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古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち」

40過ぎたら、周りの人の半数以上が自分より年下になるとイメージしていた。でも実際はそうじゃない。職場でさえ、定年後に再就職するシステムができて、65歳まで勤めている人がいる。きっちり分析したことはないけれど、おそらく、43歳になった今ようやく、年齢順に並べた時に真ん中よりちょっと前の方になった、くらいなんじゃないか。
とはいえ、これからどんな社会になっていくのか、ということを考える時には、若い世代はどう考えるのか、ということを意識しなければいけない。私はそう思う。だから、若い人に教えてあげようなんていう気にはあまりなれない。むしろ、若い人がどう考えるか、についてとても興味がある。

私より6歳くらい年下の後輩に勧められ、この本を読んだ。読んだら、若者が何を考えているのか、分かるようになるのか、という幻想をちょっと持ってしまったけれど、実はそうではない。むしろ、この本を素直に受け取ることができたとしたら、二度と「近頃の若者は」なんて言葉を口にできなくなるだろう。若者論は大人の自分探しみたいなもので、「加齢効果(自分が年をとって世の中に追いついていけなくなったこと)」を「世代効果(世代の変化や時代の変化)」と勘違いすることだ、と言われてしまうからだ。

とはいえ、各種統計調査を見ると、若い世代の特徴らしきものは見えてくる。内向きと言われるけれど、実は半数以上が社会志向で、その数値は70歳以上よりもわずかだが高い。また社会のために役立ちたい若者も、1983年が32%だったのに対し、2011年には59.4%となっている。
また現在の生活に満足しているかという問いには、2010年には20代男性の65.9%。20代女性の75.2%が満足していると答えているが、一方で、不安があると答えている20代が、63.1%もいる。大澤真幸氏はこれを「今日よりも明日がよくならない」と思うから、「今が幸せ」と考えるのではないか、と分析している。

因みに、この本は約10年前に書かれているので、最新の2019年のデータを見てみた。社会志向については、20代男女ともに半数を切っており、男性は40.4%、女性は45.2%である。ただし、70歳以上も半数を切っており、47.2%である。社会のために役立ちたい20代は、59.4%となっている。20代男性の84.5%、20代女性の84.5%が満足していると答えており、約10年前よりもさらに満足している割合が高くなっている。不安に関しては、51.4%という結果になっている。この辺りの違いは、就職内定率が2011年に底をついてからぐっと上昇していることなども影響しているのではないか。

実は古市氏の本は初めて読んだのだけれど、統計調査や数多くの文献を引用して科学的な分析を試みている一方で、髄所に情緒的というか、人間味のある言葉が混じっていて、とても親しみを感じた。例えばこんな感じ。

「承認欲求を最もシンプルに満たすためには、恋人がいればいい。全人格的な承認を与えてくれる恋愛はその人の抱えるほとんどの問題を少なくとも一時的には解決してしまう。だってたった一人から愛されるだけで誰もが『かけがえのない存在』になることができるのだ」

一時的には、というところが、リアリティがある。そしてこの感覚は、多分、恋愛というものが社会的に認められる時代になってからは誰もが感じることだろう。そうやって考えていくと、世代が違うから分からないとか思わずに、丁寧に話を聞き、データを集めていけば、若い世代が何を求めているかも見えてくるのかもしれない。理解するためには、その努力をしなければならない。

参考:社会意識に関する世論調査、国民生活に関する世論調査


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