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地域コミュニティのネットサービスとその可能性

ご近所SNSマチマチの六人部です

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ご近所SNSマチマチという近所の住民同士でコミュニケーションをとることができるサービスを開発・運営しています。2015年10月に会社を設立し、約5年間、地域コミュニティにどっぷり浸かってきました。

この記事では、地域コミュニティ関連のコンシューマーインターネットサービス(以下、地域コミュニティのネットサービス)の可能性について書きたいと思います。

なぜこの記事を書こうと思ったかというと、地域の課題解決に取り組むネットサービスがもっと増えてほしいと思ったからです。

地域コミュニティのネットサービスは世の中に数多くあり、その多くは収益を上げることができておりません。

また、近年、SDGs(国連の定めた持続可能な開発目標)の達成と自社の事業を結びつけていく企業も増加しています。その流れをうけて、大企業も地域の課題解決に取り組み始めています。

そこで、そういった人々のヒントになればと思い、マチマチの事業を通して経験したことや調べたことをまとめていきます。

1. 地域コミュニティのネットサービスとその可能性(本稿)
2. 地域コミュニティのネットサービスの難しさ(次回予定)

本稿では、まず、地域コミュニティのネットサービスがインターネットが出現した1995年頃から継続的に出ている理由として、プロモーションメディアの広告費について説明します。

その後、地域コミュニティの各ネットサービスをカテゴリ別に紹介し、地域コミュニティのネットサービスの可能性を明らかにしたいと思います。

本稿における地域コミュニティのネットサービスの定義は、地域を限定し、消費者向けにインターネットサービスを提供しているものとします。

巨大な市場のデジタル化のチャンス

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出典:2019年 日本の広告費 - 電通 

電通の日本の広告費(2019年)によると、プロモーションメディアの広告費の総額は年間で約2.2兆円。減少傾向にあるものの非常に巨大な規模を誇っています。

プロモーションメディアは、折込チラシ、交通広告、フリーペーパー、屋外広告、POP、イベント等のアナログな媒体をまとめた総称です。

このような媒体に出稿する企業は、物理的に店舗・施設をもち、商圏が狭いところがあげられます。

彼らは、上記のプロモーションメディアの販促手段にくわえて、商圏に合ったデジタルの販促手段を模索しています。しかし、現状ではデジタルでそのような手段はほとんどありません。

例えば、Facebook、Twitterの広告手段も、地域を絞るには限界があり、広範囲での販促手段となってしまいます。そのため、地域コミュニティのネットサービスが媒体として機能することで、寡占的にその手段を提供することが可能になります。

全業種におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、COVID-19の影響によりそれが更に加速します。

プロモーションメディアも店舗のデジタル化が進み、販促手段もデジタル化していく流れができつつあります。

地域コミュニティ関連のサービスは、プロモーションメディアに代表されるような「商圏の狭い企業の広告・販促費」をターゲットとしてビジネスモデルを構築しようとするものが大半です。

地域コミュニティのネットサービスの顔ぶれ

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出典: 各社ニュースリリース等より筆者作成
* Lococom:2015年3月にサービス終了
* e街タウン:2015年11月にサービス終了
* ご近所さんを探せ:2018年9月にサービス終了
* craigslistのみ海外サービスかつ数値も海外含む

地域コミュニティのネットサービスの顔ぶれを国内を中心に紹介します。

インターネット草創期、WEB2.0、ソーシャルメディア、ソーシャルゲーム、AI、ブロックチェーンなどの流行がありましたが、時代を超えて地域コミュニティのネットサービスは存在していました。

掲示板

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インターネット草創期から現代まで、近所の人とコミュニケーションをとってみたいという人間の普遍的な欲求を満たすサービスが数多く生まれてきました。

その中でも代表的なものが、ご近所さんを探せ、まちBBSなどのオンライン掲示板のサービスです。

ご近所さんを探せはサークルなどの出会い系の要素が多少あったものの、それなりの多くのユーザーに利用されていました。

まちBBSは、2020年の現代においても、地域によっては他のプラットフォームにない新店情報や土地の再開発、ゴシップネタまで投稿されているようです。

地域情報ポータル

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(上記画像はe-まちタウン)

e-まちタウン(現光通信子会社)、Lococom(不動産ポータルLifullの運営サービス)など、地域のポータルサイトもありました。

地域のポータルサイトでは、地域の店舗・施設情報を軸にクチコミやイベント情報、ポイントなどの仕組みを提供していました。

両社とも数百万人規模の利用者数を獲得しながらも、継続利用する仕組みの構築に苦労していた模様です。

収益化に関してもある程度はうまくいっていたものの、同じ時期(2015年)にサービスを閉鎖しています。理由はいくつか推測できますが、ここで書くのは控えます。

(* 余談ですが、e-まちタウンは、いまや国内有数の規模を誇るEPARKの立ち上げも行っていました。)

不動産業者がLococomのような地域情報ポータルや地域コミュニティよりのサービスを思いつく話は枚挙にいとまがありません。

マチマチの話を不動産業者の方々にすると、必ず3人に1人は、「そういうサービスあったらいいと思っていたんだよね」と前向きなコメントをしてくれます。

かくいう私もマチマチの構想の直前まで、不動産テックに関する事業アイディアで起業準備をしていたところ、地域コミュニティの可能性に気づき、マチマチを始めたという経緯があります。

クラシファイド

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クラシファイドは、個人間の「売ります・買います」を結びつけるサービス。中古車、不動産賃貸、売買、求人、家具、友達募集までなんでもあります。

世界最大のクラシファイドのcraigslistは売上$1bnに迫る一方、従業員はいまだに数十名です。(こちらの記事を参照)
いわゆるVCから資金調達をしているスタートアップとは異なるアプローチで、この規模、生産性、参入障壁を築いているのには非常に驚きます。

シリコンバレーのVCが、craigslistの各カテゴリをアンバンドル(分解)した領域を手掛けるベンチャーに多額の出資をしました。多くの企業に攻め込まれているにもかかわらず、craigslistはいまだに多くの利用者に使われています。

地域コミュニティのネットサービスの中でも、クラシファイドのサービス各社はビジネスモデルの構築に成功しています。米国のcraigslist、他の海外の各クラシファイドサービス、日本のジモティーも創業から時間はかかりながらも先日上場しました。

mixiのコミュニティや地域SNS

全盛期のころのSNSのmixiには、コミュニティ機能がありました。いまのFacebookでいうグループ機能です。趣味や好きなミュージシャン、芸能人などの共通のテーマで会話ができました。そこには、駅や地域のコミュニティもありました。

mixiの地域別のコミュニティでは、地元の話題を交換したり、オフ会が開催されたりしていました。引っ越したばかりでmixiの地元コミュニティを覗いた経験がある方も多いかと思います。

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出典: 国内における地域SNSの事例数の推移とその背景

mixiをはじめとしたSNSが流行し、総務省や各自治体の旗振りのもとに地域ごとに数多くのSNSが生まれました。これを「地域SNS」と呼びます。

しかし、地域SNSは、運営の技術力、資金力に課題があり、そのほとんどがうまく立ち上がらずに立ち消えになったという歴史があります。

各地域SNSがうまくいかなかった一番の理由は、ネットワーク効果が得られなかったことです。

この時期の地域SNSは、各運営主体が特定の地域だけでサービスを提供していました。したがって、各地域でクローズドになっていたため、ネットワーク効果を得るまでに時間がかかるため、先に資金不足等で失敗してしまったと思われます。

上記の国内の地域SNSのサービス数のグラフをみると、最盛期には500近くあったものが、2018年1月時点で157となっています。

ちなみに、マチマチが提携している厚木市、三島市などいくつかの自治体は運営していた地域SNSを閉鎖し、マチマチに移行しました。今後も増加していく見込みです。(お問い合わせはこちら

Nextdoor - 世界最大のご近所SNS

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Nextdoorは、2011年に開始された世界最大のご近所SNSです。現在、ユーザー数は公開されていませんが、メディア等の報道によると3,000万人のアクティブな月間アクティブユーザーがいるようです。

実名による利用、登録時の本人確認を行うなど安心・安全な環境を保ちながら、ご近所さん同士で情報交換ができるサービスです。

これまでに総額$455mをBenchmark、Kleiner Perkins、Tiger Globalなどの著名な投資家から調達し、米国、欧州で事業を展開しています。時価総額は2019年10月の直近の資金調達ラウンドで時価総額は$2.1bnをつけています。

サービス開始当初は、防犯・防災などのCrime and Safetyの情報交換の用途で主に利用されていました。その後、ハリケーンなどの災害が発生するたびに成長をつづけ、次第にやりとりされる情報はベビーシッター、修理屋などのRecommendation(おすすめ)の情報交換に変わります。直近では、メルカリご近所版のような「モノの売り買い」なども増えてきています。

創業者たちから、経験豊富な経営陣に移行もしつつ、米国では収益化、米国以外のエリア拡大をすすめながら、上場を目指しているものと思われます。

余談ですが、Nextdoorは本当に素晴らしいサービスなんですよね。
ここでは詳しく書きませんが、災害時や人種差別に使われたときの対応、最近のCOVID-19(新型コロナウイルス)の対応など非常に堅実にユーザーに寄り添いながら対応しています。

同業ながら、とても好きなサービスの一つです。

最後に

本稿のまとめは、下記のとおりです。

- 地域コミュニティ関連のネットサービスはクラシファイドを除いて、サステイナブルなビジネスモデルを構築できているところは少ない
- 時間はかかるが、クラシファイド、ご近所SNSは十分なユーザー数を獲得することができれば、兆円単位の巨大市場に手が届く

地域コミュニティ関連のネットサービスについて議論をしたい、大企業や地方の中核企業等で協業を相談したい方は、ぜひ下記までお問い合わせください。

お問い合わせ先: bizdev@machimachi.com
六人部のTwitter: https://twitter.com/ikuma

参考資料

ジモティー社新規上場のための有価証券報告書
Craigslist - Wikipedia
Craigslist posts annual revenue of $1 billion
7500万ダウンロードのフリマアプリLetgo、必要なのは「信頼できるコミュニティ」ーー北米フリマアプリ出品体験全録(前編) – BRIDGE(ブリッジ)
【あのネットサービスは今】(5)地域SNSの先駆け「e-まちタウン」 衝撃の突然閉鎖、「再開」はあるのか: J-CAST ニュース
Nextdoor Platform: Connecting Neighbors - Digital Innovation and Transformation
Nextdoor | Crunchbase
Nextdoor Gets a Financing Boost From Mary Meeker’s Venture Firm - WSJ

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