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小松成美「虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡」

「本人が働くことは幸せだと思える環境を作れているかといえば、まだまだなんです」
その人は、そんな風に話していました。話の流れで障がい者雇用しているになったのです。
「ここ数年の外出もままならない状況も影響しているのかもしれませんが、毎朝顔を見ると、曇った表情をしている時があったりして。これからもずっと働き続けたい、と思えるような環境にしなければいけないと考えています」
そして、日本理化学工業株式会社の故大山会長の言葉を紹介してくれました。
「人間の究極の幸せは、愛されること、褒められること、役に立つこと、人に必要とされることの4つだと言うんですよ。愛されること以外は、働いてこそ得られるものだとおっしゃっていたそうです」

その人は暗記するくらい、いつも心にあるからなのか、それともいつでも思い出せるようにどこかに貼り付けていたのか、よどみなく話されました。私は広げていたノートに慌ててメモを取りました。
感動している場合ではないと頭では思いながらも、こんな風に思いながら障がい者雇用をしている会社があるんだ、とじんわり温かい気持ちになりました。でも同時に自分も何かしなければと背筋が伸びるような感覚も覚えました。

受話器を置いた後に、日本理化学工業研究所のサイトを検索しました。チョークの会社で、障がい者雇用にとても熱心な会社があるということはどこかで聞いたことがありました。でもその時はあまり意識していなかったのです。

トップページに障がい者雇用の取り組みについてというバナーがつけられていました。そこを開くと、元会長の言葉も紹介されていました。

「導師は人間の究極の幸せは
人に愛されること、
人にほめられること、
人の役に立つこと、
人から必要とされること
の4つと言われました。
働くことによって愛以外の3つの幸せは得られるのだ。
私はその愛までも得られると思う。(元会長 大山 泰弘)

地元でチョークアートをやっている方が「キットパス」の話をされていたのですが、ガラスに書けるということくらいしか、意識していませんでした。それも日本理化学工業のものだったと知りました。そうやって一度意識にのぼると、次々と日本理化学工業やキットパスのことが気になってくるものです。
そして、Facebookで24時間テレビで障がい者雇用の取り組みがドラマ化されることを知りました。公式Facebookをキットパスアートインストラクターをしている友人がシェアしていたのです。

そこから、原作であるこの本にたどり着きました。

誰もが最初から、障がい者雇用に取り組もうと思っていたわけではありません。特別支援学校の先生の思いがあり、「実習だけでも」というお願いを受け止めた大山会長の理解があり、一緒に働きたいと言った社員たちがいて、少しずつ少しずつ今の形になっていったのです。もちろん、いつも進んでいたわけではなく、うまくいかなかったり、反発があったり、様々なことがありました。
現社長も最初から納得していたわけではありません。むしろ、会社の経営を考えた時に、合理化すべきだと考えたりもしました。ですが、その時にはもう何年も障がい者雇用を継続していたので、誰もそれを聞き入れようとはしませんでした。

この本の中で、私が一番強く引き付けられたのは、この部分です。

日本理化学工業では、重度の知的障害者を多数雇用し、しかも50年近くも雇用を続けている。もしその人たちを20歳から60歳までの40年間、施設が受け負った場合、職員や医師の人件費まで含めた金額に換算すると、およそ1人に2億円かかっているのだそうです。しかし、わが社では15歳から働いている人もいますし、60歳の定年を超えている人は5人もいる。つまり10億円の税金を節です。節約することに貢献したと言うのです。長年の障害者雇用に対するものだけでなく、その雇用によってもたらされたであろう節税の額が評価されたのです。

2009年に、日本理化学工業株式会社は渋沢栄一賞を受賞しました。その時の理由がこういうものだったそうです。

障がい者たちが働くことで得られる幸せ、という観点だけでなく、社会的効用という側面でも、非常に効果があるものなのです。

さらに、日本理化学工業で行われているのは、合理的配慮の積み重ねだと思います。それが、これほどまでに他の人にとっても当たり前で欠かせないことになるというこどに驚きます。

まずは明日のドラマが楽しみです。

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