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即時抗告棄却文の「重箱の隅をしつこくつつく」和歌山毒物カレー事件(7)

 平成29年(く)第121号、「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」これは即時抗告に対しての棄却理由が書かれた文章である。

①上記カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜砒酸が、請求人の自宅等から発見されていること、
②請求人の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており、その付着状況から請求人が亜砒酸を取り扱っていたと推認できること、
③上記夏祭り当日、請求人のみが上記カレーの入った亜砒酸をひそかに混入する機会を有しており、その際、請求人が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されていること

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 和歌山毒物カレー混入殺人事件はこの大きく3点を証拠とし、林真須美死刑囚の犯行であるとしている。
 林真須美死刑囚はこれを不服として即時抗告、弁護側はヒ素の鑑定などに対して不十分さを指摘し、罪状の再検討を申し立てた。
 はて、この3点は十分にファクトチェックが行われた「真の事実」なのだろうか。この3点について述べられている内容を見ていく。そして、さらに上記の文章には続きがある

 〜などを総合することによって、合理的な疑いを挟む余地のない程度に証明されていると認められる。(なお、カレー毒物混入事件の犯行動機が解明されていないことは、請求人が同事件の犯人であるとの認定を左右するものではない。)

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 和歌山毒物カレー混入殺人事件は「動機なき犯行」とも呼ばれている。裁判の中では自分の用事を優先してカレーの調理に参加しなかった林死刑囚についての話を、他の主婦が陰口を言っていたのをガレージ前で聞いて激昂した、ということに建前はなっている。
 他の主婦の悪口を聞いて、腹が立って無差別テロを感情のままに行ったって、普段から恐ろしいほどの嫌がらせでも受けていたのだろうか?
 動機が解明されなかったものだから、この事件には「状況証拠はあるんだから、動機は必要ないでしょ?」という表現が随所に出てくる。
 怨恨で個人を殺害したのが色々な人の話からすぐにわかるのであれば動機の解明は不要かもしれないが、しかしこれは「毒物を使用した無差別殺人」だ。この事件は、無差別殺傷事件で、テロ行為に近い。
 テロリズムの実践者は思想を持っている。暴力による革命を志す政治思想を持つ赤軍派や、破滅的な宗教思想を持つオウム真理教のように思想を体現するためにテロ行為は行われる。
 最近では無差別巻き込み事件と呼ばれる者も出現した。秋葉原通り魔事件や京都アニメーション放火殺人事件のように、特定の個人を狙わず死刑を狙って社会全体に対してテロ行為を行う新しい形態のものもある。
 その他にもグリコ・森永事件などの劇場型犯罪や、毒物を使ったテロ行為は青酸コーラ無差別殺人事件やパラコート連続毒殺事件のように毒物を混入させ社会不安を誘うことが快感であるかのような犯行が多い。そのどれも当てはまらない。
 テロ行為に関してはその動機の解明が不可欠だと思うが、このカレー事件に関しては「状況証拠が揃ってるので、動機の解明は必要としない」と明言してしまっている。
 毒物を使った「保険金詐欺」と毒物を使った「無差別テロ」は明らかにその犯行の質が違う。この文章の中では動機についてほとんど触れられることはないのだが、いくつかそれに触れる部分がある。

 砒素は、発覚しない形で生命を奪える手段として位置づけられていたといえること

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

ん?
 林死刑囚は「ヒ素で無差別殺人を行ってもその証拠は残らない」と思っていることになっており、検察の不思議妄想が全開だ。さらにこのような文章もあった。

 人に対して亜砒酸を使用することに対する抵抗感が請求人の中で希薄になっていたと推認されること

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 爆笑してしまったのだが、この表現では「ムカついたらついついヒ素使っちゃう」ということになるのだが、ついついヒ素使っちゃうテロリストってアメコミのヴィランとして登場しそうなレベルだ。
 動機の解明を必要としなかったと何とも格好良く言っているが、検察側の妄想ストーリーを突き進むと意味のわからないヴィランが出来てしまうため、それ以上の脚本の執筆をやめたのだろう。「動機の解明の必要はない」のではなく「キャラクターの設定に難渋」したのだろう。少なくとも林死刑囚にとっては、「動機を語りたくない」のか「動機がない」のだ。

Ⅰ.まず、亜砒酸が自宅から見つかったことについて
 この文章の中ではさまざまな角度からヒ素について科学的検証を行い、御SPring-8様が何度も御登場あそばされる。
 私は化学的な検証結果に対しては素人である。アンチモンやビスマスやらスペクトラムやら吸光法などと言われても解説できるほど賢くない。その上、この棄却文章では申し訳ないが私の頭が悪いため何を言っているのかさっぱりわからない。
 私なりに調べた結果、基礎的なことしか言えないが、砒素は鉱物(重金属)であり、形成されるまでにさまざまな他の鉱物も含まれる。
 事件に使われた砒素は中国で数億年前に鉱床が形成されたものであり、他の鉱物も混ざるのだ。この他の鉱物がどれだけ含まれるかを測定することによって、原材料や違いがわかる。カレー事件ではこれを検査することで幾つかの容器の亜砒酸が同じかどうかを区別しているのだ。
 しかし、その分析についてはそもそもの定義が怪しい。

①上記カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜砒酸が、請求人の自宅等から発見されていること

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 まず、断っておきたいのが、このカレー事件では以下の砒素たちに焦点を当てている。
①緑色ドラム缶(兄宅)
②ミルク缶(兄宅)
③せんべい缶(重記載缶)(兄宅)
④円柱状の茶色プラスチック製容器(H1タッパー)(兄宅)
⑤ミルク缶(J1ミルク缶)(以前に住んでいた家のガレージの棚の上にあった)
⑥プラスチック製小物入れ(請求人のキッチンシンクの中にあった)
⑦青色紙コップ(祭り会場のゴミ袋の中にあった)
⑩カレー

「和歌山カレー事件の鑑定ミスはなぜ起きたか」videonewscomより

 ここでこれらの砒素に対して異同識別をするために吸光法やSPring-8を使用した。異同識別とは簡単に言うと「AとBは同じものか、違うものか」を識別することだ。
 まず前提がとても重要だ。検察庁が東京理科大学教授である中井氏に依頼した内容は「⑩カレー、⑦青色紙コップ、⑥プラスチック製小物入れ、①緑色ドラム缶の亜砒酸が同一の起源かどうかを識別すること」である。

 あれ?

 すなわち、「⑦青色紙コップと⑥プラスチック製小物入れの砒素が同一かどうか」ではない。もっと言うと、「同一の起源か」というだけで、「同じものか」ではない。
 もし、⑦青色紙コップと⑥プラスチック製小物入れの亜砒酸が「同じ」であれば決定的な証拠となっただろう。

 さらにこの、「組成上の特徴を同じくする」というものはかなりの曲者だ。何度も言うが「同じ」ものではなく、「特徴が同じ」なことがわかっただけだ。
 これらは「原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似していることから、製造段階において同一である、すなわち同一工場で、同一原料鉱石を用いて、同一工程で、同一機会に製造されたと言える」とし、「バリウム」も共通して含有していることから、「異同識別3鑑定の分析結果からは、東カレー鍋中の亜砒酸が嫌疑亜砒酸と製造段階において同一であることを推認させる複数の事情が認められる」とある。「推認させる複数の事情」ってこれ、「色々よく似てるからまあほぼ多分同じ」ぐらいにしか私には読めない。
 さらには「亜砒酸が貴重なものであることに加え、上記の亜砒酸のどれかが青色紙コップを介して東カレー鍋に混入された蓋然性が高く、他の特徴を持つ亜砒酸がカレー鍋に混入されることは難しい」すなわち、①〜⑦の中からのどれかがコップを介しカレーに入った、と言いたいらしい。
 ちなみに、「蓋然性」とは難しく表現しているが、「必然性」が「100%の確率で起こることと」すれば、蓋然性は「多分」「おそらく」「いつもそうとは限らないが」という意味である。まあだいたい起こる、という何とも忍びない表現なのだ。
 さて、本当に亜砒酸は当時貴重だったのだろうか?

1983年頃大阪の貿易商社T社が中国から同時に輸入した60缶のうちの1缶だったことが荷印(日本の倉庫業者が保管物の特定のため貼った紙片)からわかっている。

「鑑定不正 カレーヒ素事件」河合潤著 日本評論社 2021年

 60缶も出回っているのにも関わらずそこがどう希少なのか逆に説明していただきたい。少なくとも3トンの同一起源の亜砒素がどこかにある。
 その他の59缶は全て他県にあるのなら和歌山に1缶しかないドラム缶は希少ではあるかもしれないが、どうもそうでもない。

 本件緑色ドラム缶Aは、事件発生の約15年前である1983年頃に購入された古いもので、その頃T社が輸入した亜砒酸はその大半がガラス加工業社等へ納入されている。

2015年1月30日に和歌山地裁に提出された検察官意見書より

 公判での証言では同じ製造業者の亜砒酸は、和歌山市内で多い月には1トン(50kg入りドラム缶で20缶)が販売されていた。 
 要するに、これら60缶の亜砒酸も、SPring-8にかければ紙コップの亜砒酸と起源が同一となるわけだ。これでは、②〜⑤をいくらSPring-8にかけても意味がない、①が起源なのはこの周辺では当たり前だし、他60缶とも同じだ。この60缶は本当に近隣には存在しなかったのだろうか。
 さらに、これらの亜砒酸は濃度が違う。
薬品などであれば経年劣化により濃度が低下することが考えられるが、これは重金属のためそれ自体が劣化することは考えられない。濃度が低いものは何かに混ぜられていたためと考えた方がよさそうだ。
 しかし、この青色紙コップの亜砒酸は掬われたとされるプラスチック容器より濃度が上昇している。青色紙コップに移ると3倍以上の濃度に回復する。

「和歌山カレー事件の鑑定ミスはなぜ起きたか」videonewscomより

 プラスチック容器の砒素を科学的に処理したのだろうか。
 元々ヒ素は殺鼠剤として明治時代から使われていた。毒性が強いため少量で殺鼠できたからだ。しかし人体への影響が強すぎるため徐々に使われなくなる。
 兄はシロアリ駆除として砒素を譲り受けていた。シロアリ駆除では砒素と何かを混ぜて「毒えさ」を作るのだそうだ。巣を壊滅させるために餌として運ばせるからだ。実際にその手法についても記載がある

 シロアリ駆除の際、亜砒酸にメリケン粉やセメントを混ぜて撒くのは、それによって砒素(亜砒酸)をシロアリに付着させて巣に持ち帰らせてシロアリを駆除するためであるから〜(中略)その砒素(亜砒酸)に、メリケン粉やセメントの粉を砒素(亜砒酸)とメリケン粉等の割合が1対1くらいになるように混入した上〜

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 「白アリ薬剤」と書かれたプラスチック容器は濃度が薄くても当たり前のことだ。これではむしろ捏造の可能性を濃くさせる事実だ。これではシロアリ駆除業者の兄の家からガレージや林死刑囚宅に持ち込んだ可能性すら疑われる。
 彼らの脚本は最初から雲行きが怪しくなってきた。

Ⅱ.林真須美死刑囚は本当にヒ素を「取り扱って」いたのか

②請求人の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており、その付着状況から請求人が亜砒酸等を取り扱っていたと推認できること

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 頭髪に砒素が付着していたので砒素を取り扱っていた、という何とも短絡的な理由だ。そしてそれを補強するかのように、他の砒素は近隣には存在せず、砒素を所持していたものたちはカレーへの接点がなかった、と主張している。

 平成10年7月25日当日は当時の請求人周辺に来ておらず、A1(夫)は東カレー鍋に混入された蓋然性の高い亜砒酸と接点を持つ者が見当たらなかったこと

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 さらに、自宅周辺からもヒ素が検出されている。

④当時の請求人方の台所の排水溝内の汚泥及び台所の排水が流れる会所の汚泥から近隣周辺と比べて顕著に高濃度の砒素が検出されていて、台所流しから砒素が流されたことが推認されること、また、当時の請求人方の麻雀部屋のほこりからも亜砒酸が検出され

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 この検出された砒素の濃度に関しては裁判資料を調べないとわからない。
 しかしbroadcreation氏の情報では、
「旦那の林健治さんが過去の保険金詐欺がバレないために証拠隠滅として、砒素を処分してしまったらしい。自宅裏の用水路に家中の砒素を排水に流しており、翌日に魚が溝川に浮かんでいたと報道されている」
 ということだ。この報道記事を見つけることはできていない。だが、ヒ素を捨ててしまったことは素直に認めている上に、捨てたのは林死刑囚ではない。人は自分が不利になる嘘はつかない。この証言は真実である可能性が高い。林死刑囚と砒素の接点がどんどん薄くなっていく。
 そして毛髪鑑定だ。

 さらに、毛髪鑑定によれば、請求人の毛髪から通常では付着するはずのない無機の3価砒素の外部付着が認められ、請求人が亜砒酸に接触していた蓋然性が高いこと

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 毛髪については過去の記事で考察しているためそちらを参照していただければ嬉しい。

 何にしても彼女はヒ素を日常的に取り扱っていたとはとても思えない。彼女がプラスチック容器から砒素濃度を高め、イライラしたら砒素を使うほどのテロリストなら、ヒ素は被った後のように毛髪の至る所にくっついてそうなものだが。

Ⅲ.ウロウロする熊のようなもの見たことについて

③上記夏祭り当日、請求人のみが上記カレーの入った鍋に亜砒酸をひそかに混入する機会を有しており、その際、請求人が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されている

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 事件のタイムテーブルなどに関しては前の記事を参照していただきたい。ここで強調したいのは「請求人(林死刑囚)のみ」というところだ。
 当初の新聞記事ではカレー鍋全てに青酸が投入され、投入が疑われた時間帯はおそらく17:00〜18:00頃だったのではないかと発表されていた。

 青色紙コップは祭り会場のゴミ袋の中から見つかっており、紙コップからは指紋も採取されていない。紙コップと容疑者を結びつけたのはSPring-8だけだ。
 そのため、カレー鍋への接触状況だけが容疑者へ繋がる情報となった。カレー鍋周辺のタイムテーブルの作成方法は以下のように行われている。

・住民たちを警察学校や事件現場に一堂に集め、捜査員立ち会いの下、事件当日の様子を克明に再現させていた。
・住民たちからそれぞれ10回、20回と調書を録っていく中では、住民ら5人をまとめて警察に呼び、5人一緒で取り調べるような日もあった。
・住民たちに法廷で証言させる前に一様に長時間、かつ頻繁な証人テスト(ある住民の場合、5日連続)を受けさせたのみならず、その場で調書を読ませたり、読んで聞かせ、一年以上前の事件当日の記憶を喚起させていた。

「冤罪ファイル」No.06 2009年

 それらの供述内容から、林真須美死刑囚が最も怪しい人物として浮かび上がってきた、ということらしい。なんだか、小学校で給食費が無くなった時のようなことをしているのだが、集団でそのようなことを行うとリスキーシフトが起こりがちだ。
 発言力の強い人間や、影響力のある人間の証言に強く引っ張られてしまう可能性が高い。犯人が集団の中にいればいくらでも有利に扇動できる。

②関係住民らの供述によれば、亜砒酸は、請求人がカレー鍋等の見張りをしていた平成10年7月25日午後零時20分頃から午後1時頃までの間に、東カレー鍋に混入された蓋然性が極めて高いこと
③S1らの目撃供述によれば、請求人が見張り番をしていた前期午後零時20分頃から午後1時頃までの間には、請求人1人が見張り番をしていた時間帯があり、その時間帯に請求人が東カレー鍋に亜砒酸を混入することが十分に可能であること、また、請求人が1人で見張り番をしていた際にしきりに道路の方を気にしながら西側のカレー鍋(以下西カレー鍋という。)の蓋を開けるなどの不自然な言動をしていたこと

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 是非、公判記録の供述内容を見てみたい次第だ。しかし、何度も言っているが、0時20分から1時までの間に砒素を混入したのなら、その後の次女を含む人たちの味見はもう博打だ。誰かの味見により祭り会場に運ばれる前に中毒者が発生し、その後の犯行が止められる可能性もある。
 自分の子供も死ぬかもしれないことを果たしてその場の激情だけに駆られてやるだろうか?それならもうやぶれかぶれの行動だ。

 そして、最重要の証言とされる女子高生の目撃証言である。女子高生はガレージの斜め向かいの家に住んでいた。この女子高生は自宅2階の両親の寝室のベッドの上にうつぶせの状態で、窓越しにガレージにいた林死刑囚を目撃したということである。以下のような証言をしている。

「ガレージで一人でカレーの見張りをしていた被告人が熊みたいに行ったり来たりし、しきりに道路のほうを気にしながら、カレーの鍋のフタをあけた。そして被告人は鍋の中をのぞき込んだが、鍋から上がった湯気をかぶってのけぞり、首にかけていたタオルで顔をふいて、熱かったみたいな感じでまた鍋のほうを見た。タオルで顔をふいたり、口のほうをタオルで押さえて、また鍋をのぞいていた」(一審の判決文の中にまとめられたA子さんの証言から抜粋・要約)

「冤罪ファイル」No.06 2009年

 まず、女子高生が昼間に両親の寝室に入りベッドの上に寝転んでいることがかなり不思議に思える。いったい何をしてたのだろうか。なお、この女子高生の証言は最初は「1階で見た」と言うことになっていたが、なぜか2階に移動している。
 そしてこのガレージでは、2つの鍋を並べてカレーが作られていた。上記証言で目撃された蓋を開けたカレー鍋は、2つのカレー鍋のうち、砒素が混入されていなかった方の鍋である。なぜこれが重要目撃情報とされるのか理解に苦しむ。完成したカレーを覗いたのではないかとしか思えないのだが。
 さらに目撃した人物の服装について、白いTシャツを着ており、首からタオルを掛けていたと証言している。しかし、林死刑囚はその時は黒のTシャツを着ていて首からタオルも掛けていなかったと証言している。
 この証言は、一審での公判期日外に行われる証人尋問での次女の証言と一致している。次女を林死刑囚だと見間違えているのだ。

もはやスナイパーの姿勢である

 さらに窓とガレージの位置関係からも目の前に植木があり、実はさっぱり見えなかったのではないかという考察もある。

 何にしても見えたとしても西カレー鍋の限局した周りの様子が少しわかるだけで、しかもそちらには何も投入されていない。もう何の話かわからない。ウロウロしてるのをただ怪しんでるだけだ。

digTVより

 なお、向かいの家の2階からガレージまでは約16mほど離れているらしい。しかもガレージのアクリル板を通し、窓はカーテン越しに見たというのだ。普通に考えてもそんなに遠くでは誰だかもわからないだろう。

「冤罪と死刑 冤罪事件から日本の死刑制度賛否について考える」サイトより

 上写真では白いシャツを着ている、というぐらいしか視認できない。何か怪しい動きをしているというだけで死刑にされてしまったのではたまらない。

やっぱり見えない

 この証言は捏造である可能性がかなり高い。この現実味のない視界は狭山事件の万年筆を彷彿とさせる。さらにこう続く。

 検証に従事した警察官らが視認し得ることを確認している等として(中略)同人がF1(次女のこと)を請求人と見間違えた蓋然性が高いとも言えないとした。

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 もう開いた口が塞がらない。
 一応、「事後情報効果」について述べる。これは何らかの出来事を目撃した後に、「その出来事に関連した情報に触れると、事後に接触した情報とオリジナルの記憶が混同した内容を報告することがある」というものだ。女子高生の証言は事後情報効果というよりは、捏造で脚色された可能性が高いように思う。

 次に、目撃しながらも裁判で証言しなかったという少年が存在する。内容はかなり検察側に有利な証言だが、実際には証言していない。
 一時報道が加熱したときに週刊誌で取り上げられ、その後この少年が消えたように見えたのか少年に関する陰謀説がなぜか始まったのだが、私は陰謀説の内容は興味がない。
 供述調書によれば少年はこう話している。(長文です)

「僕は、お母さん、妹、おじいちゃん、おばあちゃんと5人で暮らしています。僕が園部の飲食店で働いていたころの今年7月25日の夕方、近くの空き地で夏祭りがあり、そこで出されたカレーを食べた人が死んだりする事件が起こりました。僕は、その日の昼頃、カレーの調理場所にひとりのすごく太ったおばさんが紙コップを手に持って入って行くのを見ました。顔を知っているおばさんでした。先に電話でお好み焼きを注文しておいて、焼き上がった頃に取りに来ることもあり、その際に「林」と名乗っていたので、おばさんの名前が林であることも知っていました。昼の12時から午後9時までが営業時間で、店の経営者を僕は「マスター」と呼んでいましたので、そのように言って話します。7月25日に夏祭りがあるという事は前の日マスターから聞いて知ってました。僕は、もともと祭りが好きで自宅の近所の祭りにもよく行ってました。祭りの時には夜遅くまで夜店が出たりして、遊べるので好きなのです。それで、僕はもし仕事が暇であれば、その祭りに行ってみたいと思いました。マスターから店の鍋でカレーを作ると聞いてカレーを作っている所を見てみたいと思いました。それは祭りと言えば、すごく沢山の人が来ると思いますし、どのくらいの量のカレーを作るのか興味が湧いたからです。店の寸胴(ずんどう)鍋だったら、二個で100人分くらいのカレーができるんだろうか?もっとだろうか?などと思いました。僕がまだ準備をしている途中で、マスターが着替えをするために自宅に戻っていきました。マスターはいつも開店準備が出来ると、開店前の午前11時50分頃に、すぐ近くの自宅に着替えなどをしに帰ります。開店後の午後0時15分~20分頃の店に戻ってきており、この日も同じくらいの時間に自宅に行ったと思います。店を出ていく際にマスターは僕に「今頃カレーを作ってるのと違うか?見てきたら?」と声をかけてくれました。僕はもともと言われなくても、カレーを作っている所を見に行くつもりだったのですが、ますます見に行きたくなりました。僕は店の準備が終わると、すぐに店を出ました。店ではお客さんが早くから待っている場合には午後0時前であっても5分くらいなら早めに店を開ける事もありますが、反対にお客さんが来ていないからといって、午後0時より遅く店を開けるという事はありません。ですから、僕が店を出たのは午後0時より前に間違いありません。僕は店のをドアを開けた時に若い感じの男女のカップルが開店を待つようにして立っていた事を覚えています。それから僕は自動販売機に向かって歩いて行きました。歩き方は、特に速くも遅くもない普通の速さの速さの歩き方だったと思います。そして、自動販売機から缶ジュース1本を買いました。僕は歩いて「月極駐車場」と書かれた看板の前あたりで立ち止まりました。この場所で立ち止まったのは、あまり近くまで行くとガレージの中の人に「何をしに来たのか?」と変に思われるのではないかと思った事と、その位置からでもガレージの中の様子は見えたからでした。最初に目についたのは大きな寸胴鍋であり、僕はあれが店の寸胴鍋だと思いました。僕は店の寸胴鍋でカレーを作っている所を見に来たので、まず鍋が目についたのだと思います。寸胴鍋は左右に2個並んでおり、見た感じでは右の方の鍋が左の鍋がよりも、僕の方から見て少し手前にあるように見えましたが、離れた所から見ていましたから、奥行きの感じについてはズレているかも知れません。その他に僕がガレージ内にあった物として覚えているのは、古いバケツがガレージの右手前のあたりにあった事を覚えており、その少し奥に椅子が1つあったように思うのですが、どんな色の椅子だったのかは、あまり記憶がはっきりしません。この時には鍋の周りに人が取り囲んでいる様子もなく、鍋でカレーを作っている最中という感じではなかった事を覚えています。ガレージの中には、おばさんらしい人の姿が見えました。僕が一番良く覚えているのは、髪の長さが肩に掛かるくらいのセミロング、身長は高くもなく160センチメートルくらいで、体型は痩せていました。顔は、おばさんにしては可愛い感じでエプロンをしていた一人のおばさんでした。このおばさんはガレージの手前の右側あたりに、僕から見て左。つまり東を向いて立ってました。本当は早く店に戻らないといけないのですが、店に戻れば後はずっと忙しく働かねばならず、この日は寝不足でしんどかったので、もう少しここで休憩してからマスターが戻ってくるより前に店に戻ればいいと思い、もうしばらく、その場にいることにしたのです。僕は、しゃがんだ格好で地面の方を向きました。それから僕はウトウトしてしまいました。この時にウトウトしていた時間の長さについても分かりません。それから、僕の後ろの方から小さい女の子のやかましい声が聞こえてきたので、ハッと目を覚ましました。そして、僕が首を回してみると何人かの幼稚園か小学校低学年くらいの年の男の子や女の子が走り回っていました。それから僕はガレージに目をやると、まだ先ほどの可愛い感じのおばさんがいたように思います。僕がガレージの方に目をやってすぐの頃に前の道から一人の太ったおばさんがやってくるのが目に入りました。ガレージから道を挟んだ向かい側には電柱が立っているのですが、その電柱と向かいの家の壁との間の隙間に何か動く物が見えたので、「何だろう?」と思ってよく見ると…?電柱の影からガレージの前に出てきたのが一人のすごく太ったおばさんだったのです。僕は、すぐにそれが何度かお店(まるふく)にお客さんとして来ていた林真須美さんである事が分かったのでした。林真須美さんは普通に歩くくらいの速さで歩いていました。僕は林真須美さんが僕に見える側の「手」つまり、右手に何か物を持っているのに気づき、それで僕は「何だろう?」と思ってよく見るとそれはピンク色のコップの形をした物である事が分かりました。ピンクの色は遠くから見て白ではなく、ピンク色だと一応分かるほどの色でしたが、パッと目につくほどには濃くない程度の濃さのピンク色でした。透明のコップの中にピンク色の液体が入っているというのではなく、コップ自体に色がついているのだという事は見て分かりました。僕は林真須美さんが右手に持っているのがピンク色をした紙コップだと思いました。そして、僕が気になったのは、その紙コップの上のフチの所が随分と高さがあるように見えた事でした。フチの所がごっつい紙コップやなぁ~変な紙コップやなぁと思ってもっと良く、その紙コップをじっと見ました。林真須美さんは紙コップを持った手を前後に振らず、下にだらぁ~っと下げた状態で持っていたので、よく紙コップを観察する事が出来ました。よく見ると、その紙コップのフチが二重か三重になっているのが見え僕は紙コップが2個か3個くらい重ねられているのだという事が分かりました。そして、林真須美さんは、その重ねた紙コップを上から人差し指以外の四本の指で掴み上げるように持ち人差し指はフチの上に軽く添えたような感じで持っているのが見えました。僕からは、その紙コップの中までは見えず、何が入っているのかどうかは分かりませんでした。林真須美さんは、そのような状態で紙コップを右手に持ったままガレージの中へ歩いて入って行きました。林真須美さんがガレージの中に入ろうとする頃、林真須美さんが歩いてきたのと同じ東の方から幼稚園か小学校に入ったくらいの年に見える男の子が一人とその後ろから同じ年に見える女の子一人がちょっと走ったり、ちょっと歩いたりしながらやって来て、そのままガレージの前を通り過ぎて西の方へ向かって行きました。僕は、この男の子と女の子が林真須美さんと同じ方向からやってきたので、林真須美さんと一緒に来たのかなぁ?と思いましたが、この二人が林真須美さんと言葉を交わすのは見ていません。林真須美さんの服装は、色まではよく注意して見ておらず覚えていませんが、上がTシャツで、下がズボンであったと思います。また林真須美さんがガレージに入って行く後ろ姿を見ると、服の襟が高くなっていてTシャツの襟の高さの訳はなくてタオルを首に巻いているのだと見えました。またタオルの端が首から胸のあたりに垂れていたという様子はありませんでした。つまり、タオルの端をTシャツの首の中に入れていたという様子が見えました。タオルの色までは覚えていませんが、パッと目につくような派手な色ではありませんでした。林真須美さんはガレージ内に入ると奥に向かって歩きながら紙コップを持っていた右手を身体の前に交差させるようにしましたので、僕からは紙コップが見えなくなりました。そして、その直後に林真須美さんが元の位置に戻した右手には紙コップが無くなっており林真須美さんは確か…この時に紙コップを左手に持ち替えたと記憶しています。林真須美さんがガレージ内に入った時ガレージ内に他に人がいて何か話しかけてたように思いますがどこにどんな人が何人いたか等は、よく見ておらず、分かりませんし、話の内容も僕の所までは聞こえませんでした。僕は目が良く僕の視力は、つい最近測った所「右が1.5・左が0.9」であり、色盲の検査などもしましたが、異常ありませんでした。検証の際にも林真須美さん役の刑事さんが紙コップを何個か重ねて持ちましたが、僕の位置から、その紙コップはフチが重なっている事がよく見えました。僕は長く居すぎてしまった。そろそろ店に戻らなければと思い、その場を立って店に戻ったのです。僕が見ている間、林真須美さんが僕の方を見たことは無かったので、林真須美さんは僕がその場にいたことに気づいていないと思います。店に戻った正確な時刻は分かりません。ただ、マスターがまだ戻ってきておらず、僕は良かったと思って何事もなかったような顔をして仕事に行った事を覚えています。また僕が店を出る時にいたカップルのお客さんの前に既にお好み焼きが出されて食べ始める所でした。

digTV「#11(供述調書 後編〜矛盾〜)」より

 まず、とにかく長い。そして酷いくどさだ。
 人間はこんなに事象を細かく覚えてられない。おそらく調書を作成する時点で細かく脚色したのだろう。この元少年はYoutubeのdigTVというチャンネルに出演しているのだが、ここで話している内容は聞くとすんなり耳に入る。

「朝にバイト先のマスターに今日はカレー祭りがあって、カレー祭りのカレーを作っているのが、あそこのガレージで作ってると場所を教えてもらって、開店するちょっと前に「見てきなよ」と言われて「じゃあ行ってきます」と言って11時40から50分ぐらいやったような。ただ12時オープンやからそれまでに帰るっていうのがあったからジュース買って、タバコ吸いながら休憩がてら見てという感じですね」
「今はもうざっくりしか言えんけど、紙コップ持った林真須美さんがガレージに入っていったていう、ただそれだけ」「右手に鷲掴みでコップを持った、んで入ってきた、っていうぐらいですね今覚えてるのは」

digTV「#10(供述調書 全編)」より

あれ?
 林死刑囚がガレージに来たのは午後0時20分ごろとされている。事実をやんわりと歪曲するために何とかして辻褄を合わせるよう供述調書の上では言い訳が始まる。

①「マスターはいつも開店準備が出来ると、開店前の午前11時50分頃に、すぐ近くの自宅に着替えなどをしに帰ります。開店後の午後0時15分~20分頃の店に戻ってきており、この日も同じくらいの時間に自宅に行ったと思います」
②「店ではお客さんが早くから待っている場合には午後0時前であっても5分くらいなら早めに店を開ける事もありますが、反対にお客さんが来ていないからといって、午後0時より遅く店を開けるという事はありません。ですから、僕が店を出たのは午後0時より前に間違いありません」
③「僕は店のをドアを開けた時に若い感じの男女のカップルが開店を待つようにして立っていた事を覚えています」
④「本当は早く店に戻らないといけないのですが、店に戻れば後はずっと忙しく働かねばならず、この日は寝不足でしんどかったので、もう少しここで休憩してからマスターが戻ってくるより前に店に戻ればいいと思い、もうしばらく、その場にいることにしたのです。僕は、しゃがんだ格好で地面の方を向きました。それから僕はウトウトしてしまいました。この時にウトウトしていた時間の長さについても分かりません」
⑤「店に戻った正確な時刻は分かりません。ただ、マスターがまだ戻ってきておらず、僕は良かったと思って何事もなかったような顔をして仕事に行った事を覚えています」
⑥「また僕が店を出る時にいたカップルのお客さんの前に既にお好み焼きが出されて食べ始める所でした」

 時間に関する説明がくどい上にすごく変だ。
 マスターはいつも11時50分に着替えに戻り午後0時20分ごろに店に帰ってくるらしい。少年は午後0時より前に店を出た(客が並んでいた)が休憩中居眠りしてしまい、起きると林死刑囚を目撃する。
 店に戻るとマスターはいなかったが、客は店に入っていた(つまり午後0時を過ぎていた)要するに午後0時20分ごろであったことを言いたいのだろうが、実際のインタビューでは、

「11時40から50分ぐらいやったような。ただ12時オープンやからそれまでに帰るっていうのがあったから」

 これで充分通じる。現在マスターはすでにお亡くなりになっており、本当に毎日着替えに帰っていたのか確認する術ももうない。
しかし、店がオープンする午後0時にマスターがいないのは何ともおかしい。すでに客はお好み焼きを食べ始めるとこだったというなら、奥さんが作ったのであろうか。
 さらにこの手法で「重ねられたコップ」も脚色されているとしか思えない。

 「僕は林真須美さんが僕に見える側の「手」つまり、右手に何か物を持っているのに気づき、それで僕は「何だろう?」と思ってよく見るとそれはピンク色のコップの形をした物である事が分かりました。ピンクの色は遠くから見て白ではなく、ピンク色だと一応分かるほどの色でしたが、パッと目につくほどには濃くない程度の濃さのピンク色でした。透明のコップの中にピンク色の液体が入っているというのではなく、コップ自体に色がついているのだという事は見て分かりました。僕は林真須美さんが右手に持っているのがピンク色をした紙コップだと思いました。そして、僕が気になったのは、その紙コップの上のフチの所が随分と高さがあるように見えた事でした。フチの所がごっつい紙コップやなぁ~変な紙コップやなぁと思ってもっと良く、その紙コップをじっと見ました。林真須美さんは紙コップを持った手を前後に振らず、下にだらぁ~っと下げた状態で持っていたので、よく紙コップを観察する事が出来ました。よく見ると、その紙コップのフチが二重か三重になっているのが見え僕は紙コップが2個か3個くらい重ねられているのだという事が分かりました。」
「僕は目が良く僕の視力は、つい最近測った所「右が1.5・左が0.9」であり、色盲の検査などもしましたが、異常ありませんでした。検証の際にも林真須美さん役の刑事さんが紙コップを何個か重ねて持ちましたが、僕の位置から、その紙コップはフチが重なっている事がよく見えました」

 やはり過剰にくどい。そもそも少年が見たのはピンクのコップだ。何とかして犯行に使われた青色のコップを出演させるためには「重ねる」しかない。
 わざわざ視力の検査まで受けているが、睡眠不足の少年が「コップの縁が高い」などと詳細を不思議に思って記憶しているだろうか。それほど印象に残り詳しく記憶していたのに、その後のインタビューでは「紙コップ」としか答えていない。
 しかも、わざわざ中のコップだけ抜いて毒を入れる冷静さと計画性があるのであれば、それを会場内のゴミ箱に捨てるのもなかなか不思議だ。何だか検察側の犯人像は行動に一貫性がまるでない。

 なお、アメリカではイノセンス・プロジェクトというものがあり、239件の免罪事件の75%は不正確な目撃証言によって起こった冤罪事件と判断している。さらにその75%の中には死刑が19件もあった。

 目撃記憶とは、目撃された犯罪やその他の劇的な出来事についての、人のエピソード記憶です。司法制度は多くの場合、目撃証言に依存します。また、個人の顔の記憶、たとえば、加害者の顔を思い出してほしいという要求を指すこともあります。しかし、目撃された出来事の符号化と検索中に、その出来事の記憶の作成と維持に悪影響を与える可能性のある多くの要因が作用する可能性があるため、目撃者の記憶の正確さには疑問が持たれています。専門家は、目撃者の記憶に誤りがある可能性を示唆する証拠を発見したかもしれない。無実の人々の不当な有罪判決において、虚偽の証人の特定が大きな役割を果たしていると長い間推測されてきた。現在、この推測を裏付ける研究が増えており、偽証人の身元確認が、他のすべての要因を合わせたよりも多くの無実の人々に有罪判決をもたらす原因であることが示されている。 これは、不快な感情的出来事の詳細が、中立的な出来事に比べて記憶される頻度が低いという事実によるものと考えられます。ストレスの多い出来事やトラウマ的な出来事の際に高レベルの感情が動揺すると、記憶処理の効率が低下します。目撃者の証言が絶対的な真実とはみなされないよう、目撃者の記憶の欠陥のある性質と刑事司法制度におけるその利用に伴う困難について国民に知らせることが重要です。

イノセンス・プロジェクトより

 散々にグトツアイト法やら、X線マイクロアナライザーやらICP-AES分析やらフォトンファクトリーやら放射光分析装置やら超低温ー還元気化ー原子吸光法やらの分析結果を語ったのち、最後に棄却文は以下のように結んでいる。

 なお、所論は、本件において、請求人がカレー毒物混入事件の犯行に及ぶ動機が証拠上明らかではない以上、動機は不明ではなく、不存在というべきであり、犯人性認定の消極的事実である、というが、動機が証拠上明らかではではないことと、動機がないこと(不存在)とを同視するもので、採用の限りではない。(中略)新旧全証拠を総合して検討しても、請求人がカレー毒物混入事件の犯人であるとした確定審判決の事実認定に合理的な疑いを生じる余地はなく、新証拠はいずれも無罪を言い渡すべき明らかな新証拠に該当しないとして、新証拠はいずれも刑訴法435条6号にいう明白性を欠くとした原決定の判断は正当であって、当審において弁護人(請求人)側が提出した新証拠を併せて検討しても、この判断は動かない。

「事実認定につき職権判示をした上死刑の量刑を維持した事例(和歌山カレー毒物混入事件)」より

 ここまで有力な状況証拠とされる情報たちが怪しいにも関わらず、それでもまだ有罪が譲れないのは1100億円の御SPring-8様のお陰だ。砒素が同一起源から由来してるものという判断が全ての怪しげな状況証拠を「どうも有罪っぽく錯覚」させている。
さらに、「同一起源のドラム缶」の残りは全てどこにあるのだろうか。
 「プラスチック製容器の砒素」と「紙コップの砒素」が「同一」かどうか再鑑定をすべきだ。この事件は保険金事件やメディアがバイアスとして大きく影響していることは間違いない。様々な先入観を捨ててもう一度「本当の事実」から事件を考えなおす必要がある。
 なぜなら、もし冤罪であれば「カッとしたらヒ素を使うテロリスト」はまだ生きているからだ。

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