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西口一希「実践 顧客起点のマーケティング」

とりあえず今、シティプロモーションという部署にいて、ウェブページの全体的な管理やSNSの発信、組織全体のプロモーションの推進に取り組んでいるわけなのですが、その部署にいるにも関わらず、プロモーションという言葉について、なんとなく分かっているようできちんと説明できないような、曖昧な感じがありました。もちろん市の方針はあるわけなのですけれど、それが自分の頭と心にしっくり来ていなかったというか。
異動してすぐ読んだ河井孝仁氏の「シティプロモーションがまちを変える」のという「シティプロモーションは、地域(まち)に真剣(マジ)になる人が育つしくみ」という考え方を自分が仕事を進めていく中での土台としていますが、では具体的にどんな風に目指していけばいいのか、分からない部分もありました。
もともと他の部署にいたときから、参加者を募る、とかはどちらかといえば好きな分野で、募集を工夫するのはもちろん、仕組みそのものも工夫したり、営業をかけたり、ということをしていました。ものすごく昔の話なのですが、最初に配属された職員研修部門でのこと。担当していた通信教育について、部署によっては春から夏にかけて忙しいので、開始時期を選べるようにしたり、過去に申込者数の多かったメニューは期間が短いものと長めのものを入れたり、一人一台パソコンが導入され始めたのでそういう分野を増やしたり、募集も少しでも興味を持ってもらえるようにしたり、といったことを試してみました。さらに、もともと時間外にやる前提であったことから、育休中でも受講できるようにして、育休中の方にも声をかけました。1年目は60人程度、2年目は80人程度、3年目は100人超えたこと、そして育休中の職員からお礼の手紙をもらえたのがとても嬉しかったです。
なんとなくこういうのがプロモーションの一つだと理解していました。アレンジしたことのほとんどは、通信教育の仕組みに近いことが多く、募集そのものに関して変えたことはそれほど多くなかったので、募集だけを頑張ることは万能ではないということは思っていました。そして、そこで必要になってくるのがマーケティングで、プロモーションの中にマーケティングも含まれると思っていました。通信教育でも、受講状況を見たり、アンケートを実施したりしたわけで、それはマーケティングの範疇になると思います。
ところが、この4月から、マーケティング室という部署ができて、どんな風にすみわけをしていうのだろうか、と気になっていました。このマーケティング室は、もともとあった統計調査室が名前を変え、体制が強化されたという形でもあるので、プロモーションはナラティブなマーケティング、マーケティング室は数字的なエビデンスの方を扱うというイメージを持っていました。
ところが先日、マーケテイング室の職員とそれぞれが今進めようとしていることを共有した際に、この本を示されて、「カスタマージャーニー」という手法を用いながらやっていきたいという話がありました。ちょっとますますすみわけが難しくなったなと思いつつ、ひとまず読んでみることにしました。
前半のロジカルの話は少々読みにくかったものの、事例を踏まえた部分になると読みやすく、ロジカルな部分の理解が進みました。データだけに頼ろうとしたり、ペルソナを設定して仮説を立てるという手法では足りない、一人の顧客について徹底的に話を聞き、なぜ顧客になったのか、そのきっかけを探ることが大切であり、そこからアイデアが生まれ、それを検証するためにテストを行うということでした。一人の顧客といっても、実際には、ロイヤリティによってセグメントに分け、それぞれの中から話を聞くのが理想的ということになります。具体例は西口氏が実際に体験したことも含まれ、説得力がありました。
もやもやとしていた、プロモーション(=コミュニケーションアイデア)の前に、そもそもの商品はどうなんだろう、というところについて、潔く書かれていた部分があったので、引用してみます。

すべてのビジネスは、商品やサービス=「プロダクトアイデア」の独自化を突き詰めなければなりません。商品開発自体をマーケティング責務として取り込んで、「プロダクトアイデア」の開発時点から圧倒的な独自性と便益との連動を作り、「コミュニケーションアイデア」の開発も同時に行うべきです。「コミュニケーションアイデア」を並行して考えることで、「プロダクトアイデア」自体に、世に問うべき独自性があるのか、明確な便益が本当にあるのかを問い直すことが可能になります。独自性の弱い「プロダクトアイデア」をそのままに、「コミュニケーションアイデア」にすべての責任を負わせる、旧型のコミュニケーション偏重マーケティングは避けるべきです。

であるからこそ、取材やプロモーションの過程で得られた物語はそれを必要とする人(そこから生まれるアイデアを必要とする人)に共有すべきであり、生の声を聞く機会もやみくもに増やそうとするのではなく、目的を持ってやらなければいけないと思いました。
また次のような言葉も印象的でした。

マーケターとして、社内外の多くの方と協力して市場に投入した商品やサービスを失敗だったと結論づけるのは、当たり前ですが身を切られる思いがします。できることは、その経験から可能な限り多くを学び、次に活かすことしかありません。

批判の対象となりやすい行政の中に身を置きつつ、日々、考えて仕事をしているつもりではありますが、このような言葉を読むと、身が引き締まる思いがします。西口氏は、次に活かすだけでなく、経験から得た知見をこうした本の形にして、共有してくれたのだなと思います。

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