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民間ロケット製造メーカーの真打ち:Rocket LabがSPACを通じて上場を発表

毎日のようにSPACの上場や合併発表のニュースが出てきており、フォローしきれない状態です。しかし、3月1日に新たに発表されたSPAC合併は、また新たなSPACの可能性を感じさせてくれます。

ロケットの製造・打ち上げスタートアップでも、Space Xに続く真打ちともいえるRocket LabがSPAC合併を通じて上場すると発表されました。

宇宙関連では、イギリスの起業家リチャード・ブランソン氏が立ち上げた宇宙旅行ベンチャーのVirgin Galactic(以下写真)が2019年10月にニューヨーク証券取引所に上場しています。

Rocket Labが上場すると民間ロケット製造メーカーでは上場2号案件になります。

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ちなみにロケット/スペーステックの領域だとイーロン・マスク氏が率いるSpace Xが最も有名ですが、同社はまだ上場はしていません。

既に打ち上げ実績豊富なRocket Lab

Rocket Labは2006年にニュージーランドで創立された会社で、現在は本拠地をカリフォルニア州ロングビーチに置いています。

創立者CEO兼CTOであるPeter Beck氏はニュージーランド生まれで、17歳で工具メーカーの Fisher & Paykelの技師としてキャリアを開始、大学には全く行っていない、という異色の経歴です。

Fisher & Paykel時代に会社のワークショップを利用して、自前でロケットを作っていたという同氏を見出したのは、ニュージーランドのIT起業家のMark Rocket氏で、同氏の資金支援によりRocket Labは南半球で最初の民間ロケット製造会社としてうまれました。

日本の民間ロケット会社の「インターステラテクノロジーズ」も成功した起業家であるホリエモンに見出されて2005年にスタートしましたが、それと似た雰囲気を感じます。

Rocket Labは2017年から「Electron」と名付けられた小型ロケットの打ち上げを18回実施しており、そのうち16回は打ち上げに成功しています。また、Space Xのように再利用型のロケットを目指しており、直近2021年の打ち上げでは打ち上げ後のブースターの回収に成功しています。

このロケットは小型衛星の打ち上げ需要をターゲットとしており、一度の打ち上げコストは5百万ドルと低コストで実施できることが売りになっています。

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上記は宇宙ビジネスのネットメディアの宙畑が出している主要各社の打ち上げコストです。上記は大型〜中型ロケットの打ち上げコストですが、ブースター再使用可能にしてコストを下げているSpace Xも含めて二桁億円いく価格になっています。

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上記はElectronが該当する搭載容量100kg台の小型ロケットの領域です。日本のインターステラテクノロジーズが100kgを一桁億円後半としており、Rocket Labの150kgで5億円と近い金額になっていますが、全般的には現在市場投入されているロケットの中ではコスパがいい製品になっています。

また、既に商用ロケットとして実績を重ねており、高い成功率となっており、日本でもキャノンなどが同社の打ち上げを利用しています。ロケット打ち上げスタートアップの中では経験豊富で先行している企業といえるでしょう。

人工衛星や中型ロケットなどの新領域への進出

小型ロケットElectronで成功を収めた同社は、衛星や中型ロケットなどの新しい領域にチャレンジしています。2019年に170kgの搭載容量をもつ人工衛星Photonの構想を打ち出し、2020年6月には1号機の射出に成功し、2021年3月頃に2号機の射出も予定しているそうです。

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これらの取り組みで同社は過去、2億8800ドルの資金調達を実施しており、直近の2018年のシリーズEラウンドで時価総額10億ドルを超えてユニコーンの仲間入りを果たしました。

さらに今回のSPAC上場と合わせて、8000kg程度の搭載容量を持つ中型ロケット「Neutron」の開発を発表しています。

NeutronはElectronの20倍のキャパシティをもちますが、Space XのFalconの搭載容量22,800 kgなどと比べると3分の1程度のサイズとなります。

Neutronは、ISSへの人員輸送や他の有人宇宙探査ミッションもでき、このスペックを持ってすれば、2029年までの98%の打ち上げ需要をカバーできるとのことです。

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SPACによる上場により、同社には3億2000万ドルの資金が入るとのことで、この資金を活用してNeutronの開発を進めるものと見られます。

Vector Acquisition Corpの現在のパフォーマンス

米国の運用会社のVector Capitalが設立したVector Acquisition Corpは、合併発表により株価が上昇しています。上場価格の10ドル前後をさまよっていた株価は、16ドルまで上昇し、現在は14ドルに落ち着いています。市場としてはこの合併はポジティブに受け止められているものと思います。

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Vector CapitalのCEOのAlex Slusky(アレックス・スルスキー)氏は「Rocket Labはコンスタントなイノベーション、先進的なテクノロジー、着実な実行能力を兼え備えて宇宙へのアクセスの民主化を実現する稀代の会社です」と評価しています。

ちなみに既にSPAC上場を果たしているVirgin Galacticですが、3月2日のRocket Labの発表後、株価が10%以上急落しています。同社は2月に計画していた宇宙船のテストフライトが5月に延期されたとの発表があり、2022年を予定している旅客を載せた商用フライトの実現が危ぶまれています。

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両社のビジネスモデルは若干異なりますが、未だ実用化が見えていないVirgin Galacticに対して、既に実績が生まれ始めているRocket Labの上場により、Virgin Galacticに投資していた投資家がRocket Labに移る可能性はありそうです。

宇宙関係のSPAC合併はこれまでもいくつか発表されており、2020年12月に衛星5Gネットワークを提供するAST & ScienceNew Providence Acquisition Corpの合併が発表された他、2021年2月に小型衛星向けの推進機器を開発しているMomentusStable Road Acquisition Corpの合併が発表されています。

EV業界はテスラが既に上場しており、それに続いて様々なEVメーカーがSPAC上場していきました。このRocket Labの上場をきっかけに、スペーステック業界からのSPAC上場も今後次々と起こりそうです。


-Frontier Financing(フロンティア・ファイナンシング)-

本ノートは、SPACやダイレクトリスティングをはじめとした、新しい資金調達の手法に関するニュースや考察などをまとめて記事にしています。

海外では毎日のようにこのようなニュースが出ていますが、日本ではこれらの新しい手法はまだまだ情報は限定的で、未知の部分が少なくありません。

この記事を通じて最新情報や資金調達手法への理解が深まり、将来的には日本でもこれらの手法が広まり、より多様な資金調達の手法をスタートアップや企業が利用できる世界ができればと思っています。

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