本当に個性的豊かな
キャラクターが多く、
一気に惹きつけられてしまいました。

宗方、お蝶婦人も捨てがたいですが、
個人的にお気に入りのキャラクターは、
国内の大会で岡のライバルとして
登場する宝力冴子です。

彼女は帰国子女で、
日本人離れした
カラッとした明るさが魅力的なんですよね。

心に刺さる名セリフの数々

キャラクターとともに
魅力的なのが名セリフの数々です。

少女コミックは
それほど読んだことがないのもあって、

「女の子は子どもの頃から
 こんなに重いセリフに親しんでいるのか」
と衝撃を受けたほどです。

有名な「この一球は絶対無二の一球なり」は、
実在のテニス選手・福田雅之助の
言葉だそうですが、

(福田雅之助:1897~1974。
 全日本テニス選手権第1回大会
 男子シングルス優勝者)

これ以外にも筆でしたためて
壁に飾っておきたくなるような
名言が次々に出てくるんですよね。

そういったセリフはどちらかと言うと、
試合中のシーンよりもその合間に、

特に、岡ひろみが落ち込んだ時などに
励ます言葉として、
宗方やお蝶婦人から出てくることが
多かったような気がします。

本作はテニスが主題のマンガですが、
意外と試合中の描写は淡泊な印象でした。

ルールの説明が
マンガの余白の部分に書かれていて、

テニスのことを知らない人にも
配慮しているんですが、
なんだったら、
そういう説明を読み飛ばしても
充分に理解できる内容です。

スポーツと言えば、勝ち負けがすべてで
結果のみが重視される印象も強いですが、

本作に関して言えば、
試合だけでなく、
そこに至る過程や

岡ひろみの学生生活全体の
おいしいところを抽出して
丁寧に描いています。

深い師弟愛

『エースをねらえ!』の
メインとも言えるのが、
岡ひろみと宗方コーチの
熱い師弟愛です。

岡がテニスをはじめたのは、
同じ学校で無敵の強さを誇る先輩、
「お蝶婦人」に憧れたのがきっかけでした。

そこで岡に目を付けたのが
宗方コーチだったんですが、

宗方コーチももとは将来を嘱望された
優秀なテニスプレイヤーだったんです。

ところが、故障により
プレイヤーとしての引退を余儀なくされ、
コーチに転身することになりました。

彼いわく
「自分の体の代わりになるプレイヤー」を
長年にわたり探していたところ、

やっとの思いで
岡ひろみという逸材を
見つけることができたんです。

宗方コーチの育成方法は
今の時代から見れば、
考えられないくらい、
「超」が付くほどのスパルタです。

徹底的に選手を追い込んで、
鍛えぬく指導方針で、
そこには一切の甘えが許されません。

最初の頃は、
そんな宗方コーチのやり方に
根をあげてしまうこともあり、

挫折も多いんですが、
徐々に宗方の想いが
わかるようになっていきます。

そこにあるのは純粋な
「テニス」に対する愛だけなんです。

本作のように、一つのことに
青春をかけるような生き方とは、
程遠く甘い生き方をしてきた
私としては、
まったく別世界の話にすら感じてしまいます。

でも、今の時代にも
こんな風に一つのことに
真摯に向き合う人たちが
いるんでしょうね。

その中から、ほんの一握りの人が
世界的な名プレイヤーになるんですね。

未だにスポーツの世界ことは
よくわからないんですが、
本作からその世界の片鱗を
垣間見ることができました。

これは間違いなく誰もが心にしみる名作です。


【作品情報】
初出:『週刊マーガレット』
   1973~1975、1978~1980
著者:山本鈴美香
出版社:集英社
巻数:全18巻(文庫版・全10巻)

【作者について】
‘49年山梨県生まれ。
’71年に『その一言がいえなくて…』でデビュー。
代表作『エースをねらえ!』(‘73~’80)、
『7つの黄金郷』(‘77)

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