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こだわり

お会計をしていてお財布を開けるその手つきで
わたしは察した。
うん、少し時間がかかりそうだ。
後ろに並ぶお客さまを隣のカウンターに誘導し
同僚にお願いする。

お財布からトレーにお金を取り出す。
1枚1枚丁寧に。お札の向きを揃え
硬貨の全てが表になるようにひっくり返す。
それぞれを真ん中から綺麗に分けて置く。
ここでトレーを下げてはいけない。
きっともう一度数え直すから。
お会計が終わってもすぐに次の作業に移らない。
この人はレシートに間違いがないかを確認し
きれいに折って財布に入れて一連の流れが終わった後に目を合わせ頭を下げるから。


人の数だけこだわりがある。
やらないと気が済まない。
やらないと気持ち悪い。
やらずにはいられない。
そういう感覚は自分にもあるから
時間が許す限り寄り添っていたい。

わたしだって歪んだ机はまっすぐ直したいし
バラバラのタイトルを50音順に並べたくなる
衝動に駆られたりもする。

あの人が何故怒ったのか分からない。
なんなのあの人。意味わかんない。
同僚が嘆いている場面に出くわすたびに
こだわりについて思いを馳せる。
こだわりなんてない方が楽に生きられる。
そんなことは皆分かっている。
何それ。変なの。別にやらなくてもよくない?
そんなことは本人が一番よく分かっている。

わたしはあなたのこだわりを尊重しますよ。
常に、というわけにもいきませんが。
たった一人でもそういうひとに出会えたら
楽になることもあるから。

トレーを見つめながら心の中でそっと呟く。

全部表になりましたよ。
綺麗に揃ってますよ。
もう大丈夫ですよ。

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