レコードとハイレゾ

最近、レコード盤が復活してきているようだ。新譜もCDと同時にVinyl版が出されるくらいである。

しかし一部のユーザーの間で、いろいろと困った解釈や誤解が起きている気がする。

ありがちな誤解の一つは、レコードはCDのようにデジタル化過程で高域音声をカットすることがないアナログ方式なので、再生帯域が広いハイレゾのように音が優れている、というもの。

確かに楽器の生音には可聴帯域外の20kHz以上の高周波音成分が含まれている。しかしレコード用に録音・記録・再生する過程で使用される機器の周波数特性が高周波まで無いので、最終的な再生音には高い音の成分が含まれていない場合がほとんど。

例えば、収録マイク・録音機器・レコードプレーヤーのカートリッジ・アンプ・スピーカーなどの一つにでも周波数制限があると、最終再生音もそこまでの周波数特性になるのだ。

音質にはもちろん周波数特性も重要な指標の一つだが、それよりもレコードの良いところは音がサンプリングされていないという事。CDもハイレゾもPCMでデジタル化されることで、生音のスムーズなつながりが断片化され情報の欠落が起きます。

今はCDの音が一つの基準になり、ハイレゾはそれよりも良い音とされているが、しょせんCDもハイレゾもサンプリングでデジタル化された音の範疇のものです。

デジタル化を行うと必ず微小なレベルで情報の欠落が起こります。数学的なサンプリング(標本化)定理では情報は欠落しないとなっているが、それは理想的条件下での正弦波を使った理論的な話のこと。

16bitで量子化を行うと65,536スッテプにレベルが分けられるが、その時にこの1ステップ以下の変化情報は消滅するし、実際の複雑な音楽波形の再構築では100%の精度でアナログ音に戻るわけではない。

経済性やサイズなどの制約がある商業的製品である各種信号処理用ICやソフトウェアや機器類では、設計上様々な妥協や丸め込みが行われ、無限のサンプル点を持った理論上の定理との差は必ず発生します。

なにしろ電気信号や最終的な音はアナログの世界の出来事なので、たとえデジタル的な情報は欠落しなくても、例えば時間的精度が減少するなど、結果も「アナログ」なのだ。

理想的な数学理論と、性能というファクターが絡んでくる実世界の差を考えないで、「理論的に大丈夫だから現実も大丈夫」と単純に思い込む事がデジタル信奉者の方たちには多い。

レコードの魅力は、デジタル化のプロセスが絡まない途切れの無いスムーズな可聴帯域のアナログ音が再生され、さらに針の摩擦やターンテーブルの回転などの機械的な不安定要素が「味」となり、レコード特有の良い音体験につながることであると思う。

もちろんレコードには静電気・ホコリ・カビ・音飛びなど欠点もあるが、それらは音の特性以前の扱い易さについての話なので、本来の音質の議論とは区別するべきだと思う。

そのうえでアナログである事と、そこへさらにレコード特有の味が加わった音を、「良い音」と考えることは十分に理にかなっている。

今のレコードブームの到来は、周波数特性に過度な重きを置き、例えばICチップ一つで誰でもそれなりに設計できるようになり、一方で音楽性の再現が忘れ去られた今のデジタル音楽再生機器の不自然さを、なんとなく皆が気付いてきた、と言う事なのかもしれません。

結論としては、レコードとハイレゾには周波数的な関係性は全く無く、むしろ対極の物である、という事になる。レコードプレーヤーという環境を含めて聴いているレコードの音が良いのであり、せっかくのそのようなアナログ音を、ハイレゾでのサンプリングデータや圧縮音源データに変換しようなどとくれぐれも思わないようにしてください。