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「公開された映像から更にしつこく考える」泉南郡熊取町小4女児誘拐事件(14)

 遂に、事件から20年が経過した。彼女が今も生きていれば現在29歳となる。まだ20代、救い出しても社会復帰はいくらでもできる。

 YouTubeの読売テレビニュースで行方不明から20年の特集が配信されていた。そこには元捜査幹部の方が当時の捜査についてのインタビューと、元捜査員の方へのインタビューが公開されていたのだが、映像には「七山地区におけるクラウン目撃情報」「平成21年、セドリック車当たり捜査〜」と背表紙に銘が書かれた厚いファイルが写っていた。捜査当局もクラウンを唯一の手がかりとして捜査していただけでなく、クラウンによく似た車であるセドリックも捜査していたことがわかる。

 さらに、映像からは130系のクラウンだけでなく、120系クラウンも捜査しており、和泉ナンバーのみならず和歌山ナンバーも捜査していたことがわかる。

 番組内で元大阪府刑事部長が言うには「確度が高い情報として、こう言う線でこういう人がいると言うのは当時なかった」と語っており、有力な怪しい人物すらも当時ピックアップできていなかったようだ。この事件でこれまでに動員された捜査員は延べ10万9000人、寄せられた情報は5614件にもなり、ポリグラフ(嘘発見器)にかけたものも約100人ほどいたようだ。
 この動画によれば、実はクラウンに乗っていた男の顔は似顔絵は作成されていたようだ。しかし現在もその似顔絵は公開には至っていない。さらに、2万人以上の前歴者を抽出しているが、犯人に近づいていない。クラウンの目撃情報が公開されたのも10年が経過してからだった。おそらく情報がすぐに公開されなかったのは、このクラウンの情報しか手がかりと言えるものがなかったからだろう。

 頼みの綱のクラウンを犯人に処分されてしまうと彼女につながる可能性が永久に絶たれると捜査当局は感じ、憚られたのだろう。そして今もなお、手がかりはクラウンしかない。

 どうやったら、彼女に辿り着くことができるのだろうか。
 こいつは、毎日毎日空想していたはずだ。
 毎日のように、女の子を攫うことを意識していたはずだ。
 出かけた先でたまたま独りの女の子を見つけたのかもしれない。暇はいくらでもある。
 なぜなら、こいつは孤独だからだ。

 犯罪心理についての文献を日々読み漁っているのだが、日常活動理論(日常生活理論、日常運行理論、ルーティン・アクティビティ・セオリーなどと訳されることもある)からこの事件を考えてみたい。日常生活理論は、マーカス・フェルソンとローレンス・E・コーエンにより構築された犯罪機会論である。
 日常生活理論では、貧困や不平等、失業などの社会的要因により犯罪が影響を受ける度合いは小さいと仮定する。なぜなら、第二次世界大戦以降、経済も福祉も大いに成長した。にもかかわらず、犯罪も劇的に上昇した。フェルソンとコーエンが言うには、社会的繁栄が犯罪の機会を増やしたというのである。
 また、動機付けされた犯罪者とは、犯罪を敢行するだけの能力を有するだけでなく、犯罪を敢行しようとする意思を有する個人のことである。ふさわしい対象とは、犯罪者からみて弱みがあるか、格別に魅力のある人物か物品を指す。特定の対象が魅力的であるかどうかを決定する要因は、状況や問題となる罪種次第である。日常生活理論は、機会を有する者であれば誰でも犯罪を犯しうるという仮定に立っており、実際にフェルソンとコーエンは、一人で住み、一人で外出しがちで、資産を守る助けのほとんどない者の被害率が、身体犯・財産犯ともに高くなることを研究から実証している。
 犯行企図者が犯罪というオプションを抜きにして、合法的に取り得る手段だけでは目的を達成し得ないとき、動機付けは上昇しうる。犯罪を生み出すような日常活動を変化させうる抑止要因には、犯罪者の社会化や道徳的な信条がある。もしある人物が社会化されており、伝統的な信条を維持し続けるならば、犯罪の機会が眼前にあっても、その者が犯罪を行うことはないだろう。これが「社会的紐帯」の強さであり、この社会的紐帯は、犯罪的活動への誘惑に打ち勝つための緩衝材として機能する。この理論は犯罪者の視点から犯罪を考察するものであり、犯罪者がターゲットにふさわしいと判断し、有能な保護者が不在の場合にのみ犯罪が実行される。犯罪が起こるかどうかを決定するのは、実行者の状況の評価なのだ。
 この理論から考えると、友人や妻、性的パートナーを自分自身の力で得ることができない犯人の動機付けは日々孤独でいることで強化されるはずだ。さらに、子供を攫うということに実行者のモラルは刺激されず、実行者から見た認知の範囲内で目標の護衛や保護者がいないと推察されれば、いとも簡単に誘拐は起きてしまうということになる。それらの状況は「一人でいるところを見つけた」もしくは「一人になったのを見つけた」である。
 こいつは常に標的を探しており、たまたま、あるいは捜索活動の結果、彼女を発見したということになる。この理論は十分に合理的で理解できる。
 更に手がかりとなる可能性は「知っている場所で見つけたのか」または「知らない場所で見つけたのか」だ。つまりは土地勘があるのかないのかであり、それらは元々居住地が近くにあった可能性や、近くの七山病院に受診歴があったのかなどで、土地勘のあるものしか行かないような細い路地はそれらの可能性を示唆する。しかし、新潟少女監禁事件の佐藤は標的を探すにあたって土地勘のあるところで見つけておらず、たまたまドライブ中であった。宮崎勤然り、ドライブが好きで方々に出かけているうちに見つけてしまったというならば、かなり暇な奴であることは言うまでもない。

 しかし、見つけて決心し、凶行に及んだとしても、連続誘拐犯でもない限りその行動はほとんどの人間にとって初めてのはずだ。
 脅す、拐かすなどして車に乗せる必要がある。
 目撃情報では助手席に乗っていた。
 長時間何かで脅しながら助手席に乗せておくのは相当のストレスとなる。
 あまりに長い距離は走れないはずで、
 捕まえた以上は早く連れて帰りたいからだ。

目撃された地点

 何しろ、子供は制御が難しい。予想がつかない行動に出ることもしばしばだし、隣に座らせて脅迫行動を長い時間続けるのも認知的なストレスが相当にかかるだろう。いち早く自分の慣れ親しんだテリトリーに閉じ込めたいはずだ。
 そう考えると、3時間も4時間も車を走らせることはできまい。おそらく、20kmから50km圏内に犯人はいるはずだ。

対照的に犯罪者は、曲がりくねった街路や、三日月形の街路、行き止まりのある構造の街路形態を好まない。侵入口と逃走口が制限されており、犯罪者は逮捕されるリスクをより大きく背負わなければならない。

「地理的プロファイリング 凶悪犯罪者に迫る行動科学」D・キム・ロスモ著 北大路書房 2002年

 さらに、例のクラウンは事件から10年後の2014年に有力な目撃情報として公開された。この情報は2013年に寄せられたとされる。この1983年から1990年の130系クラウンは有力な捜査対象とされ、泉南地域の2300台のうち1500台の捜査は終了しているとされる。

 むしろ、こいつの乗ったクラウンをなぜ見つけることができないのだろうか。クラウンは、犯人本人の所有物なのだろうか。人間の目撃情報の記憶は当てにならない可能性もあり、もしかしたらクラウンでないかもしれない。だが、現在手がかりはこれしかない。
 そもそも、自家用車は陸運局でその登録をしている。陸運局(正式には地方運輸局)は日本全土で10機関に分かれており、近畿運輸局は滋賀、奈良、和歌山、京都、大阪であり、その全ては運輸省に属している。
 自動車を購入する際にはその自動車がどこに駐車されて、誰が保有しているのかを届け出る必要がある。届出を行わない以上はナンバーをつけることはできないからだ。転居しても、保有者の変更(売買・譲渡)にも移転登録が必要となり、これを行わない限り路上を走ることはできない。そのため車台番号や型式などから車種を絞ることができ、例えば130系クラウンなら型式「E-GS130」で登録されており、これを元に捜査機関は所有者を探しているのだろう。そのため、誰かが犯人に一時的に貸し与えたのなら所有者に聞き取りを行ってもわからないのかもしれない。
 しかし、問題のクラウンを誰かが所持している以上は道路運送車両法の第61条「自動車検査証の有効期間」に基づき、2年ごとの自動車検査(車検)受ける必要がある。犯人が私の描いたような犯人像なら、きっちりと車検を受け、所有を維持できるような能力は高くないと思われる。家族、もしくは血縁者がクラウンを所持していた可能性が高いのではないか。

 更に私が思うに、チャイルドマレスターはペドフィリアと違い目標対象と積極的に交流して社会的距離を縮める活動は上手ではないように感じる。要するに、チャイルドマレスターはコミュ障だが、ペドフィリアは会話が上手いと思うのだ。ペドフィリアの目標は長期的で一方的な性搾取と自己中な本気の恋愛だ。そのためペドフィリアは自分の好み、容姿や体型を重視するはずで、自分の理想とする少女像を追いかける傾向があるため、学校の教師や塾講師、ベビーシッターなど子供に関わる仕事に就いていることが非常に多い。子供に囲まれるのが非常に好きだし、日々子供とのコミュニケーション能力をトレーニングされているので子供に近づくのが非常に上手く、自分に関心があるとわかるとグルーミングを使いこなし、じっくりと洗脳を謀る。ペドフィリアは定義の通り「思春期もしくは初潮以前の子供を性対象とするもの」で、こいつらは一方的に誘拐し拐うというよりは、言葉巧みに呼び寄せ、グルーミングし、恋愛対象として未成年者を見て、恋愛を偽装し猥褻行為を働く奴らだ。性衝動を起源としており、犯行を繰り返す。その衝動はストレスなどが契機となっているが、自分が未成年者を対象とした変態であることを認識しているため、猥褻行為ができて明るみに出ないように慎重な行動をとる。可能であれば持続して保護者や養育者にバレずに行為を続けたいからだ。
 しかし、チャイルドマレスターはコミュ障のため、成人女性と正常な恋愛関係、信頼関係を築くのが下手だ。そのため成人女性の代替えとして子供を誘拐する。佐藤宣行然り、宮崎勤然り、成人女性と適切な行為を築けない代替え行為として、弱いものを標的とする。そして、こいつらに共通しているのは父性の不在だ。社会性を教える役割となる父性が家庭環境の中であまりにも弱い。そのため無職であることも多く、子供を探すことのできる自由な時間を持っていることが多く、社会との繋がりも薄い。
 日本は海外のように地下室を持つ家や、家と家に一定の距離があるような住宅形態ではないため、監禁しようとすると継続して入念な監視が必要となりやすい。そのため、離れや親からの介入の少ない自分だけの部屋を持っている可能性が高い。探すべきは現在40代から50代の引きこもりなのではないだろうか。

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