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村上芽・渡辺珠子「SDGs入門」

 SDGsは「風が吹けば桶屋が儲かる」なことの集まり、というのが私が以前読んだSDGsや講座を受けて考えたことだ。世の中の色んなことは繋がっていて、波及効果がある。だから、どこから取り組んだとしても、必ずみんなが今より幸せになれる未来になる、だから少しでも着手しよう、ということ。こう書いてしまうと、何やら夢いっぱいのおとぎ話のように思えてしまうけれど、ざっくりとそんなイメージを持っていた。
 どこの自治体でも、総合計画というものを作っている。それは今後10年くらいの自治体の方向性を定めるもの。けれどそこに掲載されているのは、ほとんどの部署の取り組みを並べたもので、「総花的」と言われる。もちろん予算の制約があるとか、国の法律で決まっていることは、総合計画とは関係なく行わなければいけないということはある。でもそれ以外のことは、全て、優先順位、がないことが多い。もちろんそれぞれの部署にとっては、組織目標があり、その中での優先順位はあるだろう。けれど、全体として、決めるのはなかなか難しいことなのだ。だから私はSDGsの考え方を見た時に思った。もしかしたら、波及効果があるから、ということが伝われば、最初の一歩をどこから考えるか、について、決められるのではないか、と、妄想したりした。
 以前読んだ本には、チャド湖のことが紹介されていた。20年ほど前まではとても大きな湖だった。しかし、湖の面積は気候変動などの影響で、当時の10%程度に。農業や漁業に携わっていた人は収入がなくなり、その結果、貧困と栄養の悪化が起きてしまった。さらに、仕事と希望を失った若者が都市に流れ、テロリズムや社会不安を引き起こす過激派に誘い込まれてしまうということだ。悪い方の波及効果だ。どこかで流れが変わるチャンスがあったかもしれないけれど、悪い方に流れて行ってしまった。
 この本の中には、「やること」リストも「やらないこと」リストも作れる、という言葉があった。何か事業をするときに、やるべきこと、波及効果を考えるべきこともあるけれど、その逆に、気をつけなければいけないこと、やってはいけないこと、というのもあるのだ。そこを気をつけなければ、別の観点で悪いことが起きてしまうことがある。本の中で例として挙げられているのは、風力発電は再生可能エネルギーでSDGsに貢献するけれど、バードストライク(風車の羽根に鳥が当たる)とか、羽根の製造の部品を作る下請会社の労働問題の可能性など。
 それ以外にも、この本では、SDGsに取り組むための具体的な手法が書かれている。まず目標があり、それまでの道筋を分解し、自社の事業に徐々にひきつけていく。いわゆるバックキャスティングの考え方だ。同時に、事業をしていく上で、他の目標に悪影響を与えないかを検証し、リスクについて考えていくことも大切である。これが「やらないこと」リストになる。
 つい自分の事業が目指す方向と一致するゴールに目を向けがちであるけれど、SDGsはそれだけでなくて、他のゴールのことにも目を向け、反対向きのことをしていないかということも意識しなければいけない、というのは、この本で得られたことだった。
 本の中では、10ページくらいを割いて、女性活躍について説明されている。2021年に発表された世界の男女平等度では、日本は156か国中120位だったとのことだけれど、「なでしこ銘柄」に6年連続で選定されたカルビーの取り組みや「女性の活躍なしに、カルビーの将来はない」と言ったトップの言葉などを読むと、とても勇気づけられる。2019年3月期には、女性管理職の比率が28.6%に達している。
 今の仕事は直接的には女性活躍とは関係ないけれど、一見そう思うものであってもどこかで繋がっているかもしれないと思うと、少しわくわくする。これは私だけではなくて、誰しもなんとなく気になっている社会課題というものがあるだろうけれど、自分の仕事をどう結びつけるか、ということから始めてみると、みんな興味を持ってもらえるのではないかと思った。

※チャド湖の話は手元に以前読んだ本がなかったので、下記サイトを参照しました。
https://sdgsmagazine.jp/2020/07/30/359/

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