【朗読】大人向け読み聞かせ『永井荷風/羊羹』

《あらすじ》

新太郎は、もみぢといふ銀座裏の小料理屋に雇われて料理方の見習をしている中、徴兵にとられ二年たて帰ってきた。 
停戦になって帰って来ると東京は見渡すかぎり、どこもかしこも焼野原で、新太郎は船橋の町から二里あまり北の方へ行つた田舍の百姓家なので、一まづそこに身を寄せ、市役所の紹介で小岩町のある運送會社に雇はれた。
一二ヶ月たつか、たたない中、新太郎は金には不自由しない身になっていた。そして、新太郎は金にこまらない事、働きのある事を、親兄弟や近所のものに見せてやりたかった。むかし自分を叱つたり怒りつけたりした年上の者にも、現在その身の力量を見せて驚かしてやるのが、何より嬉しく思われてならないのであつた。やがて田舍の者だけでは満足していられなくなつた新太郎は、以前もみぢの料理場で威張っていた上田という料理番にも、おかみさんや旦那にも、また毎晩飲みに来たお客、煙草を買いに出させる度毎に釣り銭を祝儀にくれたお客にも会って見たくなった。そして会いに行く新太郎であったが、
そこには覆らない現実が待っていた。

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